流石に手抜きがバレる
着替えが終わり、玄関まで移動する。
上がり框に腰を掛け、沓と、その下にかんじきを履く。
玄関まで見送りに来た更科さんが、
「早めに帰ってきてね。
また、降り出したら大変だから。」
と心配してくれた。私も、出来ればそうしたいと思いながら、
「はい。
なるべく、そうします。」
と返事をすると、更科さんは、
「うん。」
と少し嬉しそうに頷いた。
玄関から、外に出る。
今は、雪は降っていない。
だが、空は一面の分厚い雲。いつ降り出しても、おかしくない。
私は、
「持ちますかね。」
と佳央様に聞いた。すると、佳央様は、
「神社に着くまで?」
と確認してきた。私は、
「いえ、それも気になりますが、帰るまです。」
と聞きたかった頃合いを伝えると、佳央様は、
「帰りまでなら、多分、持たないと思うわ。」
と返した。私は、
「やはり、そうですよね。」
と納得し、そう言えばと思い出し、
「なら、蓑を持っていきませんか?」
と提案した。佳央様が、
「そう言えば、帰りがけに欲しいって言ってたわね。」
と思い出してくれた。しかし、
「でも、それなら帰った時に言って。
準備もあるんだから。」
とお小言を貰ってしまった。確かに、出掛け際にお願いするのは、配慮が不足していた。
私は、
「済みません。」
と段取りの悪さを謝ると、下女の人が、
「こちらをどうぞ。」
と声を掛けてきた。声の方を見ると、下女の人が蓑を4枚持っている。
佳央様は、
「ええ。」
と言って受け取ると、
「ご苦労。」
と労いの言葉を掛けた。下女の人が、
「恐れ入ります。」
と返し、下がっていく。
佳央様は、
「これで良い?」
と確認したので私も、
「はい。」
と頷いた。
更科さんに、
「では、行ってきます。」
と挨拶をして、玄関の前で行列を作る。
構成は、古川様、氷川様、佳央様と私の4人。
今日は、あまり人とすれ違わないだろうと思いながら、足を進めた。
町中で雪の上を歩くと、少し、違和感を感じる。
雪が積もる厚みの分、普段よりも高い位置を歩く事になるからだ。
道に沿って立つ塀。天辺までの距離が近い。
角を曲がり、竜帝城に続く大通りに入る。
ここもまだ、除雪が出来ていない。
店の屋根や看板が、大きく見える。
ただ、町全体が大柄な竜人用に作られているので、これらが頭に当たるといった心配はない。
時折、ドサッ、ドサッと音が聞こえてくる。
屋根の、雪下ろしだ。
稀にだが、これをやっている最中、足を滑らせて屋根から落ちる人が出る。
竜人ならともかく、人の場合、これで死ぬ事もある。
どちら様も無事故で終われば良いな、などと願いながら歩みを進める。
このような大雪でも、開いている所がある。
番所だ。
その番所から、見回りの役人が出てくる。
こんな日くらい、休めば良いのにと思う。
あれや、これや考えている内に、谷竜稲荷に到着する。
古川様に雪べらを出してもらい、向拝に積もった雪を片付ける。
それから社の中に入り、午後の作業に取り掛かった。
途中、古川様が、
「一旦、・・・休憩を入れよう・・・か。」
と提案する。私も、丁度藁で亀を編み終えた所だったので、
「はい。」
と返事をした。
佳央様が、
「そういえば、来る途中、一本ただらの足跡、なかった?」
と聞いてきた。私は、
「一本だたらですか?」
と聞き返すと、佳央様は、
「ええ。
知らない?」
と確認してきた。私は、
「いえ、聞いたこともありません。」
と返すと、古川様が、
「そう?
片足だけ、・・・足跡を残す・・・妖怪・・・よ?」
と質問をする。佳央様も、
「ええ。」
と同意した。だが、私が知っている『雪に片足だけの足跡を残す』と言う妖怪は、一本ただらではない。
私が、
「それは、雪入道では?」
と確認すると、古川様が、
「そう呼ぶ、・・・村もある・・・かな。」
とよく解らない返事。私は、
「呼び方が違うので?」
と確認すると、古川様は、
「ええ。」
と同意した。なんとも不思議な話だが、私だって和人から広人に名前が変わった。
そういう事もあるのかもしれない。
私はそう思いながら、
「所変われば品変わるというやつですか。」
と納得した。
午後の作業を、再開する。
作業内容は、私は相変わらずの亀のお守り作り。
一方、他の3人は、破魔矢を作り始めた。
佳央様が棒を作り、氷川様が羽を差し込み、古川様が鏃を付けている。
途中、私が氷川様に、
「流石、本職ですね。
手早く羽を差し込んでいるのに、きちんと仕上がっています。
きっと、遠くまで飛ぶのでしょうね。」
と褒めたのだが、氷川様は、
「いやいや。
そのような事、あろう筈がない。」
と否定。謙遜と思ったのだが、
「そもそも、誰も飛ばさぬ矢じゃ。
故に、見目だけ良ければよい。」
と付け加えた。確かに、小さな子供が矢を射る真似事をして、怒られている所しか見た事がない。
私は、それで良いのだろうかと思いながら、
「いや、まぁ・・・。」
と苦笑した。古川様も苦笑いしているので、そういう物なのだろう。
佳央様が、
「それなら、私も真面目に作ってたけど、多少曲がってても良かったのね。」
と作りかけの矢の棒を振って見せた。
だが、氷川様は、
「いやいや。
それは、流石に手抜きがバレる。」
と眉根を寄せる。佳央様は、
「それ、面倒な方を押し付けたって事?」
と問いかけると、氷川様h、
「まさか。
羽には、紫魔法を掛けておるのじゃ。
代わりは出来まい?」
と返事をした。魔法が必要なのであれば、佳央様に交代は無理だろう。
佳央様も同じ結論のようで、
「なら、仕方ないわね。」
と引き下がっていた。
作業の区切りが良い所で、今日の作業を終わりにする。
天気が気になり、社の外を確認する。
相変わらずの、雪が降り出しそうな天気。
私は、このまま帰るまで持ってくれないかなと思った。
今回も、少し短めです。
(今回も無理矢理感満タンですが)作中、「一本だたら」や「雪入道」が出てきますが、こちらは一本足で1つ目の妖怪となります。
ただ、地方によって呼称も姿形も様々で、本話に出てきた「一本だたら」は和歌山は熊野地方で、「雪入道」は富山や岐阜等に伝わる呼び方なのだそうです。
出世魚など、地方によって名称が変化するのはお約束ですが、これも本当に同じものなのだろうかとおっさんも思います。(--;)
・一本だたら
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