表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
577/680

そろそろ話を戻すか

 即席料理(そくせきりょうり)を出す店での飲み会が続く。

 店の人がやってきて、


御免下(ごめんくだ)さい。」


と声を掛けてきた。赤竜帝が、


「うむ。」


と返すと障子(しょうじ)が開き、店の人が、


御待遠様(おまちどうさま)でした。」


と言って、新しい料理を運んできた。

 皿の上には、右から大根、豆腐、卵をそれぞれ焼いて味噌を塗った物が乗っている。特に説明はないが、『三種の田楽』と言った所か。


 私は赤竜帝に、


「一番右は、風呂(ふろ)()き大根でしょうかね?」


と確認すると、雫様が、


()しいけど、ちゃうで。」


と返した。私は違ったかと思いながら、


「すみません。

 知ったかぶりをしてしまいまして。」


と謝ると、雫様は、


「いや。

 ように似とるから、しゃぁないで。」


と少し笑い、


「大根、ほんのり茶色ぅなっとるやろ?

 これ、味噌(みそ)醤油(しょうゆ)で煮たからや。」


と付け加えた。私が、


「そういえば、風呂吹き大根は米の研ぎ汁で煮ると聞きました。

 色が付くのは、不自然ですね。」


と納得すると、雫様は、


「そや。

 よう、知っとるな。」


()めてくれた。私は、


「いえ、たまたまです。」


と笑って返し、


「それで、こちらは何という料理なのでしょうか?」


と質問した。が、雫様は、


「判らん。」


と答えた。私は珍しい料理なのだろうと思い、


「雫様も知らない料理なのですか。」


とお店に感心したのだが、雫様は、


「ちゃう、ちゃう。

 焼き色付いとるから田楽の何かやけど、田楽にも色々あるやろ?

 そやから、食べてみんと判らんのや。」


と説明した。私は、


「そんなに、種類があるので?」


と聞くと、雫様は、


「そうや。

 さっきも、醤油か、味噌で煮とる言うたやろ?

 他に、掛かっとる味噌も、何()ぜるんかで、名前、変わるやんか。」


と答えた。柚子(ゆず)味噌や(ねぎ)味噌を思い出す。

 私は、


「ああ・・・。」


と納得すると、雫様は、


「そやから、答えるんは食べた後や。」


と少し笑った。私は、


「そうですね。」


と納得した。が、先に問題の大根を食べた蒼竜様が、


「田楽大根か。

 柚子味噌や辛子味噌も良いのだがな。」


と答えを言ってしまう。

 雫様、苦笑い。

 蒼竜様、先程の挽回(ばんかい)帳消(ちょうけ)しになった模様。が、雫様は大根を食べ、


「なるほど、これはただの田楽大根やな。

 大根は味噌汁で煮ただけ、味噌も、味醂(みりん)鰹節(かつおぶし)(なん)かの出汁(だし)混ぜただけみたいやしな。」


と納得した模様。私も一口(ひとくち)食べ、


「風呂吹き大根とは、似て非なる物ですね。」


と納得し、口に酒を運んだのだった。



 赤竜帝が、


「そろそろ、話を戻すか。」


と言った。思わず、小首(こくび)をかしげる。


──これは、山を崩した時の話で良いのだろうか?


 私は、一応、


「はい。」


とだけ答えたが、次の言葉を待つ事にした。

 赤竜帝は、


「佳央からも話は聞いたのだが、此度(こたび)の件、戸赤5割、山上4割、氷川1割で佳央は無罪と言った所か。

 佳央については、終止(しゅうし)嫌な予感がすると言って()めようとしたそうだからな。」


と、山で誰がどの程度悪かったかを示した。

 最終的に魔法を撃って山を崩したのは私だが、それよりも焔太様の方が悪いと判断したようだ。

 焔太様が、


「最終的に撃つと決めたのは、山上です。」


とその割合に不服を申し立てるが、赤竜帝は、


「撃つように(そそのか)したのは、戸赤ではないか。」


と指摘し、


「山上も、戸赤に言われねば撃たなかったのではないか?」


と聞いてきた。私も、


「はい。」


と同意する。

 すると焔太様は、少し早口になりながら、


「それは、誘導ではありませんか。」


と文句を付け、


「それに、『成果なしでは報告し(づら)いだろう』と、何度も(あお)ったのは氷川様です。

 俺・・・私が半分と言いますが、氷川様だけ1割というのは少な過ぎるのではありませんか?」


とやや興奮気味に指摘した。

 赤竜帝は、


「軽く煽ったのは違いあるまい。

 だが、全て戸赤が先に提案しているではないか。」


と反論したのだが、焔太様は、


「確かにそうですが、決めては氷川様の言葉だったと考えます。」


反駁(はんばく)する。

 私も、


「はい。

 確かに、そうでした。」


とここは焔太様に同意する。佳央様も、


「そう言えば、やたらと和人に決めさせたがってたわ。」


と発言。私は頷き、焔太様も、


「そうだったな。」


と三者、意見が(そろ)う。

 ここで大月様が、


「お前達。

 ここにおらぬ者に罪を(なす)り付けようとするでない。」


と少し怒った表情。だが、先程まで黙っていた古川様が、


「そう、決めつけるものではないぞ。」


と発言した。話し方から、竜の巫女様が憑依(ひょうい)したのだろう。

 大月さまは、


「しかし、」


と反論しようとするが、古川様が言葉を(さえぎ)り、


「まぁ、待て。

 氷川を呼べば済む話じゃろうが。

 佳央だったか。

 呼んでやれ。」


と指示をした。身分的には古川様の方が上。

 大月様は眉間(みけん)(しわ)を寄せつつも、


「承知致しました。」


と了承した。佳央様も、


「分かったわ。」


と言って、目を(つむ)る。念話を始めたのだろう。

 暫くして佳央様が目を開けると、


四半刻(30分)内に来るそうよ。」


と報告した。大月様は、


「では、公正にな。」


と言うと、『竜殺し』を一口飲んだ。

 だが、公正にも何も、今の話が全て。

 私は、大月様に文句を付けたい所ではあったが、この不満は口にはせず、杯の酒と一緒に飲み込んだ。

 本日も短めです。


 作中、「大根や豆腐、卵を焼いて味噌を塗ったもの」が出てきますが、こちらはそれぞれ田楽大根、木の芽田楽、卵田楽の想定です。

田楽大根は大根一式料理秘密箱からで、薄い味噌汁で煮た大根を炙って味噌を塗ったもの、木の芽田楽は、豆腐百珍からで豆腐を茹でて炙った後、木の芽を入れた味噌に甘酒を少し加えて掛けたもの、卵田楽は万宝料理秘密箱からで竹筒に卵を入れて蒸した後、包丁で形を整えて少し火にかけ、山葵(わさび)山椒(さんしょう)等を混ぜた味噌を掛けたものとなります。(詳細は出典参照。あと、例によって誤訳してたらすみません(^^;))

 なお、卵田楽には、豆腐百珍の卵と醤油、酒、酢を混ぜて田楽に塗って焼いたバージョンもありますが、こちらではありません。


・大根一式料理秘密箱 - 田楽大根仕方

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=100249342&pos=17&lang=ja

・豆腐百珍 - 木の芽田楽

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200018103&pos=12&lang=ja

・卵田楽

 http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/recipe/044.html.ja

・万宝料理秘密箱 - 卵田楽の仕方

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200021712&pos=42&lang=ja

・豆腐百珍 - 鶏卵(たまご)でんがく

 http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200018103&pos=31&lang=ja

~~~

 明日は所用のためお休みします。(==;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ