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紅野様に依頼する事になった

 紅野様との夕餉(ゆうげ)が続く。

 紅野様が酒を所望(しょもう)し、銚子(ちょうし)がやって来る。


 紅野様が、


「しかし、今日は季節外れの(たけのこ)

 誰が持って参ったのじゃ?」


と下女の人に問う。

 下女の人は、


「庭の竹林(ちくりん)にて、採った物にございます。」


と説明すると、佳央様も、


「吹雪く前に、和人とね。」


と一言。紅野様は、


「山上とな?」


と首を(ひね)る。すると佳央様は、


「そうよ。

 和人は、青魔法(植物魔法)が使えるから。」


と説明した。私も、


青魔法(植物魔法)は、重さ魔法で集める事が出来まして。」


と付け加える。紅野様は、


「重さ魔法で、青魔法(植物魔法)?」


と少し考える。そして、


「あまり聞かぬ組み合わせじゃな。」


と眉根を寄せ、


「じゃが、青魔法(植物魔法)が使えるのか。

 ならば、筍に限らず、種さえあれば、いずれの季節の植物も育てられるという事か?」


と確認した。私は、


「どのような作物でもかは判りませんが、一応、その(はず)です。」


と答えた。佳央様が、


「『体力の実』とか『速さの実』も育ててたわよ。」


とドヤ顔で言うと、更科さんが、


「河原で、蒼竜様やニコラ様だっけ? と実験した時ね。」


と懐かしい名前を出してきた。私は、


「そうでした。

 あの時は、『速さの実』が大変でしたね。」


と思い出話を始めようとしたが、紅野様が少し(おどろ)いた顔で、


「つい先日、『体力の実』と『速さの実』を育てる方法が見つかったと聞いた。

 名までは聞いておらなんだが、山上じゃったのか?」


と割って入ってきた。佳央様が、


「そうよ。」


と同意し、


青魔法(植物魔法)の使い手は少ないけど、今まで誰も試してなかったのも、不思議な話よね。」


と付け加えた。私も、


「そうですよね。」


と同意する。だが、紅野様は、


「気がつけば当然という事は、案外、あるものじゃ。」


とやや早口に言うと、繁々(しげしげ)と私の顔を見ながら、


「しかし、それが山上であったとはな。」


と感心している様子。佳央様は、


「和人、何気に独自魔法もあって凄いのよ。」


()め、


「『魔力集積』と『着火』だけど。」


と付け加えた。私は、


「褒め過ぎですよ。」


と注意したが、佳央様は、


「事実じゃない。」


と一言。からかわれているのかとも思ったが、紅野様は、


「そうじゃな。

 恐らく、後世にも名が残るに違いあるまい。」


と真剣な顔。私は、


「そんな、大袈裟(おおげさ)な。」


と言ったのだが、紅野様は、


「それだけの発見じゃ。」


と断言。が、


「踊りだけではなかったか。」


と付け加えてきた。

 私は、落ちが付いたかと思い、はははと少し笑った。



 下女の人が、


「もう一品、お持ち致しました。」


とやって来る。紅野様が酒を飲んでいるからなのだろう。

 膳に乗っていたのは、蒸したと思われる筍を切ったもの。中には黄色いものが詰まっている。


 紅野様は、


「今日は、筍づくしじゃな。」


と機嫌が良さげ。佳央様が、


「珍しいわね。」


と尋ねると、下女の人が困った顔をして、


「季節外れの筍に、お勝手が張り切り過ぎまして・・・。」


と苦笑い。紅野様は、


「よい、よい。」


と気にした様子はない。佳央様も、


「そうね。

 一品(ひとしな)増えるのは、悪い事じゃないし。」


と少し(うれ)しそう。

 怒られる可能性も考えていたのだろう。

 下女の人は、


「そのように伝えておきます。」


と、やや安堵(あんど)の表情で下がっていった。



 食事が終わったが、紅野様と佳央様の二人、雑談に花を咲かせている。

 紅野様は好々爺(こうこうや)の顔で、佳央様の近況を聞いている。

 そして、最近は神社の作業を手伝ってもらっているので、必然的に私にも話題が振られてきた。

 更科さんは、お茶を(すす)っている。


 佳央様が、


「そういえば、和人。

 養子、どうするの?」


と話題を振ってきた。私は、


「その件は、突然の話で整理出来ておりませんでして・・・。

 ですので、この話はおいおいで・・・。」


と更科さんの方を見た。だが、更科さんは、


「そうね。

 ちゃんとした人が見つからない事には、話も進められないし。」


と養子を取る方向で考えている模様。私は、確かにその通りだと思いながら、


「そうですね。」


と、あたかも今まで考えていた風に頷いた。

 紅野様が、


「二人は若いし結婚もして日が浅かろうに、もう養子の相談か?」


と不思議そうに聞いてきた。私は、禍津日神の名は出さない方が良いだろうと思いつつ、


「はい。

 帳尻合わせの兼ね合いで、私には、子が成せぬようにするとの事でして・・・。」


と説明すると、紅野様は、


「そうか・・・。」


と少し考え始めた。そして、佳央様の方をちらりと見てから、


「ならば、その養子。

 こちらでも、探してみるとするかの。」


と言ってくれた。どうも、佳央様がここでこの話題を出したのは、紅野様に私達の養子を探してもらうためのようだ。

 私は、


「そのように、お手を(わずら)わせるわけにも・・・。」


辞退(じたい)しようとしたのだが、紅野様は、


遠慮(えんりょ)せずとも良い。

 山上は、竜人格。

 同胞(どうほう)と言っても良いのじゃからな。」


と言ってくれた。


──紅野様は、佳央様の頼み事なのでそう言ってくれているのだろう。


 私はそんな邪推をしながら、


「そこまで言っていただけるのでしたら、分かりました。

 お手数をおかけしますが、宜しくお願いします。」


と依頼した。

 ただ、これで竜人が養子に来たならば、また面倒事が増えるのに違いない。

 私は、人間の中から、根から真面目な人物を紹介してもらえると有り難いのだがと思ったのだった。


 本日も、少し短めです。


 (今回も後書きのためとバレバレですが)作中の、黄色いものが詰まった筍は、笋煎込卵(たけのこにこみたまご)を想定しています。

 こちら、いつもの万宝料理秘密箱からの出典で、(灰汁(あく)抜きした)筍を湯がいて、筍の根の方から(ふし)の部分をくり抜いてそこに溶き卵を流し入れ、口に葛粉をかけて厚紙で包んで蒸して作るのだそうです。


 後、前回書き忘れていましたが、筍の入った味噌汁は笋汁(たけのこじる)を想定しています。

 出典は料理珍味集で、味噌汁の筍は針に刻まれており、他、岩茸(いわたけ)が入っています。


・万宝料理秘密箱 - 笋煎込卵

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?manifest=http://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/200021712/manifest.json&canvas=http://codh.rois.ac.jp/pmjt/iiif/200021712/canvas/00063&lang=ja

・料理珍味集 - 笋汁(たけのこじる)

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?manifest=http://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/100249537/manifest.json&canvas=http://codh.rois.ac.jp/pmjt/iiif/100249537/canvas/00057&lang=ja

・イワタケ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%82%BF%E3%82%B1&oldid=98761916

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