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二日酔いで

 少々汚い話がありますので、お食事中の人はごめんなさい。m(__)m

 ただ、真っ白な世界。

 その中で目を()らすと、目の前にはぼんやりとしたものが浮かんでいる事に気がつく。

 例によって、私は夢の中にいるらしい。


 そのぼんやりとしたものが、徐々にはっきりと見え始めてくる。

 浮かんでいる数は、先程と違って2つ。

 浮き上がってきた輪郭に、それが何なのか確信する。


 私は、


「分け御霊(みたま)様と白狐ですか。」


と呼びかけると、分け御霊の方が、


「うむ。」


と返事をした。そして、


「新展開があったようじゃの?」


と問いかけてきた。私は少し考え、


「山を見る件、・・・でしょうか?」


と質問をすると、分け御霊は、


「うむ。」


(うなづ)いた。私はすぐに、


「そこで(きん)でも出れば、山を崩した事はちゃらになると思うのですが、如何でしょうか?」


と確認すると、分け御霊は、


「金は出ぬが、別の物は見つかるやもしれぬ。

 見つからぬやもしれぬ。」


と曖昧な事を言い出した。私はつい、


「どちらなのですか?」


と確認すると、分け御霊は少し眉根(まゆね)()せた後、


「そのままじゃ。

 見つかると決まってはおらぬようじゃからの。」


と答えた。私は、


「どういう事でしょうか?」


と質問すると、分け御霊は少し(うな)った後、


「既に、知っているはずじゃぞ?」


と返してきた。私は、


「未来の分岐(ぶんき)沢山(たくさん)あるという話でしょうか?」


と確認すると、分け御霊は、


「そういう事じゃ。」


と同意した。私は、


「どうすれば、見つかるので?」


と確認したが、分け御霊は少し(にら)みながら、


「判っておったら、指示しておるは。」


と返した。分け御霊は、イラッとしている様子。


 眼の前にいるのは、稲荷神の分け御霊。

 一般的に、その稲荷神に拝めば金運が上がると言われている。

 だと言うのに、その関係者の一人である私が借金まみれ。

 これでは、拝みに来る人はいなくなるに違いない。

 なので、分け御霊は私の成長も考えながら、なるべく協力しているのだといった内容を前に言っていた気がする。


 私は少し怒らせてしまったようだと思い、


「申し訳ありません。

 出来る限り、現地で頑張って探して参ります。」


と伝えると、分け御霊は、


「こちらも沽券(こけん)に関わるのじゃ。

 頼んだぞ。」


と気合の入った声で言ったのだった。

 ここで、分け御霊がスーッと姿を消す。



 白狐が、


<<何が出るかくらい教えてやれば、探しやすいじゃろうに・・・。>>


(つぶや)く。言われてみれば、その通りだ。

 私も、


「そういえば、金ではないとだけは教えてくれましたが、別のものとしか(おっしゃ)いませんでしたね。」


と同意すると。白狐は、


<<そうじゃな。>>


と頷いたが、少し考え、


<<よもや、大判(おおばん)小判(こばん)という事もあるまいが・・・。

  (ある)いは、1つに絞れぬという事か?>>


と独り言を呟いた。そして、少し間を置き、


<<小童(こわっぱ)よ。

  (わらわ)も良くは知らぬが、鉱山からは、一つの種類の石だけが出るとは限らぬと聞いた事がある。

  安価じゃが容易(たやす)く見つかる物と、高価じゃが探すは困難な物があるのやもしれぬ。

  他にも、探してみるじゃぞ。>>


と白狐が指示した。私は、


「なるほど、1つとは限らないのですか。

 分かりました。

 そうします。」


と同意すると、白狐も、


<<うむ。>>


と頷いたのだった。



 暫くして、白狐が上を向く。

 そして、


<<ん?

  寝過ごしてしもうたか。>>


と言ってきた。私は、


「そうなので?」


と返すと、白狐は、


<<今日も、午前は神社であろうが。

  早う、禊に行け!>>


と手で追い払う動作を始めた。私は、


「そうでしたっけ?」


と言いながら目を覚まそうとすると、上から不快な何かの声が聞こえた。


 頭を少し振り、目を開く。

 すると、更科さんが、


「和人、やっと起きたわね。

 早くしないと、朝日が登るわよ?

 (みそぎ)、しないと。」


と矢継ぎ早に言ってきた。だが、その声が妙に頭に響き、考えがまとまらない。

 と言うか、考えようとすると、頭が痛くなるのだ。

 私は、


「もう少し、静かにお願いします。」


と伝えたのだが、更科さんは、


「分ったけど、早くしないと。」


と両手で手招きをする。

 が、次の瞬間、私の布団(ふとん)が一気に()ぎ取られてしまった。

 一気に、寒さが体に染み渡り、ブルリと震える。

 慌てて両手で体を(さす)りながら丸くなったが、今は正月も間近。

 そんなもので(しの)げるような寒さではない。

 恨みを込めて更科さんを見たが、手に布団はない。


「ほらっ!

 急いでっ!」


と大きな声を掛けてきたのは佳央様だ。頭が、ガンガンする。

 その佳央様の方を見ると、足元には私の布団。鬼のような所業は、佳央様が行ったようだ。

 私は佳央様を(うら)めしく思いながら見上げたのだが、その佳央様に、私は無理やり立たされてしまった。

 急に立ったせいか、()()もし始める。


 更科さんが私の腕を取り、


「急ぐわよ。」


と言いながら廊下の方に連れて行き始めた。

 私は、


「あまり急がないで下さい。

 気分が悪いので。」


と伝えると、更科さんが、


「二日酔い?」


と確認した。そして、私の頭に白魔法(神聖魔法)をかけ始める。

 私は少し楽になるのを感じ、


「はい。

 そのようです。」


と同意し、


「ありがとうございます。」


とお礼を伝えると、更科さんも、


「うん。」


と笑顔を向けた。が、佳央様から、


「二人共、いちゃつく暇があったら急いで!」


と怒られてしまった。更科さんが、


「ごめんなさい。」


と謝ると佳央様は、


「いいから、急いで。」


と私の手を引っ張ったのだった。



 お勝手を通り、外に出る。

 井戸の方に続く飛び石の道だけが除雪されているが、道の左右には、お腹の高さまで雪が積もっている。

 昨夜、また雪が降ったのかもしれない。


 移動するたびに、体が揺れる。

 そのせいか、更科さんから白魔法(神聖魔法)を掛けてもらっているにも拘らず、()き気が増してきた。

 私は、


「先に、(かわや)に行きたいのですが。」


とお願いしたのだが、佳央様から、


「終わるまでは、駄目よ。」


と井戸まで連行されてしまった。



 井戸に辿(たど)り着くと、古川様が、


(みんな)、・・・遅かったわ・・・ね。」


と気持ち早口で指摘してきた。

 古川様は、既に手に大麻(おおぬさ)を持っており、足元には、水の入った(おけ)が置いてある。

 準備万端(ばんたん)という雰囲気だ。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝ったのだが、古川様は、


「それは良いから・・・ね。

 でも・・・その前に、・・・白魔法(神聖魔法)は・・・()めてね。」


と言ってきた。更科さんが、


「和人、二日酔いなんだけど。」


と伝えてくれたのだが、古川様は、


「禊の間だけで・・・いいから・・・ね。」


(さと)すように言ってきた。更科さんが、


「大丈夫?」


と声を掛けながら白魔法(神聖魔法)()める。

 私は、


「仕方ありません。」


と返したが、頭痛と吐き気が更に増してきた。私は、


「先に、厠に行かせてもらえると嬉しいのですが・・・。」


とお願いしたが、古川様は、


()らしそう・・・なの?」


と聞いてきた。私は、吐き気があるだけで、尿意(にょうい)はないので、


「漏らしはしませんよ。」


と返したのだが、古川様は、


「なら、・・・始めるわ・・・よ。」


とすぐに禊を始めようとした。私は、(のど)まで込み上げるものを感じつつ、


「結構、極まってきているのですが・・・。」


と伝えたのだが、古川様からは、


「水を3回・・・、被るだけだから・・・ねっ。」


と強く言われてしまった。


──とにかく、終わらせる必要がある。


 私はそう思い、


「では、すみませんが1つ目の桶をお願いします。」


と言うと、古川様は、


「分った・・・わ。」


と返し、大麻を振るいながら古川様にしては早口で祝詞(のりと)を上げ桶を私に渡してきた。

 早く厠に行きたいので、一気に水を被る。

 寒さにブルリと震え、一瞬、出る寸前の状態に(おちい)ったが、なんとか踏みと留まる事に成功する。


 古川様は、早速2回目の祝詞を上げ始めたのだが、寒さも相まって、いよいよ危険な状態になり始める。

 祝詞が終わり、桶を渡される。

 私は、下っ端らに力を入れ、色々気合を入れて一気に水を被った。

 体を震わせながら、なんとか耐える。

 が、もう一回残っている。

 私は、もう無理だと思ったが、ここで諦めるわけには行かない。


 古川様が3回目の祝詞を上げる間に、本当に限界に近くなってくる。

 思わずしゃがみそうになったが、佳央様から、


「やり直しになるわよ。」


と言われ、これもぐっと我慢(がまん)した。

 古川様の祝詞が終わり、桶を渡そうとする。

 私は、それをひったくるように奪い、一気に水を被った。

 もう、限界まで時間がない。

 私は、無言で口に手を当てながら厠に移動したのだった。



 その後、厠で多少ましになってお勝手まで戻ると、先ずは更科さんが、


「大丈夫だった?」


と言いながら白魔法(神聖魔法)を掛け始めてくれた。

 私は、更科さんにお礼を伝えようとすると、先に古川様が、


「そこまで限界だったらなら・・・、言ってくれたら良かった・・・のに。」


と小言を言ってきた。私はイラッとしながら、


「吐きそうだと伝えましたよ?」


と反論さたが、更科さんから、


「和人。

 吐きそうとは言っていなかったわよ?」


反駁(はんばく)された。私は少し疑いながら、


「そうでしたっけ?」


と確認すると、古川様、佳央様、更科さんの全員から、


「ええ。」「そうよ。」「うん。」


と返してきた。どうやら、間違いないようだ。

 仕方がないので、私は、


「二日酔いで、頭が回らなかったようです。」


と頭を()きながら言い訳をした。

 すると更科さんは、


「よほど、切羽詰まってたのね。」


と言って、お腹の方にも白魔法(神聖魔法)を掛けてくれたのだった。


 今回も、鐚銭(びたせん)レベルのネタを一つ。。。(^^;)


 作中、白狐が「鉱山というのもは、一つの石だけが出るとは限らぬ」と言っていますが、こちら、例えば佐渡金山では、金の他に銀なども産出していました。

 佐渡金山は、江戸時代の最盛期(寛永年間)において金が年500kg以上出たそうですが、銀は37.5t(トン)も採掘されたのだそうです。


 話は脱線しますが、佐渡金山は江戸幕府でも重要な金山の一つという事で、佐渡奉行という役職が置かれました。この佐渡奉行、正徳2年(1712年)以降は2人体制となったそうですが、1人は単身赴任で佐渡まで行かされたのだとか。(もう1人は、江戸詰めだったそうです。)


・佐渡金山

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%BD%90%E6%B8%A1%E9%87%91%E5%B1%B1&oldid=98746184

・佐渡奉行

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%BD%90%E6%B8%A1%E5%A5%89%E8%A1%8C&oldid=91418857

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