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気を回し過ぎじゃ

 屋敷から谷竜稲荷(ろくりょういなり)へと、行列を作っての移動を開始する。

 空は、相変わらずの分厚い雲。雪は、降ったり止んだりを繰り返している。


 大通りに入ると、天秤棒(てんびんぼう)(かつ)いだ人が目に入る。

 棒の両端にぶら下がっているのは、大根や人参、慈姑(くわい)等の冬野菜が入った(かご)

 見覚(みおぼ)えのある担ぎ手だなと思ったら、風見(かざみ)様だった。


 声を掛けたい所だが、今は行列を作って移動している最中。

 ぐっと我慢(がまん)して、そのまま歩き続ける。


 番屋の横を、通りかかる。

 中から大月様が出てきたので、挨拶(あいさつ)の代わりに目配せだけする。

 大月様も、軽く手を上げて答えてくれた。



 (しばら)く歩き、谷竜稲荷に到着する。

 中に入ってから祝詞(のりと)を上げ、いつものように瞑想(めいそう)に入る。


 今回も、白狐の他、稲荷神の()御霊(みたま)と、禍津日神(まがつひのかみ)の分け御霊がいる。

 稲荷神の分け御霊が、


「何やら、質問があるようじゃな。」


と声を掛けてくれた。私は、踊りの件だろうと思い、


「はい。

 朝は『田植え』と聞きましたが、田楽というのは種まきから刈り取りまでと言うではありませんか。

 私は、どこからどこまで踊ればよいのでしょうか?」


と確認した。

 すると、稲荷神の分け御霊は、


「田植えと言うたぞ?

 気を回し過ぎじゃ。」


と返事をした。そして、


「例えば、梅干しが食べたいと言うたに、梅干しどころか飯や味噌汁、()ては(なます)に焼き物まで付いてみよ。

 どう考えても、やり過ぎじゃろうが。

 それと、同じじゃ。」


と説明した。私は、


「それは、・・・確かにそうですね。」


と同意すると、稲荷神の分け御霊は、


「前例ばかりに気を取られていては、相手の欲しい物を見誤るという事じゃ。

 心せよ。」


(まと)めた。私が、


()っしゃる通りです。

 今後、気を付けます。」


と返事をすると、稲荷神の分け御霊は、


「うむ。」


と満足気に(うなづ)いた。



 白狐が、


<<そう言えば、小童(こわっぱ)よ。

  祝詞の調子はどうじゃ?>>


と質問をする。私は、何の祝詞だろうと思い、


「祝詞と言いますと?」


と確認した所、白狐は、


<<今は、大祓詞(おおはらえのことば)じゃろうが。

  もう、こちらも間がないぞ?>>


と返してきた。年末に上げるやつだ。

 私は、


「はい。

 何度か通して読む事が出来るようになりました。」


と回答すると、白狐は、


<<そうじゃな。>>


と頷いた。私の中にいるのだから、白狐も当然、知っているに違いない。

 なら、どうして確認したのかと思った所、白狐は、


<<じゃが、まだ気を抜くは早いぞ?

  なにせ、年末は()まらず上げねばならぬのじゃ。

  (よど)みなく上げられるよう、しっかり覚えるようにの。>>


と注意してきた。

 私は、『淀みなく』という部分は難しいななどと思いつつ、


頑張(がんば)ります。」


と答えた。禍津日神の分け御霊から、


「白狐が心配した意味、しっかりと考えるようにの。」


と警告をし、稲荷神の分け御霊が、


「余計な事を。」


と困り顔をする。恐らくだが、今のままでは、私は年末に大祓詞を失敗するのだろう。

 そう思った私は、


「ご助言、有難うございます。

 (きも)(めい)じます。」


と返事をし、夜に読む回数を増そうと決めたのだった。


 本日、かなり短めです。(^^;)


 作中、「天秤棒(てんびんぼう)」が出てきましたが、こちらは肩を支点に両端に荷物を()るして天秤状に担ぐための棒となります。

 江戸時代の頃は、振売(ふりうり)と言って、魚売りや野菜売り、水売り等、色々な人がこれを担いで商売をしていたようです。(あえて言うなら、江戸版の移動スーパーといった感じでしょうか)


 後、慈姑(くわい)が出てきますが、こちらは品種にもよりますが、暗い青紫から青緑くらいの色をした丸い球根で、正月の時期に白茶(しらちゃ)色っぽい芽が出た物が縁起物として売られています。

 お(せち)料理に、芽は切り落とさずに残したままで六方剝(ろっぽうむ)きにして煮た物がよく入っています。


 後、黒慈姑(くろぐわい)と言う、黒茶っぽい漆塗りのような物もあります。

 江戸時代の頃にはそれなりに栽培(さいばい)されていた模様ですが、食べるところが少ない事もあってか、wikiでも『現在では単なる雑草』と評される状態となっているようです。

 この黒慈姑、おっさん、1回だけ野菜の露店販売で見かけて買った事があります。

 この時、店のばぁさんが「くろごり」と呼んでいたのですが、ネット上でその呼称は見かけず。

 もう10年も前の話なので、記憶違いなのかもしれないと思うおっさんです。(--;)


天秤棒(てんびんぼう)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A4%A9%E7%A7%A4%E6%A3%92&oldid=103948479

振売(ふりうり)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%8C%AF%E5%A3%B2&oldid=95927348

・クワイ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%A4&oldid=98666709

・食材の切り方一覧

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%A3%9F%E6%9D%90%E3%81%AE%E5%88%87%E3%82%8A%E6%96%B9%E4%B8%80%E8%A6%A7&oldid=99304471

・クログワイ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AF%E3%82%A4&oldid=103983706

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