躍りを披露する事になった
*2025/3/16
鉤括弧が消えていた所があったので、追加しました。
朝食が終わった後は、行列を作って谷竜稲荷に行かなければならない。
屋敷から外に出ると、1分程の雪玉が少しだけ降っていた。
量は少ないが、本当に寒い日にしか降らない奴だ。
目一杯の黄色魔法で、寒さに耐えられるようにする。
古川様、佳央様と行列を作り、移動を始める。
道には昨夜降った新雪がそのままで、3尺程積もっている。
普通ならば大きく足を上げて歩く所だが、行列の仕来りで足捌きが決まっている。
結果、雪を沓で退けながら歩く羽目になる。
──この仕来りも、朝食の様に不要という事はないか?
私はそのように疑いながら、黙々と歩いた。
大通りに出ると、あちらこちらで除雪されている所が目に入る。
店の前を、小僧が出て除雪しているのだ。
樽に張った氷を割っている小僧もいる。
これで少しは楽が出来ると思ったのだが、古川様から、新雪の部分を歩くようにとの指示が出る。
何でわざわざ面倒な方をと思ったが、仕来りの可能性を考えて、仕方なく沓で雪を掻き分けて歩く。
──一時が万事。
朝食の件のせいで、どの仕来りも疑わしく思えてくる。
私は、谷竜稲荷に着いたら、これも確認しようと思いながら、今までどおりの所作で歩みを進めた。
谷竜稲荷に着いて、周りを見回す。
昨日の子狐達がいたので、一つ頷いて見せる。
先ずは祝詞を上げる。
次に瞑想を始めると、いつも通り、目の前に白狐が現れた。
隣には、掌の大きさの女の子と男の子が座っている。
昨夜はいなかった稲荷神の分け御霊が、今はいるようだ。
白狐が、
<<何やら、次から次へと疑っているようじゃのぅ。>>
と声を掛けてきた。私は、
「はい。」
と答えると、白狐は、
<<まぁ、小童の気持ちも解らんでもない。>>
と理解を示した。しかし、
<<だが、じゃから言って、あの気の入っておらぬ祝詞はいかぬ。
仮に不要だったとしても、不敬じゃ。>>
と叱られた。祝詞を上げる相手は、神様。
適当に祝詞を上げる行為は、神様を適当に扱った事になる。
私は、急いで稲荷神の分け御霊に、
「申し訳ありません。」
と謝ると、白狐から、
<<本当に、反省しておるか?>>
と指摘された。私は、
「勿論です。」
と返事をすると、稲荷神の分け御霊から、
「まぁ、良いじゃろう。」
と不問にしてくれる様子。私は、助かったと思いながら、
「ありがとうございます。」
とお礼を伝えた。
一先ず、話題を変える事にする。
私は、
「ところで、稲荷神の分け御霊様。
子狐達についてですが、ここで一晩反省させたので、これで解放しようと思っております。
これで良ろしいでしょうか?」
と聞いてみた。すると、稲荷神の分け御霊も、
「今回は、まぁ祓う程のものでもなかったからな。」
と納得してみせた。だが、
「しかし、何やら稲荷神社に問い合わせておらなんだか?」
と指摘してきた。私は、そうだったと思い、
「はい。
ですので、まだ子狐達には伝えておりません。
回答を聞いてから、そうしようと考えております。」
と言い訳をすると、白狐から、
<<筒抜けじゃぞ。>>
と指摘を受けた。私は、そうだったと思い、
「申し訳ありません。」
と苦笑いした。
次の質問に移ることにする。
私は、
「次に、これも問い合わせてはいるのですが、次に火付けがいつ起こるか、ご存じありませんか?」
と聞いてみた。
すると、稲荷神の分け御霊はやや上を向き、急に眉間に皺を作ると、
「勘か?」
と困惑気味に聞いてきた。
私は、
「昨晩、偶々思い出しまして。」
と正直に答えると、稲荷神の分け御霊は、
「晦前に、仕掛けてくるようじゃな。」
と教えてくれた。私は、
「何をすれば、防げるのでしょうか?」
と聞くと、稲荷神の分け御霊は、
「25の日に、神楽を納めよ。
さすれば、も少し詳細に分かるやも知れぬ。」
と無理な事を言い出した。
私は、
「神楽と言うと、躍りですよね。
無茶を言わないで下さい。」
と断ったが、白狐が、
<<確か、世間では躍りのと呼ばれておったじゃろう。
披露すれば良かろうに。>>
と私の二つ名を引き合いに出す。
だが、あれは土竜と大真面目に戦った結果だ。
私は、
「躍りなど、披露しておりません。
あれは、周りが勘違いしただけです。」
ときっぱりと否定した。
稲荷神の分け御霊が、
「ふむ。」
と少し考え、
「冬ではあるが、田植えの様子をやってみよ。
ただし、時折、烏が邪魔をしにくる奴じゃ。」
と笑った。私は、何が見えているのだろうと思いながら、
「田植えと烏ですか?」
と聞き返すと、稲荷神の分け御霊は、
「そうじゃ。」
と頷き、
「練習は、せずとも良い。
周囲に伝える必要もない。
ただ、ここは神楽殿はないからのぅ。
代わりに、向拝の下でやるのじゃ。」
と説明した。私は、
「分かりましたが、踊れませんよ?」
ともう一度念を押すと、稲荷神の分け御霊は、
「よい、よい。
形になっておらぬのが良いのじゃ。」
と軽く答えた。
──そんな躍りで失礼ではないか?
私はそう思ったが、見せる本人が良いと言っているので、
「分かりました。」
と了承したのだった。
本日も短めです。( ´~`)
作中、「樽に張った氷を割っている小僧」が出てきますが、ここで言う小僧は丁稚奉公している子供の意となります。
この小僧、元々は大僧に対して未熟なお坊さんを指して小僧と呼んだものだったそうですが、これが平安時代に単に未熟という意味で使われるようになり、江戸時代ころに(ろくでもない事をする)男の子や丁稚奉公の男の子を指して使われるようになったのだそうで、この延長線で単に男の子を指す言葉になったのだそうです。
そういえば小僧という言葉、昔はもう少し聞いた気もするのですが、最近は元外食日本一の某持ち帰り寿司専門店くらいでしか聞かなくなったなと思うおっさんでした。
(wikiには、ねずみ小僧や小便小僧とかも出ていましたが)
・小僧
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%B0%8F%E5%83%A7&oldid=87397121
・教訓善悪子僧揃
https://dl.ndl.go.jp/pid/9367566/1/5
・小僧寿し
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%B0%8F%E5%83%A7%E5%AF%BF%E3%81%97&oldid=102077445




