大七五三縄(おおしめなわ)
谷竜稲荷での、正月に向けての準備が続く。
次に作る物は、大七五三縄。
古川様は助っ人を呼ぶと言っていたのだが、私は今いる顔触れだけで十分に作ることが出来ると考えていたため、やめて貰った。
先ずは、太い縄を3本作る作業に取り掛かる。
私は、古川様が作ってくれていた縄を指差し、
「この縄、使いますね。」
と断りを入れると、古川様も、
「ええ。」
と了承した。
その縄を手に取り、真っ直ぐに伸ばして床に置く。
私は、佳央様と更科さんに向かって、
「では、作り方を説明しますね。」
と前置きをし、
「初めに、このように縄を伸ばして置きます。」
と説明を始めた。
そして、藁叩きが終わった山から5寸くらいの束になるよう、藁を取り、端を揃えながら、
「次に、このくらいの藁を縄の上に置きます。」
と説明した。二人、
「分ったわ。」
「うん。」
と返事をする。
佳央様と更科さんが、古川様から縄を貰って床に並べる。
そして、佳央様はそのまま山から藁を取って置いたが、更科さんは、私が置いた藁の量を確認してから、山から藁を取ってきた。
佳央様が、
「置いたわよ。」
と報告をする。同じ太さとなるよう、量を確認するが、少々多いようだ。
手で束ねたり藁を抜いて微調整していると、更科さんからも、
「私も出来たわ。」
と報告が来た。私は、
「分かりました。
では、これが終わったら確認しますね。」
と断りを入れ、佳央様の藁の量を整える。
それが終わったので、私は、
「これで大丈夫だと思います。」
と伝えてから、更科さんの方に行った。
私は、
「お待たせしました。」
と軽く謝り、藁の量を確認した。
藁を取りに行く前に確認しただけあって、そのままでも問題なさそうに見える。
私は、
「ちょっと微調整しただけで良さそうですね。」
と褒め、作り慣れていなければ気づかない程度の微調整を行い、
「これで大丈夫ですね。」
と伝えた。
次に、少し変則的な方法でこの藁を縄にする。
私は、
「では、次の作業です。」
と前置きをして、
「この藁のままだと短いので、後ろに藁を足して丁度良い長さにします。」
と説明をした。そして、最初に並べた藁の半分より少し先の所から、継ぎ足し用の藁を置く。
私は、
「このような感じで藁を並べて行くと、長く出来ます。」
と説明した。
「あまり先の方に置くと、縄が切れると言うか抜けてしまうので注意して下さい。」
と付け加える。佳央様が、
「それで、どのくらいの長さにするの?」
と質問をした。指摘されて、どのくらいの長さの七五三縄を作れば良いか、確認を忘れていた事に気がつく。
私は、
「すみません、古川様。
これは、どのくらいの長さの七五三縄にすれば良いのでしょうか?」
と質問をすると、古川様は、
「えっと、・・・長さ・・・ね。」
と言うと、外への扉を見て、
「1間くらいで・・・良いわ・・・よ。」
と返した。私は、
「分かりました。」
とお礼を伝え、佳央様に、
「1間だそうです。」
と回答した。佳央様は何か言いたそうだが、
「分ったわ。」
と返事をした。
根本から穂先に向かい、均一の太さになるように注意しながら、藁を継ぎ足していく。
その作業が終わった後、佳央様と更科さんを確認する。
佳央様は、上手い具合に並べているようだが、更科さんは要領が掴めていない模様。悩みながら1本置いては、また取ってを繰り返していた。
普段は何でも卒なくこなす印象だが、これは上手く出来なかったようだ。
私は更科さんの側に行き、
「手伝いますね。」
と断りを入れると、更科さんは、
「助かるわ。」
と安心した様子。私は、
「いえ。」
と返し、藁の上に手を置いた。そして、
「こうやって触った時、この辺りから痩せてきているのが分かりますので、ここに足していくのですよ。」
と説明しながら、新しい藁を置いた。だが、更科さんは、
「そう言われても・・・。」
と戸惑っている。私もなんとなくやっているので、これ以上の説明は難しい。
そう思ったが、とにかく教えなければ縄は作れない。
私はなんとか説明しようと、根元側の3分の1の場所と、穂先近くを指差して、
「この辺りと、この辺りを押さえてみて下さい。
厚みの違いは判りますか?」
と質問をした。
更科さんは、
「そこなら、見た目でも判るわね。」
と言いながら、両手で藁を押さえて感触を確かめた。
私は、
「はい。」
と頷き、穂先側3分の1の場所を指差して、
「次に、穂先の方を押さえた手を、この辺りに動かしてみて下さい。」
と指示をした。更科さんはその場所を押さえると、
「穂先側の方と比べて、太くなったかしら。」
と感想を言う。私は、
「はい。」
と頷き、
「先程動かした方の手を、もう少し真ん中に動かしてみて下さい。」
と指示すると、更科さんは、
「うん。」
と同意し腕を動かした。更科さんは、
「あまり、両手の違いは判らなくなったわ。」
と困り顔になる。私は、
「はい。
ですので、先程触った穂先から3分の1の場所が、根本から3分の1を触った時と同じようになるように、藁を足します。」
と説明した。更科さんが、
「えっと・・・。」
と何か考えているようだが、手が動いていない。
これでは話が進まないので、私は、
「一先ず、藁を置いてみましょうか。
それで、比べてみて下さい。」
と提案した。更科さんが恐る恐るという感じで藁を置き、周囲を手で押さえる。そして、
「・・・どう?」
と聞いてきた。
私は藁に手を置くと、
「はい。
良いですね。」
と褒め、少し藁を足しながら、
「こんな感じです。
押さえてみて下さい。」
とやって見せた。
更科さんが、藁を押さえる。
更科さんが、
「和人、器用よね。」
と褒めてくれた。私は、
「では、どんどん並べていきましょう。」
と言って、二人で藁を並べていく。
たまに指先が触れてドキリとしたのは、心の内だけにしておく。
こちらの作業が終わり、佳央様の並べた藁を確認する。
先ほどと違い、上手く均等に藁が並んでいるように見える。
私は、
「良いですね。
これは、少し手直ししただけで良さそうです。」
と褒め、手で確認しながら余計と思われる藁を抜いたりずらして調整した。
それも終わり、いよいよ縄に仕上げる作業に入る。
私は、
「これで、この作業も終わりです。
次は、これを1本の縄になるよう、捻ります。」
と説明し、
「ここからは重さ魔法を使いますので、二人でやりますね。」
と更科さんに断りを入れた。そして佳央様に、
「では、1本目をやりますので、魔法をどう使うかも含めて見ていて下さい。」
と指示を出す。佳央様が、
「分ったわ。」
と返事をしたので、次の工程に移る。
私は、下に敷いた縄の両端を手に持つと、
「先ずは、こうやって藁を二重に縛ります。」
と説明した。
藁の下を潜らせ、二重に巻いてから一方の縄の端を脛で押さえる。
そして、重さ魔法で藁がズレないように軽く押さえ、しっかりと縄を縛る。
私は、
「こんな感じですが、出来ますか?」
と確認すると、佳央様は少し機嫌が悪そうに、
「出来るわよ。」
と返してきた。私は、何か気に触ったのだろうかと思いながら、
「では、お願いします。」
と言って、2本目の藁を縛る作業に入った。
私が縛り終えてすぐ、佳央様が、
「これで良い?」
と聞いてきた。見た感じ、綺麗に縛れている。
念の為、触って確認してみると、竜人なだけあって、しっかりと縛れている事が判った。
私は、
「流石、佳央様。
上出来です。
手直しも、必要ありませんね。」
と褒めると、佳央様は、
「このくらいはね。」
と少し自慢げだ。
私は、
「では、次にこの縄を一方向に捻っていきます。
普通は、穂先の側を捻って細くなったら藁を足していくのですが、今回は、もう足した状態です。
なので、根本の側から捻ります。
あと、捻る方向ですが、手前に巻きますので、揃えて下さいね。
先ずは1本目をやりますので、見ていて下さい。」
と説明した。
重さ魔法で黄色魔法を集め、両腕、背中、足腰に纏わせる。
そして、重さ魔法で根本側から3分の1より先を固定し、根元側を捻る。
ある程度捻ったところで、次の3分の1を開放し、また捻っていく。
最後の3分の1に差し掛かった所で、
「ここから先は、穂先側を捻っていきます。」
と宣言し、今まで捻っていた側半分に重さ魔法を掛けて固定し、残りの藁を巻いていった。
出来上がったところで、私は、
「このような感じで、太い縄を作ります。
解りましたでしょうか?」
と確認をすると、佳央様は、
「まぁ、やってみるわね。」
と難しい顔。私は、
「はい。
やってみて下さい。」
とお願いし、2本目を捻って太い縄にした。
佳央様の方を確認する。
すると、流石は佳央様。不安そうな感じだったのに、順調に縄を捻っていた。
こういう時、早く終わったからと言って手伝おうとすると、かえって邪魔になる。
私は、縄が出来るのを見守った。
3本の縄が揃ったので、最後、これを1本に仕上げる作業に入る。
私は、
「古川様。
どこに藁を差し込みますか?」
と確認すると、古川様は、
「そうね・・・。
巻いてる途中で、・・・指示するわ・・・ね。
後。・・・紙垂も・・・ね。」
と答えた。そういえば、神社の七五三縄には、白い紙も垂れている。
恐らく、その紙が紙垂なのだろう。
私は、
「分りました。」
と答えた。
1寸ほどの縄の上に、先程3本の太い縄を置く。
そして、その3本の縄をしっかりと一束ねにするため、3重に巻いてしっかりと縛り上げる。
次に、縄を巻いた方向と逆方向に向かって、捻っていく。
暫く捻ると、古川様が、
「ここに・・・、藁を入れるわ・・・ね。」
と指示を出した。私は、
「分かりました。」
と了承し、藁を挿し込んで入れた。
古川様が、
「紙垂は、・・・ここの辺りに・・・入れて・・・ね。」
と指示を出す。私は、
「承知しました。」
と返すと、支持された所まで縄を捻っていった。
私は、
「この辺りでしょうか。」
と聞くと、古川様は、
「ええ。」
と頷いた。
そして、
「これを・・・、入れて・・・ね。」
と白い紙を差し出した。私は、
「分かりました。」
とそれを受け取り、縄の間に差し込むと、また捻じり始めた。
後は、同じ間隔で藁と白い紙を挿し込んでいくのだろう。
私はそう理解し、捻っていくと、予想通りの場所で古川様から指示が出た。
挿し込んだのは、藁、紙、藁、紙、藁の順で5箇所。
最後まで捻り終え、
「出来ました。」
と言うと、更科さんが、
「お疲れ様。」
と労いの言葉を掛けてくれた。古川様も、
「立派なのが・・・出来たわ・・・ね。」
と褒めてくれた。私は、
「ありがとうございます。」
とお礼を言った。
先ずは、大七五三縄が出来上がり、一段落。
古川様が、
「今日は、・・・ここまで・・・ね。」
と作業の終わりを宣言した。私も、
「はい。
そうしましょう。」
と同意し、この日は屋敷に帰ったのだった。
作中、「紙垂」が出てきますが、こちらは白い紙を切って稲マークみたいに折った物で、将に稲妻をイメージして作られたのだそうです。
どうも昔の人は、雷が落ちる時期と稲が実る時期が同じという事で、稲妻が稲を実らせると勘違いしたらしく、雷イコール豊作と考えて稲妻と呼ぶようになったという説があるそうですが、紙垂はその稲妻を形どることで、ご利益を得ようとした模様。
雷と稲の関係は、現代であれば生物学的観点から無関係と分かりますが、そういった情報がない当時は実体験だけが頼りだったのでしょうから、そういった勘違いが起きたのだと思われます。
この「実体験」は「統計」と読み替える事も出来ると思うのですが、一見関係があるように見えても、実際には別の原因だったりする事は、結構あるという一例なのかもしれないなと思うおっさんでした。
・紙垂
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・雷
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