それを読めば良い
* 2025/01/24
白狐の会話のカギカッコが間違っていたので修正
ぼんやりした意識の中、目の前に影が2つ。
まだはっきりとは見えないが、大きさや輪郭から、一つは白狐で、もう一つは禍津日神の分け御霊のようだ。
最近は、よく稲荷神の分け御霊もいるのだが、今日はいない模様。
二人の存在を意識すると、姿がはっきりと見えてくる。
その白狐、何故か大福帳のようなものを付けていた。
私は、書き物とは珍しいと思いつつ、
「何を書いているので?」
と質問をした。
白狐が、
<<これか?>>
と質問で返す。私が、
「はい。」
と頷くと、白狐は、
<<これは、小童の行動をな。>>
と答え、ニヤリと笑うと、
<<まぁ、俗に言う閻魔帳のようなものじゃ。>>
と不穏な事を言い出した。私は、
「あの閻魔帳ですか?」
と聞き返したが、白狐は、
<<まぁ、そのようなものじゃ。>>
と自分で言ったにも拘らず、誤魔化してきた。
私はもやっとしたので、
「そうですか。」
と返し、
「それで、その帳面をどう使うので?」
と聞いてみた。白狐が、
<<うむ。
現状の山上を、上に報告するのじゃ。>>
と答えた。上というのは、稲荷神の事だろう。
私は少し怖さを感じながら、
「何を報告するので?」
と質問をした。
すると、白狐は、
<<まぁ、所謂、不幸自慢じゃな。>>
と答えた。私は、
「どのような悪さをしていたか、とかではなくてですか?」
と首を傾げると、白狐は、
<<そうじゃ。>>
と肯定した。そして、
<<が、これ以上言えば、影響が出るやもしれぬ。
ここまでじゃ。>>
と付け加え、帳面を閉じる。私は、
「影響と言いますと?」
と確認したが、白狐は、
<<聞いて後悔するは、小童ぞ?>>
と渋い顔。聞けば、私に災いか何かが降りかかるという事なのだろうか?
私は、
「分かりました。」
と引き下がる事にした。
白狐の書き物が気になったので、先にその話を聞いたが、今日は、聞いておきたい事がある。
私は、
「ところで、子狐達についてですが、あれはどのようにすればよいでしょうか?」
と質問をした。だが、白狐は、
<<その件は、小童に任されておったじゃろうが。
自分で考えよ。>>
とそっけない。だが、私は、
「一応、今日は社で謹慎してもらいました。
ですが、この後、どのようにすればよいか見当も付きません。
何か、『昔、どのようにした』だとか、そういった話はありませんか?」
と続けた。白狐は、
<<くどいぞ?>>
と一言。そして、
<<妾とて、手助けはしてやりたいのじゃ。
じゃが、そうすれば稲荷神が見過ごさぬじゃろう。
分かるか?
小童よ。>>
と付け加えた。ここで言う手助けの対象は、私の事か。それとも、子狐達の事か。
いずれにしても、神意に背くような事は避けたいという事なのだろう。
私は、
「稲荷神様がですか・・・。」
と引き下がらざるを得なかった。
──だが、同じ神なら、どうだろうか?
そう考えた私は、
「恐れ入ります。
禍津日神の分け御霊様は、どのようにお考えで?」
と聞いてみた。だが、禍津日神の分け御霊は、
「それは、稲荷の内々で完結すべき話。
そこに口出しするは、稲荷神を軽んじた事となる。
分かるな?」
と諭すような口調。
私は、やはり駄目だったかと思いながら、
「申し訳ありません。」
と謝った。
とは言え、何でも良いので、参考になる話を聞きたい。
私は、
「稲荷神の分け御霊がいらっしゃれば、話を聞きたかったのですが・・・。」
と困ってみせた。
禍津日神の分け御霊が、
「そういった事例を、人間は事ある毎に書物にしておる。
それを読めば良いではないか。」
と教えてくれた。私は、
「ありがとうございます。」
と感謝を伝え、
「それで、その書物は、どちらにあるので?」
と尋ねてみた。が、白狐に、
<<恐れ多いじゃろうが!>>
と止められた。私は、良い所だったのにと思ったが、
「申し訳ありません。」
と謝った。そして、
「白狐は、ご存知で?」
と聞いてみたが、白狐は、
<<そのような事、古川とやらにでも聞けばよいじゃろうが。>>
とご立腹。だが、一応、答えてくれた。
私は、一筋の光明が差したと思いながら、
「はい。
そうします。」
と答えたのだった。
本日も短めです(--;)
作中、「大福帳」が出てきますが、こちらは紙を紐で束ねて作った帳簿で、商人がお客さんに掛け売りをした時、これに誰がいくら買ったかを記録していました。
元は大帳などと呼ばれていましたが、験を担いで大福帳と呼ばれるようになったそうです。
江戸時代の頃は極月払い(年末払いの)や節季払い(年2回払い)での取引が一般的でしたが、商人達はこの大福帳を見ながら集金して回ったのだとか。
あと、閻魔帳はその人の生涯をまとめた帳面となります。
閻魔様が地獄に送るか決める法定で、これを見て生前に罪を犯していないか確認するのだそうです。
・大福帳
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・掛取引
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・閻魔
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