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『田植え』しか言われておりませんよ?

 昼食が終わり、雑談の時間となる。


 私は、


「佳織。

 見に来る必要はないのですが、今度、向拝(こうはい)(した)(おど)ることになってしまいました。」


と来ないように手を打ちつつ報告をした。すると、更科さんが、


「踊り?」


と少し驚いた表情をし、


「何を踊るの?」


と尋ねてきた。私は、


「はい。

 田植えの様子を踊るのだそうです。

 ですが、突然言われたのもあって、何をどう踊れば良いか、全く解らなくて困っています。」


と現状を話すと、更科さんは、


「お師匠(ししょう)様とか、付かないの?

 竜和舞踊(ぶよう)とかだと、指の先までどう動かすか、徹底的に見て真似(まね)るように指導してくれるけど。」


と、まるで(おおぎ)を持っているかのように、手を動かして見せた。

 私が、


綺麗(きれい)な手付きですね。」


()めると、更科さんは、


「少しだけ、習ってたから。」


とやや申し訳なさそうに言った。私は、どうしたのだろうと思いつつも、


「そうでしたか。」


と返すと、更科さんは、


「時間もないけど、何か手伝える?」


と提案してくれた。私は、


「ありがとうございます。

 ですが、稲荷神の分け御霊から、練習もしなくて良いと言われまして。

 ですので、教えてもらう訳にも、いかないのですよ。」


眉間(みけん)(しわ)を作って見せた。

 更科さんが、


「でも、田植えと言うだけじゃ、何も判らないわ。

 所作(しょさ)とか、決まってるんじゃないの?」


と不思議を通り越して困っているといった様子。だが、そのような事、私が知ろう(はず)もない。

 私は、


「あったら困るのですが・・・。」


と返し、思案顔で古川様に、


「あるのでしょうか?」


と聞いてみた。すると、古川様は、


「神楽と違って、田楽には・・・大雑把(おおざっぱ)な流れはあっても、・・・細かな仕草までは決まってない・・・かな。」


と答えた。私は、


「そうなので?」


と確認すると、古川様は、


「ええ。

 結構、・・・自由に踊ってるみたい・・・よ。」


と答えた。私は、


「そうですか。」


(うなづ)き、頭を整理しないままに、


「それで、『大雑把な流れ』と言うのは、どういった感じなのでしょうか?」


と質問をした。古川様は、


「そう・・・ね。」


と少し考え、


「普通は、・・・苗代(なわしろ)を作る所から始まって、・・・刈り取る所まで・・・ね。

 それで、・・・豊作になったと・・・田の神に感謝を伝える、・・・と言った感じ・・・かな。」


と説明した。つまり、稲作の作業を一通り踊りで再現するという事のようだ。

 素直に全部踊ると、恐らく朝から晩までかかるに違いない。

 私は、


「そうなので?

 ですが、私は『田植え』しか言われておりませんよ?」


と確認をした。

 古川様が、


「言葉の、・・・(あや)という事は・・・ないか・・・な。」


と首を(かし)げる。私は、


「それは、稲作を全て再現して踊れという事でしょうか?」


と質問をしたが、古川様は、


「どう・・・かな。」


と歯切れが悪い。私は、


「決まっていないので?」


と確認すると、古川様は、


「神様から・・・踊りを所望(しょもう)するなんて、・・・前代未聞(ぜんだいみもん)だから・・・ね。

 年明けの田楽なら・・・全部だけど、・・・今は年末・・・だし。

 その・・・。

 どういった・・・神意かも・・・判らない・・・から。」


と困り顔。

 このまま、解を持たない二人で考えていても(らち)()かないと思った私は、


「これは、聞いた方が良さそうですね。」


と提案すると、古川様も、


「それが、・・・無難・・・ね。」


と納得した様子。私が、


「では、神社に着いたら、すぐに聞いてみますね。」


と伝えると、古川様は、


「稲荷神社に、・・・聞くんじゃない・・・の?」


眉根(まゆね)()せた。考えに、齟齬(そご)があった様だ。

 私は、


「もう、時間もありませんので。」


と神様に直接聞くと伝えたのだが、古川様は、


「そうだけど、・・・安易に聞くのは・・・ちょっと・・・。」


と反対の意見。神様にお尋ねするのは、最終手段だと言いたいのだろう。

 私は、反論しようと思ったのだが、ここで佳央様から、


「もう、出掛ける頃合いじゃないの?」


と指摘。話し過ぎていた事に、気が付く。

 私は、


「そうでした!

 急いで行きましょう!」


と返し、座布団から立ち上がると、古川様も、


「そう・・・ね。」


と立ち上がり、雑談は終了したのだった。


 本日短めです。

 江戸ネタも、鐚銭以下のものとなります。


 作中、更科さんが「竜和舞踊(ぶよう)」と言っていますが、こちらは日本舞踊を言い換えたものとなります。

 で、この「日本舞踊」は、日本の伝統的な踊りの総称となりますが、実はこの言葉、明治時代に出来たものとなります。

 このため、江戸時代風と銘打っている本作では、NGだったりします。

 例によって、この世界では舞踊という言葉が既に出来ていたという事でお願いします。(^^;)


・日本舞踊

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