あの崩れた崖から
酒の席というものは、大体楽しいものだ。
だが、今の私はそうではない。
赤竜帝から理不尽な動きがあることを伝えられ、楽しむどころの騒ぎではないのだ。
赤竜帝が、
「出来る事から順にやるしかあるまい。」
と助言する。私は、
「そうですね。」
と返し、冗談で、
「あの崩れた崖から、金か銀でも出てくれば解決するのですがね。」
と苦笑いした。だが、焔太様から、
「山上の山じゃないんだ。
出ても、自分の物にすれば盗人と同じ。
ご法度じゃないか?」
と真面目な言葉が飛ぶ。
私は、
「そうですね。
でも、掘り当てたのなら、少しは金子を勘弁してくれるかもしれないではありませんか。」
と説明したのだが、大月様が、
「いやいや。
先に見つければともかく、権利は主張できまい。」
と返した。微妙に、話が噛み合っていないのは、大月様が酔っているからに違いない。
私は、
「ひょっとして、先に見つけに行けばよいのでしょうか?」
と古川様に確認したが、
「じゃから、妾が言うては回避できぬと言うておるじゃろうが。」
と苦笑い。なんとなく、手応えを感じる。
私は、
「そうでした。
ですが、これが当たりなら万事解決ですね。」
と笑うと、雫様が、
「面白そうやから、うちが付いてったろか?」
と言い出した。私は段々とその気になってきて、
「はい。
その時は、お願いします。」
と笑顔で返すと、雫様が、
「で、いつ掘りに行くんや?」
と言ってきた。私は困って、
「札の準備が整った後にでも・・・。」
と返すと、雫様は、
「瓢箪から駒っちゅう事もあるかもしれんで?
早い方がええやろう。」
と催促してきた。確かに、見つけられるのであれば、早い方が良いに違いない。
私は、
「確かにそうですが・・・。」
と迷いながら佳央様に、
「明日、用事はありますか?」
と確認した。すると、蒼竜様から、
「今日の、この雪だ。
もう、春までは雪の下であろう。
行くにしても、雪解けを待った方が良いのではないか?」
と止められた。が、いざ止められると焦る気持ちが湧いてくる。
私は、
「先を越されたら大変なのですが・・・。」
と主張すると、焔太様から、
「ならば、雪熊の間引きついでで、俺と一緒に見に行くか?」
と提案してくれた。私はすぐに、
「是非、お願いします。」
と笑顔で返したのだが、今度は大月様から、
「戸赤。
間引きは暫く休みと、言われただろうが。」
と待ったがかかった。焔太様が、
「おっと。
そうだった。
すまんが、この話はなしだ。」
と謝る。焔太様と仕事のついでに見に行くという案は、駄目のようだ。
私は残念に思いながら、
「そうですか・・・。
分かりました。」
と返し、
「他に、行けそうな人はいませんか?」
と募ってみた。だが、皆、目を背ける。
少しの間の後、雫様が、
「戸赤。
間引きの仕事がのうなったんやったら、明日は何すんや?」
と確認をする。
すると、焔太様は、
「・・・聞いておりません。」
と本人も知らない模様。ほんの少し、期待が膨らむ。
雫様は、
「なら、行ってもええんちゃうか?」
と少し笑いながら言ってくれたが、大月様から、
「いや。
明日は、町の見回りをしてもらう予定でな。」
と予定が組まれているとの事。仕事では、仕方がない。
焔太様は、
「だそうだ。」
と苦笑いし、私も、
「そのようですね。」
と返した。赤竜帝が、
「皆に用事があるのならば、一緒に行くか?」
と誘ってきた。が、赤竜帝を連れ出すのは恐れ多い。
ちらりと蒼竜様や大月様を見ると、首を横に振っている。これは、断れと言っているに違いない。
私は、
「流石に、それは・・・。」
と困り顔で返したのだが、赤竜帝は笑顔で、
「遠慮せずとも良いぞ。」
と乗り気のように見える。私は丸く収めるにはどうしたら良いかと少し悩み、
「先程、古川様は自分で考えないと回避できないと仰っておりました。
えっと・・・、ですので、今回は誘われたら負けなのだと思います。
ですので、折角のお誘いですが、今回は辞退させていただければと・・・。」
と少しつまりながら、なんとか理由をこじつけた。すると、赤竜帝は、
「なるほど。
言われてみれば、その通りだ。」
と笑顔のまま返す。赤竜帝は、少しふざけて言ってみただけだったのかもしれない。
私は、
「蒼竜様は、如何ですか?」
と確認すると、蒼竜様は、
「いっ・・・、」
と何か話し始めたが、赤竜帝からの目配せで言葉を止めた。そして、
「うむ。
今のうちに、現場を見ておいてもよいだろうからな。」
と、乗り気ではないようだが了承してくれた。
私は、
「ありがとうございます。
では明日、宜しくお願いします。」
と少し頭を下げた。佳央様が、
「私は、まだ『良い』って言ってないわよ?」
と文句を言ってきた。佳央様は、何か用事があるのかもしれない。
そう思い、私は、
「ひょっとして、都合が悪かったですか?」
と確認したのだが、佳央様は、
「無いけど。」
と言ってみただけの模様。
──なら、初めから了解して欲しい。
私はそんな風に思ったが、文句を付けるのはやめて、
「では、済みませんがお願い出来ますか?」
と少し頭を下げた。すると、佳央様は、
「分ったわ。」
と了承。私は、
「ありがとうございます。
では、よろしくお願いします。」
とお礼を伝えた。私は古川様に、
「古川様も大丈夫でしょうか?」
と聞いたが、考えてみれば今は竜の巫女様が憑依した状態。
古川様は、
「問題ないじゃろう。」
と返事をしたが、当人の意見ではない。私は、少し不安に感じたが、
「後で、宜しくお伝え下さい。」
とお願いし、古川様も、
「良いじゃろう。」
と引き受けてくれた。私は、
「宜しくお願いします。」
と重ねてお願いした。
私は、これで借金もちゃらになるに違いないと思ったのだった。
本文、短めです。
後書きも仕込む余裕がなかったので、小粒どころか鐚銭レベルです・・・。
作中、焔太様が「ご法度」と言っていますが、これはご存知の方も多いと思いますが、元は江戸時代に発布された法令の事です。
これがいつの間にか『ご法度』と言うだけで法律にある、つまり法で禁止されている事を示唆するようになったようです。
後、後書きの冒頭の鐚銭は、以前、「副組合長の野辺山さん」の後書きでは単に「文字がすり潰れて辛うじて読めるような銭」と簡単に紹介しましたが、穴が空いたり欠けていたり文字が潰れたりした粗悪な銭の事となります。額面以下で流通していました。
室町中期から江戸初期にかけて中国から銭が輸入されていたそうですが、このうち粗悪な物や、日本で私造された(鋳造技術が低かったせいで)穴や文字潰れがあるような銭を指して使われた言葉なのだそうです。また、正規の銭でも、長い間流通して文字がすり潰れたような物は、鐚銭と呼ばれたのだとか。
江戸時代初期の頃まで中国から銭が輸入されて使われていた点や、私造された鐚銭が贋金ではなく正規の銭として流通していた点は、今では考えられませんね。
・ご法度
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・鐚銭
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%90%9A%E9%8A%AD&oldid=97915389
〜〜〜
今週は、年賀状をなんとかするため図案を考え中・・・。
で、今夜か明日こそ書く予定のおっさんです。
明日はクリスマス?いや、知らんがな。(^^;)




