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また白狐の下で

 途中から氷川様も合流して、午前の作業を行う。

 外では雪が降り始めたが、紫魔法(呪い)のおかげで(やしろ)の中はそれほど寒くない。


 そろそろお昼が近くなったなという頃、古川様が、


「山上。

 子狐達の件、・・・回答が来たわ・・・よ。」


と声を掛けてきた。



 (やしろ)(すみ)にいる子狐達が、こちらに視線を向ける。

 私は、丸一日かかったのかと思ったが、古川様が、


「思ったより、・・・早かったわ・・・ね。」


と感想を言う。それを聞いた子狐達が、三者三様に一言返す。


『そうね。』

『いや、いや。』

『待たせ過ぎ。』


 私も最後の子狐と同じく待たせ過ぎだと思ったが、批判するのも悪いと思い、


「そう、言っていますよ?」


と子狐の言葉を借りて質問をした。古川様が、


「『一朝一夕で調べられない』。

 そう、・・・言っていた・・・でしょ?」


と説明する。そう言えば、昨日、答えを催促(さいそく)した時に、そのような事を言っていた。

 私は、


「そう言えば、言っていましたね。」


納得(なっとく)。そして、


「それで、どうでしたか?」


と確認をした。すると、古川様は、


「古文書に、・・・悪した悪霊として・・・(はら)ったとの・・・記載があったそう・・・よ。

 今回も同様に・・・対処すべきだと・・・言っていた・・・わ。」


と答えた。そして、


(わざわ)いの元は、・・・()った方が良いからとも・・・ね。」


と付け加える。だが、ここに来てすぐの瞑想(めいそう)の時、事前に稲荷神の()御霊(みたま)には開放する旨を伝えてある。

 私は、


「前は、祓ったのですか。」


と言って、子狐達を一瞥(いちべつ)した。


『祓うの?

 お願い!

 もうしないから!』

『仲間とも会わないから!』

『言ったって、どうせ祓うんだろ?』


 最後の1匹はいつものひねくれっぷりだが、後の2匹は反省している模様。

 私は一つ咳払(せきばら)いをし、


「この感じなら、問題なさそうですね。」


と言うと、氷川様が渋い顔になった。そして、(まく)()てるように、


「よもや、(ゆる)すと言うのではあるまいな?

 こやつら、どうせまたやるぞ?」


と厳しい口調で言ってきた。古川様から、


「氷川は、・・・もう少し丁寧(ていねい)に話して・・・ね。」


と指摘が入る。そう言えば氷川様は、最近は遠慮(えんりょ)がないが、最初は丁寧な口調だった。

 私も頷くと、氷川様は、


「今は、子狐の処遇(しょぐう)じ・・・です。」


と途中で口調だけ改めた。古川様が、


「そう・・・ね。」


と話の中身は同意したが、あまり(おだ)やかな雰囲気とは言えない。

 私は、


「話し方の件は、一旦(いったん)、置いておきましょう。」


と間に入った。そして、


「それで、先ずは子狐達の件についてです。

 今回、氷川様を迷子にさせたわけですが、この程度の悪戯(いたずら)で祓うというのは、(いささ)かやり過ぎに思います。

 一晩、ここで反省もして貰いました。

 ですので、次はともかく、今回に限っては、これで許す事にします。」


と宣言した。氷川様が、明らかに不機嫌な顔になる。


『本当?』

『やった!』

『条件はあるの?』


 子狐達は、2匹は手放しで喜んでいるが、最後の1匹だけは、まだ疑っている様子。

 私は、今にも怒り出しそうな氷川様に、


「今回だけです。」


我慢(がまん)をお願いし、子狐達に、


「一先ず、条件は設けないことにします。

 ですが、次は容赦(ようしゃ)しませんので、そのつもりでいて下さい。」


と返事をした。そして、


「ただ、また悪さをしないよう、白狐の下に帰ってくれると助かります。」


と事実上の条件を付け加える。


『分かった。』

『そうする。』

『嘘つきめ!』


 念の為、私が、


「帰らないので?」


と確認すると、子狐が、


『帰らぬとは言ってない。』


不貞腐(ふてくさ)れるように言った。

 1匹、文句は付けているが、3匹とも元に収まる事を了承。

 私は笑顔で、


「そうですか。

 では、また白狐の下でお願いしますね。」


と伝えた。



 子狐達の件が落着した後、少し早いが屋敷に戻る事にする。

 雪の中、社の外に出て、行列を作る。

 朝よりも雪が積もっているので、歩みも遅くなる。


 左へ、左へと()れながら、屋敷に向けて歩いていく。

 大通りに出ると、昨日と比べて雪が降っていないからか、それなりに人通りがあった。

 古川様から、またしても除雪していない所を歩くよう、指示が出る。


 途中、大通りで湯釜(ゆがま)(きね)(かつ)ぎ、大きな(うす)を転がしている集団を見かける。

 余程(よほど)(いそ)しいのか、全員が急ぎ足だ。

 臼が通った後は、雪がぺちゃんこに潰れて(たいら)になっている。


 そのすぐ後ろを、高く荷物を背負った人が歩いている。

 荷物の横には、貸本の看板が出ている。

 あれだけ大きな荷物だ。

 普通の雪道ならば、足を取られて荷を倒してしまいそうなので、上手い所を見つけたものだと感心する。


 大通りから、小路(こうじ)に入っていく。

 人通りが少ない道は、殆ど除雪されていない。

 そのせいで、(ひざ)より上まで雪が積もっている。

 そんな道を、黄色魔法(身体強化)で無理やり歩いていく。

 (ようや)く屋敷に戻ったときには、汗だくになっていた。



 玄関の前で祝詞(のりと)を上げ、行列を終える。

 玄関に入り、すすぎのために下女の人から湯気の立つ(おけ)を受け取る。

 折角(せっかく)のお湯なので、霜焼(しもやけ)けにならないよう、しっかりと湯の中で指先を()みほぐしておく。


 すすぎが終わりかけた頃、更科さんがやってくる。

 そして、


「おかえり、和人。」


と声を掛けてきた。私も、


只今(ただいま)、帰りました。」


挨拶(あいさつ)を返すと、更科さんは、


「外、まだ雪、降ってるね。」


と心配そうに言ってきた。私も、


「はい。」


と同意し、


「午後も、ずっと降っていそうですよね。」


と予想を話す。更科さんも、


「そうね。」


と頷く。私はこのまま会話を続けようと思ったのだが、隣の氷川様から、


「それは良い。」


と声が聞こえてきた。

 私は、


「どうしたので?」


と確認すると、氷川様が、


「もう、昼食の準備が整っておるそうじゃ。」


と説明した。雪道で体力を使ったので、私もお腹が空いている。

 私が、


「直ぐに食べられるのですね。」


と喜ぶと、更科さんも、


「良かったね。」


と笑顔。、私は、


「はい。」


と同意した。



 急いですすぎを終わらせ、着替えてから座敷に向かう。

 私達が到着すると、直ぐに下女の人が(ぜん)を運んできてくれた。


 その膳の上には、紅白なます、(くず)れた豆腐(とうふ)玉子綴(たまごと)じにした物、白菜のお漬物、長葱(ながねぎ)のおみそ汁と白ご飯が乗っていた。

 私が更科さんに小声で、


「これ、下に落として崩れたような豆腐が入っていますが、こういう料理なのでしょうかね?」


と質問をすると、更科さんは、


「多分、そうなんじゃない?」


と返事をした。が、あまり自信がなかったのだろう。

 更科さんは、


「多分。」


と付け加えた。

 私は、


「実家ならともかく、ここで落とした物なんて、出てきませんよね。」


と自分を納得させるように言うと、佳央様が、


「いくら貧乏でも、落とした豆腐は駄目(だめ)じゃない?」


と苦笑い。私は、


「いえ。

 まぁ、そうなのですが。

 実家では、落とした握り飯も『土を払えば大丈夫』とか言って、食べさせられましたもので・・・。」


と説明をした。更科さんが、


「そうなんだ・・・。」


と困り顔。私は、失敗したなと思いながら、


「まぁ、この話は置いておいて、お昼をいただきましょう。」


と言うと、佳央様も、


「そうね。」


と同意した。

 下女の人が、


「申し訳ありません。

 こちらの豆腐料理について、お勝手に聞いてまいりました。」


と声を掛けてきた。佳央様が、


「そうなの?」


と返すと、下女の人は、


「はい。

 こちらは、味が染みるように、わざと手で潰してあるのだそうにございます。

 落とした分けではございませんので、安心してお召し上がり下さい。」


と説明した。佳央様は、


「そうなんだ。

 色々、工夫するものね。」


と返したが、下女の人は、


「はい。

 ですが、見目が悪いのはその通りにございます。

 ですので、今後、もう一段の工夫をすると申しておりました。」


と付け加えた。佳央様は、


「分かったわ。」


と返事をした。

 私は、余計な事を聞いて手間を取らせてしまったなと思ったが、それは言わずに飯を口にしたのだった。


 作中、「湯釜や(きね)(かつ)ぎ、大きな(うす)を転がしている集団」が出てきますが、こちらは()()(もち)の事となります。

 この引き摺り餅、江戸の町では年末の風物詩だったようで、臼を転がしながら客先を訪問するところから、このように呼ばれていたのだそうです。

 大店(おおだな)などの景気の良い店や家が呼ぶので、呼ぶ事が一種のステータスとなっていたのだとか。(出典注意)


 後、作中の「(くず)れた豆腐(とうふ)玉子綴(たまごと)じにした物」は、小竹葉(おざさ)とうふを想定しています。

 豆腐百珍からの出典で、焼きたての豆腐を掴んで崩し、醤油で()えてから玉子綴じにし、山椒を振った料理となります。

 が、調べているうちに「玉子綴じ」の解釈が揺れている事が判明。

 おっさん、豆腐百珍の記載からニラ玉系の玉子綴じを連想しましたが、webを調べると、出汁醤油で煮て玉子を加えて綴る親子丼系のものが多く出て来ました。

 どちらが豆腐百珍のレシピかは不明のままですが、親子丼系のは、ご飯に乗せて丼物にして食べても美味しそうだなと思ったおっさんでした。(^^;)


・米穀店

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%B1%B3%E7%A9%80%E5%BA%97&oldid=102577621

・かつらかさね

 https://dl.ndl.go.jp/pid/1288376/1/33

 ↑餅()きの風景を描いた戯画が載っている

・豆腐百珍 - 小竹葉とうふ

 https://dl.ndl.go.jp/pid/2536494/1/23

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