親子喧嘩(おやこげんか)
* 2024/3/21
後書きが書きかけのままになっていたので、追記しました。(--;)
青空がちらほらと見える中、慎重に雪の積もった山を下りていく。
既に日が山近くまで落ちているので、やや早足で移動する。
行きと同じく、あちこちからザザッと木に積もった雪が落ちる音がする。
黙々と歩いているせいか、余計な事を考えてしまう。
崖で見つかった物は、茶碗に使えるかもしれないという土。
一応、蒼竜様が地権者と交渉して、茶碗を焼く職人に持っていく段取りをしてくれる事にはなった。
だが、これがいくらで売れるかは不明。
そもそも、この土は私の物ですらない。
蒼竜様は、いったいどうやって金子にするつもりなのだろうか。
坂を下ると共に、不安な気持ちが増していく。
佳央様から、
「大丈夫?」
と声が掛かる。私は少しムッとしながら、
「あの土に、値は付くと思いますか?」
と聞き返すと、佳央様は少し驚いた顔をしたが、直ぐに戻し、
「運が良ければね。」
と答えた。私は、
「春先にも、借金が増えるのです。
これで、大丈夫なわけがないではありませんか。」
と思わず愚痴ってしまった。すると、佳央様は、
「そうね。
でも、何もない所から、少しだけ返せる芽が出たと思えば良いんじゃない?」
と励ましてくれた。少しイラッときたが、佳央様の言う通り。
過剰に期待したのは、私自信だ。
そう思った私は、納得は出来なかったが、
「そうですね。
少し、気が楽になりました。」
と感謝で返した。すると佳央様は、
「なら、足も大丈夫ね。」
と一言。気分が下がると共に、足取りも遅くなっていた事に気がつく。
私は、
「はい。
すみませんでした。」
と謝り、意識して足を動かしたのだった。
落ち込んでいても、歩いていれば里に着く。
西門で手形を見せた後、屋敷に向かって歩いていると、途中、2人の大柄な男が何やら騒いでいた。
蒼竜様が、
「何事だ?」
と質問をする。すると、一方の竜人が、
「これは、蒼竜様。
お見苦しいところを申し訳ありません。」
と謝った。この竜人は、蒼竜様と顔見知りのようだ。
その竜人、
「内輪の話でして・・・。」
と歯切れが悪い。蒼竜様は、
「そうか。」
と突っ込むつもりはなさそうだったが、もう一人の竜人が、
「親父、何が内輪だよ。
公の勘当にするって言ってたじゃないか。」
と文句を言った。父親の方が、
「黙りなさい。」
と一言。だが、息子の方は止まらず、
「黙ってられるか。
五人組に行くって事は、本気なんだろ?」
とただ事ではない。『勘当』で『五人組』とくれば、本当に親子の縁を切るつもりに違いない。
私は、つい、
「何をやらかしたので?」
と質問をすると、父親の方は、
「踊りのか。
が、これは家の問題だよ。
他人様が口を挟むもんじゃない。」
と窘めるように言ってきた。確かに、その通りだ。
だが、聞いてしまった手前、なんとなく引っ込むのもどうかと感じる。
私は、
「分っています。
ですが、お帳に付けるというのは相当ですので、つい。
それ程の事をやらかしたので?」
と確認すると、父親の方は、
「こいつ、店の金子に手を付けて遊びに行ったのです。
これを怒らずにいられますか?」
と迫力のある笑顔で問いかけてきた。私は、
「そうなので?」
と息子の方に聞くと、その竜人、
「それは、悪かったよ。」
と歯切れが悪いが謝った。しかし、
「だけどよ。
あんな端金で、ここまで怒るこたぁ、ないだろう?
それも、勘当だなんて。」
と反省していない様子。
私は、
「端金と言いますと?」
と確認すると、息子の方は、
「竜金、たったの1両だ。」
と返事をした。息子の方、お金の価値を解っていないらしい。
父親の方が、
「そうやって、反省しないんだよ。」
と眉間に皺を寄せる。私は、
「思ったよりも、大金ですね。」
と感想を伝え、
「前にもあったので?」
と確認すると、父親の方は、
「ええ。
私が、五人組に行こうと思う程には。」
と息子の方を睨んだ。
私は、
「息子さんは、普段は働いているので?」
と聞くと、父親の方は、
「一応、手前の店で。
将来、店を継がせるために番頭として働かせているんだけどね。
態度も悪く、仕事もいい加減。
こっちは、毎日が後始末だよ。」
と愚痴を溢した。
私は思いつきで、
「ならば、一度、他の店で働かせてみては、如何ですか?
竜金1両が貯まるまで。」
と提案すると、父親の方は少し考え、
「それはいいね。」
と乗り気になった。そして、息子の方に、
「踊りのに免じて、今回は、お帳につけるのは勘弁して上げるけど、内々では勘当として扱うからね。
家では働かせられないから、そのつもりでいておくれ。」
と伝えた。更に、
「竜金1両でいつでも勘当をといてあげるから、しっかり働くんだよ。」
と付け加える。息子の方が、
「俺が、他所で勤まるか。」
と開き直る。一同、思わず苦笑い。
だが、父親の方は、
「そこは、心配しなくて良いよ。
丁稚から働かせてくれる所を、探して上げるからね。」
とニヤり。丁稚と言えば、一番の下っ端。
一番簡単な仕事が、割り振られる。
息子の方は、
「丁稚?」
と聞き返したが、父親の方は、
「仕事が出来ないなら、一から覚えるしかないだろう。」
と諭すように言う。息子の方は、嫌そうな顔だったが、
「分ったよ。」
と受け入れる事にした模様。父親の方は、
「辛くても、音を上げるんじゃないよ。」
と笑顔を向ける。
だが、息子の方は、
「居心地が良くて、帰ってこられないかもな。」
と余裕の顔。父親の方もそれに対抗してか、
「まぁ、好きにおし。」
とこちらも余裕の顔を見せた。
父親の方は私に振り返り、
「後で、知恵を絞ってくれた礼をしに行くからね。」
と言うと、息子を連れて帰っていった。
私は、
「上手く行くと良いですね。」
と言うと、蒼竜様は、
「うむ。
山上も、良い案であった。」
と褒めてくれた。雫様も、
「そやで。
思うたより策士で、驚いたわ。」
と笑う。私は、
「策士ですか?」
と聞くと、雫様は、
「そやろ。
丁稚じゃ、殆ど金は貰われへん。
真面目に働いて、手代か番頭に上がらんと、竜金1両は無理やろな。
つまりは、それが狙いやったんやろ?」
と聞いてきた。私は、
「いえ。
単純に、1両がいかに大金か知って貰う方法はないかと考えただけです。」
と返すと、雫様は、
「それだけか?」
ともう一度確認してきた。私は、
「はい。
それだけです。」
と返事をすると、雫様は、
「・・・でも、まぁ、ええ案やったわ。」
と苦笑いしたのだった。
本日、少し短めです。(--;)
(明らかに後書きのために取ってつけたような話ですが)作中、「勘当」という言葉が出てきます。
こちらは、皆様もご存知とは思いますが、親戚縁者との縁を切ることとなります。
江戸時代の頃の正式な勘当を行うには、五人組や名主などが証人となって町奉行に届け出を出し、受理される事で成立しました。この勘当が成立すると、人別帳からも外され、代わりに勘当帳(久離帳?)に付けられました。(「お帳につく」と言う)
その後、関係が改善した場合は、勘当をとかれる事もありますが、その場合にも町奉行に届けを出して、勘当帳から人別帳に戻されたそうです。(「帳消し」と言う)
奉行所に届け出ずに内々で感動する場合は、内証勘当と言ったのだそうです。
あと、五人組はご近所さんを5戸前後で一組に纏めにして名主さんの下に置く江戸時代の統治制度となります。
相互扶助も行われましたが、この中で犯罪者を出すと連帯責任を取らされたりもしたのだそうです。
・勘当
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・五人組 (日本史)
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・久離
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