信じてるからね
屋敷の外は、吹雪。
現在は未の刻を過ぎた辺りの筈なのだが、雨戸を立てた室内は暗い。
行灯に火は入っているのだが、文字を読むには辛い明るさだ。
そんな中、佳央様と更科さんと私の3人は、座敷で1刻程、札を使った遊びを行った。
遊びの名前は、『坊主めくり』。
運が支配する遊びの筈なのだが、私が引くと、大体、坊主がやって来る。
あまりの運のなさに、更科さんから、
「今日は和人の運、お出かけしてるみたいね。」
と言われてしまった。私は、
「いえ、」
と一旦否定したものの、それでは普段から運がないと言っているようなもの。
私は、
「これから戻ってきますよ。」
とお出かけ説に便乗することにした。だが、佳央様から、
「和人は、賭け事をさせちゃ駄目ね。」
と苦笑い。更科さんも、
「そうね。」
と同意したので、私は、
「そんな事はありませんよ。」
と文句を付けたのだが、佳央様から、
「ほら。
引き際が解ってないじゃない。」
と指摘し、更科さんからも、
「負けが込んじゃった人は、皆、そう言うのよ。」
と手厳しい意見。私は、
「今は、運を溜めているのですよ。」
と言い訳をしたのだが、佳央様から、
「まだ言う。」
と呆れられてしまった。
更科さんから、
「その前に、博打はご法度よ?
絶対にやらないでね。」
と注意された。その通りではあるが、そもそも、竜の里で賭場が開かれたという話を聞いた事がない。
私は、
「そのような場所が里にもあるので?」
と笑いながら確認すると、佳央様から、
「あるけど、行っちゃ駄目よ。」
と苦笑い。私は興味本位で、
「あるんですか?」
と確認すると、更科さんから、
「聞いてどうするの?」
と心配そう。私は安心させようと思い、
「行くつもりはないのですが、話のネタにと思いまして。」
と返したのだが、佳央様から、
「話のネタね。
ならいっそ、蒼竜にでも連れて行って貰ったら?」
と提案してきた。蒼竜様なら顔が広いので、なるほど知っているに違いない。
私は、負けても融通がきかなさそうだなと思い、
「蒼竜様ですか。」
と溜息を吐いてしまった。慌てた更科さんから、
「駄目よ、和人。
佳央ちゃんも、変な事、言わないでね。」
と賭場に行かないように止められる。佳央様が、
「佳織、何か勘違いしてない?
蒼竜と一緒なら、摘発よ?」
としたり顔。更科さんは、
「あぁ。
そういう事ね。」
と納得するが、私としては微妙な気持ちになる。
私が、
「それでは、掛けられないではありませんか。」
と文句を言うと、佳央様から、
「ご法度よ?」
と一言。更科さんからも、
「仮に誘われても、行っちゃ駄目だからね?」
と釘を刺されてしまった。私は、
「誘われる事もないと思いますが、分かりました。」
と苦笑いしながら返すと、更科さんから、
「信じてるからね?」
と念を押されてしまった。
──そんなに何度も、言わなくてもよいのに・・・。
私はそう思ったが、
「勿論です。」
と返事をしたのだった。
本日、所用につきかなり短めです。(--;)
作中、「賭場」が出てきますが、こちらは博打を打つ場所の事となります。
博打については、江戸時代においてもご法度(つまり違法行為)となります。
このため、町奉行の目から逃れるため、寺社や公家の屋敷で開かれていたのだそうです。
ちなみに、賭場は別名「鉄火場」とも呼ばれますが、鮪を芯に使った細巻きの鉄火巻は鉄火場で手軽に食べられるから、そう呼ばれるようになったとする説があるのだとか。
・賭場
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・鉄火巻
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