事情も知らず
* 2025/5/31
意図しないコピペが紛れ込んでいたため、その部分を消去しました。(^^;)
ついでに、脱字も訂正。
竜山神社の、ご神木の側。
五寸釘の呪いを、石に移した後、古川様から小言を貰う。
冬の冷たい風がスッと吹き抜け、体がブルりと震える。
雫様が、
「他にもあんやろか?」
と木の周りを歩き始める。佳央様も、
「そうね。」
と雫様に続き、私も、その後ろを付いて歩く。
佳央様が、
「あれもじゃない?」
と指を指す。見ると、先程よりも高い位置に五寸釘が刺さっている。
微かだが、呪いも見える。
雫様が、
「こっちもあるで。」
と指摘。佳央様が、
「もう一本。」
と更に高い位置を指差す。
合計、四本の釘。
全部、呪い付いていた。
古川様が、
「あまり、・・・良い並びじゃないわ・・・ね。」
と深刻そうな顔になる。
私は、
「並びですか?」
と言葉を拾うと、古川様は、
「ええ。」
と一呼吸置き、
「呪いを強める・・・並びがあるの・・・よ。」
と説明した。私は、
「なら、残りのも石に移してしまいましょうか。」
と提案すると、古川様も、
「そう・・・ね。」
と同意する。
私は、
「では。」
と言って別の石を拾い、呪いを移した。
突然、バンと大きな音がして、
「何をやっとるか!」
と大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
見ると、古い社の扉が全開となっており、その前には異様な雰囲気の人がいた。
その姿は、地面に着かんとする長い髪と白装束。右手に大麻を持っている。
だが、その雰囲気は禍々しく、着物は純白にも拘らず、それが深い暗闇の色だと誤認させる異様な呪いを纏っていた。
顔は能面のような端正な作りをしているが、あまり生気を感じない。
そして、周囲には幾つもの、ぼんやりとした呪いのような物が浮かんでいる。
佳央様が、
「凄い呪いね。」
と一言。私も、
「はい。」
と頷いた。
ここには、子狐達の言っていた『巫女様』がいるのだろうと思っていたが、どう考えても巫女という雰囲気ではない。
──別人か?
そんな事を考えていると、蒼竜様が、
「お前が、最近、ここに住み着いたという女か。」
と声を掛けた。
呪いを纏った人がムッとした表情で、
「百年以上、住んでおるが?」
と返事をする。蒼竜様が、
「そのような筈があるまい。」
と渋い顔。呪いを纏った人は、
「そもそも、小童よ。
禰宜だか権禰宜だか知らぬが、身を弁えよ。」
と苦言を呈した。そして、私をチラリと見た後、
「主の格がいかに高かろうと、小童の振る舞いで、全部、台無しじゃぞ。」
と窘めるように言ってきた。蒼竜様が、
「主?」
と言葉を返す。
すると、呪いを纏った人は、
「違うのか?
明らかに、そちらの御仁が秀でていらっしゃるじゃろうが。」
と私の方を見た。なんとなく、後ろを振り返ってみる。
呪いを纏った人から見て、佳央様が私の斜め後ろに控えており、更に後ろに雫様がいる形。
すると、呪いを纏った人が向拝下の板間から地面に降り、頭を下げてから、
「お戯れを。」
と言った。明らかに、私に対して敬意を払っている。
つまり、呪いを纏った人もまた、私が竜の巫女様と同格というのを認識しているのだろう。
ただ、古川様や佳央様は稲荷神社の一員だが、蒼竜様や雫様までそうだと思われている模様。
だが、今はそれよりも気になった事があったので、私は、
「私の事をお知りで?」
と質問をした。すると、呪いを纏った人が、
「恐れながら、修行をしていれば誰にでも・・・。」
と逆に不思議そうにしている。私は、
「そうなので?」
と古川様に尋ねると、古川様は、
「そう・・・ね。」
と同意し、呪いを纏った人に頭を下げて、
「何故、・・・このような事に・・・なりましたので・・・しょうか?」
と尋ねた。が、私には、古川様の質問の意図が不明。
少なくとも、子狐達の居場所についてではなさそうだが、様子を見守ることにする。
呪いを纏った人は、
「この里が出来た頃、鬼門の方角にも神社があったのは知っておるじゃろう。」
と話を始めた。当然、私はそのような事は知らないが、話の腰を折るので黙っておく。
代わりに蒼竜様が、
「うむ。」
と返事をする。呪いを纏った人は、蒼竜様に強い視線を送った後、
「その神社、何者かに壊されての。
じゃが、当時の赤竜帝の盆暗が、再建どころか取り壊してしもうたのじゃ。
丁度、家臣の屋敷を建てる土地が欲しかったからとか言うてな。」
と眉根を寄せる。そして、
「そのせいでこの里は、一時期、夜な夜な魑魅魍魎で溢れ返っておったのじゃ。」
と続けた。私は、
「そうだったので?」
と聞くと、呪いを纏った人は、
「御仁は、若いゆえお知りでありませんでしたか。」
と返した。私は、
「はい。
それもありますし、まだ、この里に来て1年と経っておりませんもので。」
と説明すると、呪いを纏った人は、
「外から来たのでは、仕方ありませぬな。」
と納得顔。私が、
「それで、どのようにして、今のように穏やかな里になったのでしょうか。」
と尋ねると、呪いを纏った人は、
「穏やか。
そう見えますか。」
と少し嬉しそう。私が、
「はい。」
とやや大きめに頷くと、呪いを纏った人は、
「それはな。
このご神木に、無理をしてもらったからにございます。」
と禍々しいながらも、ご神木に申し訳なさそうな視線を送る。そして、
「先ず、ご神木に五寸釘を打ち込み、ここに瘴気が集まるように仕向けております。
それを代々、この神社の巫女が祓って対処しておりました。
じゃ・・・ですが、妾の代で稲荷神社が大きくなってしまいまして。
逆に、竜山神社には、巫女になりたいという者が、来なくなりました。」
と困り顔。私も不味さを感じ、
「それは、一大事ですね。」
と合いの手を入れる。
呪いを纏った人は、
「仰る通りです。」
と頷くと、
「ですが、里は年々、営みを大きくしようとします。
結果、祓うべき瘴気も増えて行きまして。
近頃、いよいよ、追いつかのうなって参りました。」
と説明した。あのご神木の五寸釘の呪いは、この里の繁栄に必要不可欠な物のようだ。
私は、これは怒られると思いながら、
「申し訳ありません。
事情も知らず、先ほど、ご神木の呪いをこの石に移してしまったのですが・・・。」
と謝ると、呪いを纏った人は、
「それは、問題ございません。
そろそろ、呪いを掛け直す時期でしたので。」
と苦笑い。私には掛け直せないので、
「古川様。
お願いできますか?」
と頼むと、古川様は、
「対価は、・・・どうする・・・の?」
と聞いてきた。私は、請求先だと思い、
「里の事なので・・・、赤竜帝にでしょうか?」
と確認すると、古川様は、
「ここの・・・巫女様じゃない・・・の?」
と聞き返してきた。つまり、古川様は竜山神社から金子をどのくらい貰うか、聞いていたようだ。
私は、古川様に回答する前にと思い、蒼竜様に、
「里の治安維持ですよね?」
と話を振ると、蒼竜様は、
「確かに・・・。」
と困り顔。私の意図は、伝わった様子。一応、
「掛け合ってみよう。」
と言ってくれた。私は、
「この件は、急ぎだと思います。
これから、準備をお願いしても良いですか?」
と確認すると、古川様は、
「そう・・・ね。」
と答え、少し目を瞑った。そして、
「念話、・・・まだ使えないよう・・・ね。」
と顎に指を当てると、
「金子によっては、・・・竜の巫女様や稲荷の巫女様にも・・・お願いできるかも知れない・・・わ。」
と蒼竜様を見た。蒼竜様は、
「それも・・・、伝えよう。」
と歯切れが悪い。呼べば呼ぶほど、金子が掛かるのは明白だからだろう。
私は古川様に、
「結構、大掛かりな準備になるので?」
と確認すると、古川様は、
「私の、・・・予想が正しければ・・・ね。」
と呪いを纏った人を見る。すると、呪いを纏った人は、
「何を予想しておるかは知らぬが・・・、」
と困った風に言うと、私に向き直り、
「御仁、お頼み申します。」
とお願いをしてきた。
私は、
「はっきりと約束は出来ませんが、努力いたします。」
と返し、失敗した時の予防線を張ったのだった。
今回も江戸ネタを仕込み損ねたので、作中の単語を拾って鐚錢以下の話を一つだけ。
作中、『能面』が出てきますが、こちらは能の主人公が着ける面となります。
能面と言っても、女性の面だけでも若女や小面のような柔らかな印象の面から般若のような怖い面まで、色々な面があるのですが、ここでは小面を想定しています。
江戸時代、例えば岡山藩池田家などの諸大名をはじめ、能面のコレクターはかなりいたようですが、制作については名品などの模作が中心だったらしく、新作はあまりなかった模様。
・能面
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%83%BD%E9%9D%A2&oldid=101352034
・林原美術館
https://www.hayashibara-museumofart.jp/
※コレクション > 能面




