遠慮(えんりょ)なく言うのじゃぞ
* 2025/4/12
誤記等を修正。
古川様が、谷竜稲荷から竜の巫女様が逗留する稲荷神社に向かう。
その後、私の指示で氷川様が稲荷神社の誰かに念話を始める。
待っている間、社の格子戸越しに、外の景色を眺める。
今は、雪は降っていないが、昼にしては妙に暗い。
佳央様が、
「また、降り出しそうね。」
と、ぽつり。私は、
「そうですね。」
と同意した。
会話が続かず、沈黙が流れる。
この間に、少し引っかかっていた事を考える事にする。
昨晩は、私の指示に従って、子狐達はずっとここで待っていた。
そして、午前中、白狐の下に帰る約束をした。
だと言うのに、昼を食べに屋敷に戻っている間に、子狐達はいなくなってしまった。
竜の巫女様が言うには、仲間の所に戻ろうとしているとの事。
──何が原因で、心変わりをしたというのか。
私は、これから色々と考えようと思ったのだが、
「何度か試したが、やはり通じぬな。」
と声がした。氷川様だ。
私は気持ちを切り替え、
「そうですか。
ならば、古川様が戻るまで、何も出来ませんね。」
と返すと、氷川様は、
「いやいや。
正月の準備は、出来るじゃろうが。」
と揚げ足を取ってきた。私は、もやっとした気分になったが、正論ではあるので、
「そうですね。」
と返事をした。
祝詞の練習を始める。
が、子狐達の件が気になって集中できない。
仕方がないので、声に出して読み上げる。
すると氷川様から、
「あまり聞かぬ、祝詞じゃな。」
と言い出した。ふと、竜神神社と稲荷神社で仕来りが違っていた事を思い出す。
また違っているのではないかと不安になった私は、
「聞かぬといいますと?」
質問をすると、氷川様は、
「これは、いつ上げる祝詞なのじゃ?」
と聞いてきた。私は、
「晦日です。
大祓詞と呼んでいました。」
と答えると、氷川様は、
「あぁ、あの長いやつか。」
と言った。私は、
「ひょっとして、これも違うので?」
と確認すると、氷川様は、
「判らぬ。
これは、うろ覚えじゃからな。」
と苦笑い。私は少し驚きながら、
「うろ覚えなので?」
と確認すると、氷川様は、
「これは、神主が上げるものじゃ。
下の者が、覚える必要はあるまい?」
と答えた。
私は、得心が行くとともに少しホッとして、
「それも、そうですね。」
と苦笑いした。
半刻後、古川様の気配が近づいてきた事に気がつく。
私は、
「もうすぐ、戻って来るようです。」
と言うと、佳央様も、
「そうみたいね。」
と同意する。私は、
「そろそろ、出掛ける準備でも始めましょうか。」
と提案すると、佳央様も、
「ええ。」
と片付けを始めた。
氷川様から、
「それにしても、解せぬな。」
と一言。私が、
「何がですか?」
と質問すると、氷川様は、
「念話を遮断する結界までは、まぁ、あるやもしれぬ。
じゃが、稲荷神の力を阻害する結界とは何じゃ?
よもや、天照大御神が係わっておると言うのか?」
と懸念を並べた。私は、
「私も、その点については不思議に感じておりました。
前に、稲荷神の分け御霊だけいなかった事があるのですが、それと関係もあるのかないのかとかも気になります。」
と言うと、氷川様は、
「そのような事があったのか?」
と聞き返してきた。私は、
「はい。」
と返すと、氷川様は、
「して、理由は聞いておるか?」
と確認してきた。私は、
「いえ、教えてもらえませんでした。
ただ、その時、白狐が閻魔帳のようなものを書いておりまして。
確か、上に報告するとか言っていたと思います。」
と答えると、氷川様は少し首を傾げた。そして、
「・・・なるほどの。」
と何か納得した表情。すぐ真面目な顔になり、私に、
「力が必要となった時は、遠慮なく言うのじゃぞ。
こちらにまで、害が及びかねぬからな。」
と言った。
私は、何の事かは判らなかったが、何かあるのだろうと思い、
「分かりました。
その時になったらお願いします。」
と受け答えした。
会話が終わった所で、古川様が戻ってくる。
私は、
「お帰りなさい。」
と挨拶すると、古川様も、
「只今、・・・戻った・・・わ。」
と挨拶を返した。氷川様は、
「で、どうじゃった?」
と質問をすると、古川様は、
「ご神木の場所が、・・・判った・・・わ。」
と答えた。私は、
「子狐達が、そこにいるのですね。
それで、どちらにあるので?」
と質問をすると、古川様は、
「それが、・・・城を挟んで向こう側の・・・竜山神社にあるそう・・・よ。」
と答えた。初めて聞く神社だ。
だが、佳央様は、
「あぁ。
あの小さな社?」
と思い当たる模様。私は、
「それは、どのような神社なので?」
と聞くと、佳央様は、
「この里、最初、左右対称に作られたんだって。
その名残で、ここと逆側にも、小さな社があるのよ。」
と答えた。私は、
「稲荷神社と逆側には、神社はないと思うのですが・・・。」
と指摘したが、佳央様は、
「潰れたんじゃない?
知らないけど。」
と興味なさそう。私は、
「神社が潰れるので?」
と首を傾げると、佳央様は、
「知らないわよ。」
と面倒臭そうな様子。本当に知らないなら、そんなものだ。
私は、
「では、そのうち稲荷神社の誰かに聞きましょうかね。
でも、今はその話をしている場合でもありません。」
と話を打ち切り、
「そろそろ、出発しましょうか。」
と提案した。古川様も、
「そう・・・ね。」
と同意し、古川様と佳央様、私の3人で谷竜稲荷から竜山神社に向けて出発した。
山上くん:確か、上に報告するとか言っていたと思います。
氷川様 :(上に報告という事は、人事評価という事か。)・・・なるほどの。
(上役の評価には配下の協力も必要じゃから)力が必要となった時は、遠慮なく言うのじゃぞ。
(上司の評価が低いと)こちらにまで、害が及びかねぬからな。
勿論、山上くんは分かっていませんが。(^^;)
〜〜〜
本日も短め。
江戸ネタも仕込み損ねたのですが、後書きのお休みが続いたので別の鐚錢レベルのネタを一つ。
作中、「天照大御神」が出てきますが、こちらは言わずと知れた日本の神様の総元締めで、世界でも珍しい、女性の最高神となっています。
日本神話において最初に生まれた神様は、天之御中主神と言うのだそうですが、その名が紹介されている古事記には、性別どころか何をやったかさえも書かれていない謎の神様なのだそうです。
wikiには男性のような絵が載っていますが、あれをもって男神だと思ってはいけない点に注意が必要で、独神という性別のない神様とされているようです。
この独神、「どくしん」(=独身)と読めてしまうところに面白さを感じてしまうおっさんです。(^^)
・天照大神
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A4%A9%E7%85%A7%E5%A4%A7%E7%A5%9E&oldid=104268146
・別天津神
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%88%A5%E5%A4%A9%E6%B4%A5%E7%A5%9E&oldid=104190312
・天之御中主神
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A4%A9%E4%B9%8B%E5%BE%A1%E4%B8%AD%E4%B8%BB%E7%A5%9E&oldid=104142917
・独神
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%8B%AC%E7%A5%9E&oldid=104190325