崖に行くと
雪の竜の里に、雲の切れ目から太陽が顔を出す。
目の前の道や垣根、更に横を見れば庭木や道沿いの屋根——。それらの上に積もった雪がキラキラと輝く。
その中を、私達は門に向かって歩いていた。
午前中、佳央様は平村を往復してきた。
私は家族や村に変わった事はなかったか聞きたいと思っていたのが、質問をするより先に蒼竜様から、
「崖まで、道は判るか?」
と質問されてしまった。私は、話をすぐに終わらせようと、
「恐らく、大丈夫だと思います。」
と返したのだが、蒼竜様は、
「本当か?」
と心配そうに確認してきた。私は、
「焔太様が先に行っているのです。
今の時期、山に出る人はそれほどいないと思いますので、足跡を辿れば良いではありませんか。」
と返した。蒼竜様は、
「奥に行けばそうかもしれぬ。
だが、門の近くでは、そうもゆくまい?」
と心配そう。私は、
「佳央様もおりますし。」
と安心材料を示したが、佳央様は、
「私も、なんとなくでしか判らないわよ?」
と言ってきた。私は、
「でも、竜の里の位置は判ると言っていたではありませんか。
崖も、同じなのでは?」
と指摘したが、
「竜の里は、別よ。」
と苦笑い。納得行かず、私は、
「そうなので?」
と聞いてみたが、佳央様は、
「直感で判るんだから、しょうがないじゃない。
説明のしようもないわ。」
と返した。どうも、本人も理由がわからないようだ。
自分が思う回答ではなかったが、これ以上聞いても無駄に違いないと思い、私は、
「そうなのですか。」
と返した。そして、
「いずれにしても、午前中、焔太様は崖を往復しているのです。
3回も通った道ならば、判り易い筈です。」
ともう一度指摘した。すると、蒼竜様はあまり納得していないようだったが、
「まぁ、門まで行けば判るか。」
と言ったのだった。
遠くに、金色の西門が見えてくる。
その下には、門番さんと雫様の姿もある。
私は、
「待たせてしまいましたね。」
と蒼竜様に言うと、蒼竜様は、
「雫が行くと言ったのだ。
このくらいは、我慢してもらわねばなるまい。」
と返した。
西門に到着する。
私は、
「こんにちは。
お疲れ様です。」
と雫様と門番さんに挨拶をした。
佳央様は、
「これ、確認して。」
と亜空間から取り出した通行手形を門番さんに渡す。
その門番さんは、
「うむ。」
と頷くと、腰に下がっていた帳面を手に取った。
そして、どこからか取り出した筆を一舐めし、帳面に何か書いていく。
門番さんは、
「通って良いぞ。」
と言いながら、通行手形を佳央様に返した。
佳央様が、通行手形を亜空間にしまう。
私は、
「ありがとうございます。」
とお礼を伝えた。そして、雫様に、
「遅くなって、すみませんでした。」
と声を掛けると、雫様は、
「別にええで。
うちが行きたかったからやし。」
と返した。私は、
「そう言ってもらえると助かります。」
と笑顔で返すと、雫様は、
「佳央、待っとったんやろ?
さっき、上、飛んどったし。」
と概ね事情を理解している模様。その通りだが、そのまま肯定すると、佳央様に悪い。
私は、遅かったのは天候のせいだと思っている事にしてしまおうと、
「今は日も射していますが、やはり天気のせいだと思いますので。」
となるべく婉曲に言うと、雫様は微妙な顔をして、
「話は見えんけど、まぁ、そうなんやろ。」
と肯定。話は続きそうな雰囲気だったが、蒼竜様が、
「では、行くか。」
と促したので、私も、
「そうですね。」
と同意した。そして門番さんに、
「すみません。」
と声を掛けた。門番さんは、
「何だ?」
と聞き返したので、私は、
「これから焔太様の所に行くのですが、どの足跡を辿れば良いか判りませんか?」
と質問をした。すると、門番さんは、
「そうだな・・・。」
と少し考え、
「この足跡だった筈だ。」
と森に続く足跡を指差した。私は、蒼竜様に、
「だそうです。
この足跡を辿って行きましょう。」
と声を掛けると、蒼竜様は、
「うむ。」
と納得した様子。私は、
「では、早速行きましょうと言いたいところですが、先にかんじきを履きませんか?」
と提案した。蒼竜様は、門の外の雪を見て、
「そうだな。」
と納得し、亜空間からかんじきを取り出した。
私の分は、佳央様に出してもらう。
草履の下にかんじきを敷き、しゃがんで紐を結び固定する。
先程まで白く輝いていた周囲の雪が、急に光を失う。
少し不安になり、空を見上げる。
──太陽が、偶々雲に隠れただけか。
屋敷を出たときよりも、青い部分が多いくらいだ。
私は胸を撫でおろし、立ち上がって周囲を見た。
蒼竜様と雫様は、旅慣れているからか、既にかんじきを履き終えている。
だが、佳央様の方は、もう少し時間がかかりそう。
雫様が、
「かおちゃん、結んだろか?」
と善意で手伝いを申し出る。が、佳央様は、
「もう少しだから。」
と自分で結びたいようだ。雫様は、
「そか。」
と言って結んでいる様子を見守っていた。
佳央様の準備も整い、足跡を辿り、崖に向けて出発する。
私は、
「佳央様。
村の様子は、変わりありませんでしたか?」
と聞くと、佳央様は、
「あっちも、一面、雪で真っ白だったわよ。」
と答えた。だが、先程私は『村』と言ったったものの、本当に聞きたい事は違う。
私は、
「実家の方も、変わりなかったですか?」
と聞くと、佳央様は、
「間違って踏んで、汰板を壊したとか言ってたわ。」
と、大きな話はその程度の模様。私は、
「そうでしたか。」
と思わず笑みが出た。佳央様は、
「秋から、まだ数ヶ月じゃない。」
と苦笑い。だが、心配なものは仕方がない。
私は反論したかったが、佳央様の父が亡くなっていることを思い出し、
「そうですね。」
と笑みが苦笑いに変わる。私は、何を言っても傷付けてしまうのではないかと思い、
「そういえば、この足跡。
途中でなくなりませんよね?」
と無理やり話を変えたのだった。
本日も、短めです。
作中、(後書きのネタで出したのが見え見えの)汰板というものが出てきますが、こちらは籾と玄米を分けるのに使った農具となります。
おっさんも詳しくは知らないのですが、取っ手のない大きな塵取りのような形をしているそうです。
千歯扱きを使って脱穀した後、唐箕で余計な稲の葉屑や中の入っていない籾などを吹き飛ばし、籾すりで籾から玄米を取り出した後、万石で選別し、選別しきれなかったものをこの汰板で玄米とそれ以外に分けたのだとか。
・文化遺産オンライン > 右上の虫眼鏡マーク > 「センダイ」で検索
https://bunka.nii.ac.jp/
・千歯扱き
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%8D%83%E6%AD%AF%E6%89%B1%E3%81%8D&oldid=97550868
・唐箕
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%94%90%E7%AE%95&oldid=95795565
・籾すり機
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%B1%BE%E3%81%99%E3%82%8A%E6%A9%9F&oldid=97929813




