子狐の裏に
吹雪の中、氷川様を探すために社の外に出た古川様と私だったが、思いの外近くで見つける事が出来た。
そして、例の呪いというか、子狐も発見。
谷竜稲荷へと戻り、外は寒いので、雪を軽く払ってから社に入る。
私は、
「只今、戻りました。」
と挨拶をすると、佳央様から、
「まだ雪、沢山ついてるわよ。」
と指摘された。
私は、
「吹雪でしたから。」
と返したが、佳央様は、
「もうちょっと払ってから入らないと、床、ビショビショになるじゃない。」
と先程の指摘を補足した。先程、私は雪を払うのを手抜きした。
私は、
「そういう意味ですか。」
と納得したが、今から又、外には出たくない。
私は、
「今度からそうします。」
と返事をした。そして、古川様や氷川様もすぐに社に入っていったので同じだろうと思い、
「二人は良いのですか?」
と指摘したが、見れば二人共、雪はあまり付いていない。
私が、
「あれっ?」
と変な声を出すと、佳央様が、
「丁寧さが足りないのよ。」
とやや苦笑い。
私もそのようだと思い、
「すみません。」
と謝った。
が、ここで氷川様が、
「雪除けは、学んでおらなんだか?」
と私に質問をする。
私は、
「雪除けと言いますと?」
と解説をお願いすると、古川様が、
「雪は、・・・呪いで・・・付きにくく出来るの・・・よ。」
と答えてくれた。私は、
「私にも、出来るでしょうか?」
と確認したのだが、古川様は、
「今は無理・・・かな。」
と否定。重さ魔法で呪いを集める事しか出来ない私には、難しいという判断なのだろう。
私も、
「やはり、そうですか。」
と納得した。
佳央様が手ぬぐいを出してくれたので、それを受け取って顔や頭の水気を拭い取る。
一段落したので、子狐達に目を遣る。
稲荷神の分け御霊から、これら(?)の悪戯に対する処遇を任されたからだ。
だが、私は裁いた経験どころか、見た事もない。
私は困り顔で、
「さて。」
と呟いた。
『怒こってる?』
『どうして?』
『みんなやってるのに!』
子狐達は、勘違いしているようだ。
そして、本人達にも、悪い事をしたという自覚はあるようだ。
私は、
「皆がやっていれば、自分もやって良いので?」
と指摘した。
『怒ってるね。』
『少しなのにね。』
『心、狭くない?』
やや、イラッとする。
私は、
「人を困らせるのは、楽しいですか?」
と質問した。
『楽しい。』
『当然。』
『みんな、喜ぶ!』
小さい頃、自分も悪戯が楽しかった事を思い出す。
私は、そうだったと溜息を吐いたが、悪戯をされた側は喜ぶ訳がない。
私は、
「楽しいですか。」
と前半は肯定。だが、
「でも、困らされた人は喜びませんよ?」
と、最後の部分は否定した。
『うん。』
『当たり前。』
『喜んだら変態!』
確かに、その通りだ。
だが、それならば誰が喜ぶと言ったのだろうか?
私は、
「なら、『みんな』とは誰の事ですか?」
と確認した。
『みんなは、みんな!』
『黙って!』
『仲間を売れるか!』
これでは、全く分からない。
私は、
「仲間ですか・・・。」
と呟いた。
仲間と言うのは、普通に考えれば、遊び仲間。子狐達と似た存在なのだろう。
──だが、本当にそうなのだろうか?
私は、もう少し材料が集まらないかと思い、
「いつも、仲間と話すので?」
と話を促した。
『うん!
いつも!』
『だから、黙って!』
『祓われる!』
祓われると言った子狐は、若干怯えているように見える。
その原因を考えて、一つの推測が頭をよぎる。
──子狐達は何かの組織に入っていて、裏切ったら祓うぞと脅されているという事はないだろうか?
私は、
「何かあったら祓われるような所も、嫌でしょう。」
と指摘し、
「こちらには、白狐がいます。
戻ってきませんか?」
と誘ってみた。
『どう思う?』
『白狐じゃ無理。』
『どちらについても、祓われる運命。』
子狐達が、悲観し始めた。
私の推測は、的外れではない様子。
もう少しで話しそうなので、私は、
「私と、どちらが強いと思いますか?」
と確認してみた。
『巫女様?』
『巫女様!』
『こらっ!』
子狐達に、ボロが出た。
どうやら、裏には巫女様がいるらしい。
だが、ここで言う巫女様とは、一体誰の事を指すのだろうか?
正式な巫女様は竜の巫女様と稲荷の巫女様の二人。
だが、二人共、悪戯を指示するようには思えない。
私は、
「巫女様ですか・・・。」
と首を捻った。だが、一人で考えても答えは出ない。
私は古川様に、
「悪戯をさせるような巫女様に、心当たりはありませんか?」
確認してみた。だが、古川様は、
「分からない・・・わ。」
と知らない様子。念の為、
「氷川様は如何ですか?」
と確認したが、氷川様も、
「他里ならばともかく、この里にはおらぬな。」
と断言した。だとすると、子狐達が嘘をついている事になる。
──だが、嘘をつくにしても、わざわざ『巫女様』という言葉を使うだろうか?
頭の中が、疑問で一杯になる。
色々と考えていると、以前、稲荷の巫女様を装って夢に出てきた者がいた事を思い出した。
私は、
「例えば狐講に、そういった人物はいませんか?」
と確認すると、氷川様は、首を捻りながら、
「聞いた事もない。」
と否定した。
謎の組織と、それを率いる巫女様と呼ばれる人物。
私は、これを誰に相談すればよいのだろうかと、眉間に皺を寄せて考えたのだった。
本日、短めです。
作中、「手ぬぐい」が出てきます。こちらは現代でも使われるので皆様ご存知と思いますが、麻や木綿の生地を切って作ったタオルのようなものとなります。
以前、『雷に打たれて』の時に手ぬぐいで頬かむりをして雨よけにしていましたが、本来は本話に出てくるように手や顔についた水を拭き取ったり、風呂で体を洗うために使います。
この手ぬぐい、江戸時代の頃は、幅の方は概ね一幅(呉服尺の1尺)となりますが、長さの方は3尺〜9尺とまちまちだったのだそうです。これは、手拭いが着物を作った残りの生地でよく作られており、特に規格もなかったのからなのだとか。
ただ、9尺は人間の身長と比べても明らかに長いので、ちょっと使い辛そうだなと思うおっさんです。
因みに、呉服尺は本物語で採用している曲尺の1.2倍の長さとなります。
・手拭
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・幅
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・尺
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