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紅野様と一緒に

 雑談をしている内に、もう半刻(1時間)で日の入りとなる。


 更科さんが、外に続く障子(しょうじ)を見ながら、


「もうすぐ、晩御飯ね。」


(つぶや)き、


「今日は、何が出るかなぁ。」


と話題を変えた。

 佳央様が、


「やっぱり、(たけのこ)じゃない?

 まだ、沢山あるから。」


と返事をすると、更科さんは表情なく、


「やっぱり、そうよね。」


と返した。


──筍はお気に召さないのだろうか?


 そう思った私は、


「筍料理にも、色々とありますよ?

 煮たり、焼いたり、(ふか)したり。」


と言うと、更科さんは、


「うん。楽しみね。」


と嬉しそうな表情になる。

 私は、勘違いだったかと思い、


「なら、年末も(せい)を出して掘りましょうね。」


と伝えると、更科さんも、


「そうね。」


と笑顔。

 私は、最初のあれは何だったのだろうかと思ったが、下女の人が近づいてくる気配を感じたので、


「来たみたいですね。」


と障子の方を見たのだった。



 障子の外から、


「お待たせして申し訳ございません。

 夕餉をお持ち致しました。」


と下女の人が声を掛けてくる。

 下女の人が謝っているのは、私が『来たみたいですね』などと言ったのを、遅いと怒っていると考えてに違いない。

 私は粗相(そそう)はなかったと伝えようと思ったのだが、先に佳央様が、


「大丈夫よ。

 運んで。」


と謝罪を受け入れてしまった。


──大丈夫で片付けたら、下女の人がまるで何かをやらかしたみたいにならないか?


 なんとなくそう感じて下女の人が心配になったが、指摘すると波風が立ちそうに感じたので、黙っている事にした。

 なお、古川様の分がまだ来ていなかったので確認すると、神社で食べてくるので不要との連絡があったのだとか。


 膳が運び込まれていく。

 その上に乗るのは、筍づくしの料理。

 まず目につくのは、筍、人参、里芋(さといも)椎茸(しいたけ)蓮根(れんこん)牛蒡(ごぼう)と何かの鳥肉を煮た物。彩りとして、葱が散らしてある。

 また、なますの中にも、筍の細切りが加えてあり、小皿も筍と粒山椒の煮物。

 ご飯も筍ご飯で、味噌汁にまで入っている。


 私は、


「これは、豪華ですね。」


感嘆(かんたん)すると、更科さんも、


「そうね。」


と嬉しそうだった。

 上座に一席ある事に気がつく。

 どうやら、屋敷の(あるじ)が来るようだ。

 私は、今夜の料理が豪勢な点に納得しつつ、


「今夜は、紅野(こうの)様もいらっしゃるので?」


と確認すると、佳央様は、


「そうみたいね。」


と軽く返事をした。表情からは、佳央様も紅野様が来ると聞いていなかったのかもしれない。


 下女が膳を整えて(しばら)くし、紅野様がやって来る。

 佳央様が、


「久しぶりね。」


挨拶(あいさつ)すると、紅野様は好々爺(こうこうや)の表情で、


「そうじゃな。」


と挨拶を返した。そして、


「変わりないか?」


と質問をする。佳央様は、


「私にはないけど、和人が色々ね。」


と苦笑い。紅野様は、


「多少は、聞いておる。

 じゃが、借金は自分で工面せねばならぬ。

 たとえ、それが意図せずに出来たのだとしてもじゃ。」


と言うと、佳央様は、


「それは、そうね。」


と同意した。私としても、厄介(やっかい)になっている上に、借金の返済までという訳にはいかない。

 私が、


「今は、減ったら減っただけ、増えそうでししね。」


と言うと、紅野様は、


「ん?

 それはどういった事情じゃ?」


と聞いてきた。私は、特に口止めもされていなかったので、


「竜の巫女様の言うには、私の借金は谷なのだそうです。」


と答えた。紅野様が、


「谷?」


と不思議そうに聞き返す。私が、


「『人生山もあれば谷もある』の谷なのだそうです。」


と説明すると、佳央様が、


「和人にあまりに幸運な出来事が重なってるから、帳尻合わせで不幸な出来事が起きて、借金を背負うはめになってるんだって。

 だから、借金が帳消しになるなんて幸運が起きても、また帳尻合わせで借金ができるって言いたいんじゃない?」


代弁(だいべん)してくれた。私が、


「そういう事です。」


と同意すると、紅野様は、


「ふむ。

 そういう事じゃったか。」


と納得した模様。紅野様は、


「その辻褄(つじつま)()わせ、下手に抗うと倍返しとなると聞いた事がある。

 地道に頑張るのじゃぞ。」


と心配してくれた。私が、


「肝に銘じます。」


と返すと、佳央様が、


「今のままだと、一生掛かりそうだけどね。」


と余計な一言。私にも、そうなりそうな予感があったので、苦笑いするしかなかった。


 本日も短め。というか、暑さに負けた感じ。。。


 作中の、「筍、人参、里芋(さといも)椎茸(しいたけ)蓮根(れんこん)牛蒡(ごぼう)と何かの鳥肉を煮た物」は筑前煮を想定しています。

 筑前煮は、元は亀を使っていたので「がめ煮」と呼ばれているそうで、筑前煮はがめ煮の別称の一つなのだそうです。


 また、筍と粒山椒の煮物はたけのこ山椒煮を想定しています。

 が、こちらは単に山椒と筍は相性が良いという話から探してきた料理となりますので、特に江戸ネタというわけでもありません。あしからず。。。(^^;)


・がめ煮

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%8C%E3%82%81%E7%85%AE&oldid=96633997

・筑前煮

 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kakou/mezamasi/recipe/recipe135.html

・たけのこ山椒煮 島根県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/takenokonosanshouni_shimane.html

・サンショウ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6&oldid=101420946

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