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雪焼け

 父親の方からはお礼を言われ、蒼竜様や雫様からも()められ、なんとなくこそばゆい気分。

 喧嘩(けんか)している親子の一件が一段落したなと思ったところで、門番さんから、


「山上。

 そろそろ、通行手形を出せ。」


催促(さいそく)された。

 そう言えば、里に入る手続きがまだだった。



 私は門番さんに、


「すみません。」


と謝り通行手形を出すと、門番さんは、


「うむ。」


とそれを受け取り、何やら帳面に付けた。

 そして、門番さんが、


「では。」


と通行手形を返す。私は、


「ありがとうございます。」


とお礼を言いながら受け取った。

 かんじきを脱いで、屋敷を目指す。



 道には、除雪された1本の筋が通っている。

 その隣には、(ひざ)の高さの雪。

 その雪は、里を出る時よりも若干だが低くなっている。

 陽の光で、溶けたからだ。


 溶けた雪は、水に変わる。

 その水は、一部は地面に()()んだだろうが、全部ではない。除雪した道に()まっている。

 草履の足に、水溜(みずたま)り。ここを歩く限り、(ちゅう)にでも()かなければ、水を避ける事は難しい。

 足の指が(かゆ)くなり、雪焼(ゆきや)けになった事に気がつく。


 私はたまらず、


「すみません、佳央様。

 もう一度、かんじきを出してくれませんか?」


とお願いをした。これ以上は雪焼けが(ひど)くならないよう、隣に積まれた雪の上を歩くためだ。

 だが、佳央様は、


「かんじき?」


と不思議そうに聞き返してきた。竜人は寒さに強いので、足元の水には無頓着(むとんちゃく)のようだ。

 私は、


「先ほどから、足元が冷たくて(かな)いません。

 ですので、雪の上を歩こうと思いまして。」


と説明すると、佳央様は少し考えてから、


「あぁ!

 この水溜り、人間には冷た過ぎるのね。」


と今、気がついた表情。私が、


「はい。」


と頷くと、佳央様は、


「分ったわ。」


と、かんじきを出してくれた。



 かんじきを()き、膝まで積もった雪の上を歩く。

 冷たい水溜りよりはましだが、足が温まるわけではない。

 私は痒さに耐えながら、屋敷を目指した。


 途中、人とすれ違う。

 人と違うことをすれば、好奇(こうき)の目を向けられるというもの。

 佳央様が、


「和人。

 ちょっと、()ずかしかったんだけど。」


と一言。私も、そう感じる。

 たが、水溜りに入れば、無事な指まで雪焼けになるに違いない。

 そうなれば、今以上に痒くなるだろう。

 私は、


「そうなのですが・・・。」


口籠(くちごも)ると、佳央様は、


「あ。

 今、巫女様から、降りなさいって連絡よ。」


と伝言が来た。私は、予想外だったので、


「巫女様ですか?」


と聞き返すと、佳央様は、


威厳(いげん)に関わるからって。」


と理由を説明した。だが、雫様から、


「山上なら、『新しい仕来りだ』っちゅうたら通るんちゃうか?」


と指摘が入る。なるほど、その手があったようだ。

 だが、佳央様は、


「仕来りになったら、私まで、雪の上を歩かないといけなくなるんだけど?」


と嫌な様子。私は、


「雪焼けが、酷くなりそうなのですが・・・。」


と返すが、佳央様は、


「我慢して。」


と雪の上は嫌な様子。私は、雪焼けが悪化するのが目に見えていたので、


「ですが、」


ともう一度否定しようとしたが、蒼竜様から、


「そういえば、人里で小さな子供が乗りたがっていたな・・・。」


とポツり。雫様が、


雅弘(まさひろ)

 それ、思うても言うたらいかんやつや。」


と苦笑い。幼子と同じと言われては、ここは引くしかない。

 私は、


「すみません。

 降ります。」


と、そそくさと かんじきを脱ぎ、冷たい水溜りの中を歩いて帰ったのだった。



 屋敷に付き、すすぎの(おけ)を貰う。

 水が冷たかったので、赤魔法(火魔法)を集め、桶の水に入れてかき混ぜる。

 少し、湯気が立つ。

 その水ですすぎをすると、少しだけ痒みが引く。

 いつまでもすすぎをしていると、佳央様から、


「和人、まだ?」


と言われてしまった。名残(なごり)()しいが、


「もう少しです。」


と返事をする。

 奥から、更科さんがやってくる。

 私は、


只今(ただいま)戻りました。」


と挨拶をすると、更科さんも、


「和人、おかえり。」


と笑顔で返した。そして、


「大丈夫だった?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 ですが、大したものは出ませんでして。

 借金の足しになるかも判りません。」


と返事をすると、更科さんは、


「そっちはいいのよ。

 和人に何もなければ。」


と笑顔だ。私は不安で、


「ですが・・・。」


と反論しようとしたのだが、佳央様から、


「和人。」


と一言。心配してくれているのに、それも否定するのは良くないと言いたいのだろう。

 私は、


「はい。」


と言葉を飲み込んだ。


 下女の人が、


夕餉(ゆうげ)が出来ております。

 このまま座敷に、ご移動下さい。」


と言った。偶然かもしれないが、雰囲気が少しましになる。

 佳央様が、


「分ったわ。」


と返す。私は、


「今日は、何でしょうね。」


と更科さんに聞くと、更科さんも、


「さぁ。

 でも、楽しみね。」


と返したのだった。


 本日短めです。


 作中の「雪焼け」ですが、こちらは霜焼(しもや)けの古い表現の一つとなります。

 が、こちら、「橋を渡ると」の後書きで既出でした。。。(--;)


 (ちな)みに霜焼けは、(ご存知の方も多いと思いますが)ぬるま湯で温めながら、ゆっくりとマッサージをするとましになります。

 wikiには『40℃位のお湯と5℃位の冷水に患部を交互に付ける』との記載がありますが、おっさん、これは知りませんでした。

 そういえば、おっさんも小学生くらいのころは、よく霜焼けになったなぁ。。。(^^;)



・雪焼け

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%9B%AA%E7%84%BC%E3%81%91&oldid=95765643

・しもやけ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%97%E3%82%82%E3%82%84%E3%81%91&oldid=97831624

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