手を温める方法はないか
雪が降る庭の竹林にて、私は青魔法を使い、せっせと筍を生やしていた。
収穫するのは、佳央様と下女2人の計3人。古川様は、指示を出すのみで、掘ってはいない。
更科さんは、一杯になった籠を置くため、お勝手に戻っている。
時間が経つに連れ雪が多くなり、時折、強い風も吹き始める。
見上げると、いつの間にか空は全て曇で覆い尽くされている。
佳央様が眉を顰め、
「これ、すぐに吹雪きそうね。」
と呟く。そして、下女の人達に
「急ぐわよ。」
と指示を出した。
下女の人の一人が、
「分かりました。」
と返事をしたものの、先程から目一杯だったのだろう。掘る速さに、あまり変化はない。
私も急いで筍を生やしていると、更科さんが戻ってきた。
更科さんが、
「新しい籠、持ってきたわよ。」
と周知する。私は、
「これが、今日最後の籠ですかね。」
と所感を話すと、古川様は、
「そうね。」
と同意した。そして、
「佳織ちゃん。
急いで、・・・回収して・・・ね。」
と筍を籠に入れていくように指示をする。更科さんは、
「はい。」
と頷いて、泥を払うのも後回しに、急いで筍を放り込んでいった。
いよいよ雪が大粒となり、風も強くなっていく。
視界は半分白く遮られ、周囲は3間先も見え辛い。
私は、
「もう、そろそろ引き上げましょう。」
と提案すると、古川様も、
「そう・・・ね。」
と同意。佳央様も、
「分ったわ。」
と言うと、下女の人達に、
「今掘ってるので、最後にするから。」
と指示を出した。私としてはすぐに引き上げたかったので、
「佳織は大丈夫ですか?」
と確認したが、
「ええ。」
と一言返しただけ。更科さんの表情は、やや辛そうにも見える。
私は、
「本当ですか?」
と再度確認してみたのだが、更科さんは、
「ええ。
まだ、大丈夫よ。」
と返してきた。『まだ』と言う事は、余裕がなくなってきたのは感じているのだろう。
私は、
「分かりました。
では、あれが最後ですから、もう少し頑張ってください。」
と言うと、更科さんは、
「ええ。」
と無理やりの笑顔。恐らく、疲れと寒さが堪えているに違いない。
そう考えた私は、
「手だけでも、温めましょうか?」
と提案したのだが、佳央様から、
「はい、そこ。
いちゃつかない!」
と怒られてしまった。私は、
「佳織の手が、冷たそうなのですよ。」
と反論したが、佳央様から、
「口実でしょ?」
と呆れた目。私は、
「竜人は、寒さに強でしょうけど、人間は、そうではないのですよ。」
と説明すると、佳央様は少し考え、
「不便ね。」
と歯切れの悪い一言。ただ、これは手を握っても良いという事だろう。
私は早速、
「では、佳織。」
と言って更科さんの手を握った。更科さんの手が、意外に温かい。
更科さんは、
「ありがとう。
和人。」
と笑顔でお礼を言ってくれたが、実は逆に冷たくしたかもしれない。
そう思った私は、
「私の手、冷たくありませんか?」
と確認すると、更科さんは、
「そんな事、ないわよ。」
と嬉しそう。私は、言葉通りに受け止められず、
「なら、良いですが・・・。」
と心配になった。
──更科さんの手を温める方法は、何かないだろうか?
そんな事を考えていると、水を温める時の事を思い出した。
これは、重さ魔法で赤魔法を集め、水に溶かすようにかき混ぜると水温が上がるという魔法だ。
手の周りに付いた雪は、溶けて水になっている。
──ならば、この水に赤魔法を集めて溶かせば、温める事も出来るのではないだろうか?
そう考えた私は、早速、重さ魔法で赤魔法を集め始めた。
だが、集めただけでは、何も起きない。
恐らく、かき混ぜていないからだそう。
何かないかと考えていると、緑で洗濯した時の事を思い出した。
あの時は、桶に入った水を重さ魔法で浮かせ、その中に緑を入れて、グルグルと水流を作る事で、手揉み洗いを再現した。
今回も、水の中に緑を送り込むのだが、如何せん、対象が小さい。
私は、細かい作業になる事を覚悟しつつ、重さ魔法で手の周りに赤魔法の他に、緑魔法も集め始めた。
細かい作業に、集中力を使う。
暫くすると、手の周りがほんのりと暖かくなる。
あまりぱっとしないが、一応、成功しているらしい。
これを、手に限らず全身に使えないかと試してみる。
が、今以上に魔法を制御する必要があり、一瞬で挫折する。
魔法の制御といえば、お手玉での修行。
複数の魔法を使った練習も始めようと、決意する。
そうこうしているうちに、下女の人達が、
「採れました。」
「こちらもです。」
と作業を報告。佳央様が、
「ご苦労だったわね。」
と労いの言葉を掛けた。
私が、
「では、急いで戻りましょう。
もう、これ、吹雪いていますから。」
と言うと、佳央様も、
「そうね。」
と同意。古川様も、
「十分に、・・・採れたし・・・ね。」
と満足げ。
こうして、私達は、筍掘りを終えたのだった。
暫くして、昼食の時間となる。
私と更科さんの二人で座敷に行くと、既に佳央様と古川様が待っていた。
私は、
「遅れてすみませんでした。」
と謝ると、古川様は、
「謝らなくても良い・・・わよ。」
と一言。恐らく、この中で一番身分が高いからに違いない。
そうは思ったが、私は、
「いえいえ。」
と言いながら、座布団に座った。
すぐに、下女の人が障子の前までやってくる。
そして、
「失礼します。
お昼をお持ちしました。」
と声を掛けてきた。佳央様が許可を出し、障子が開く。
膳が運び込まれてきたが、その上には粥だけでなく、梅干しと切っただけの筍が乗っていた。
私は、
「今日は、粥以外にもあるのですね。」
と喜ぶと、古川様から、
「午後から、・・・神社の仕事が出来そうなら・・・下げて・・・もらう?」
とからかってきた。私は、
「いえ、今日は止めておきます。」
と慌てて拒否すると、古川様は、
「それが・・・良いわ・・・よ。
気持ちの整理も・・・あるだろうから・・・ね。」
と優しい目つき。私は、
「そうさせていただきます。」
と素直に返した。
本日も短めです。
作中、「切っただけの筍」が出てきますが、こちらは筍の刺し身を想定しています。
料理物語にも出てくる一品で、掘りたてはアクが少ないため刺し身でも食べることが出来るのだそうです。
↑伝聞系なのは、おっさん、未だに刺し身で筍を食べた事がないためです。(^^;)
そのうち食べる機会があるとよいのですが・・・。
・たけのこ
https://www.digital.archives.go.jp/img/1240055/14
・タケノコ
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%BF%E3%82%B1%E3%83%8E%E3%82%B3&oldid=99857046
 




