そろそろ話を戻すか
即席料理を出す店での飲み会が続く。
店の人がやってきて、
「御免下さい。」
と声を掛けてきた。赤竜帝が、
「うむ。」
と返すと障子が開き、店の人が、
「御待遠様でした。」
と言って、新しい料理を運んできた。
皿の上には、右から大根、豆腐、卵をそれぞれ焼いて味噌を塗った物が乗っている。特に説明はないが、『三種の田楽』と言った所か。
私は赤竜帝に、
「一番右は、風呂吹き大根でしょうかね?」
と確認すると、雫様が、
「惜しいけど、ちゃうで。」
と返した。私は違ったかと思いながら、
「すみません。
知ったかぶりをしてしまいまして。」
と謝ると、雫様は、
「いや。
ように似とるから、しゃぁないで。」
と少し笑い、
「大根、ほんのり茶色ぅなっとるやろ?
これ、味噌か醤油で煮たからや。」
と付け加えた。私が、
「そういえば、風呂吹き大根は米の研ぎ汁で煮ると聞きました。
色が付くのは、不自然ですね。」
と納得すると、雫様は、
「そや。
よう、知っとるな。」
と褒めてくれた。私は、
「いえ、たまたまです。」
と笑って返し、
「それで、こちらは何という料理なのでしょうか?」
と質問した。が、雫様は、
「判らん。」
と答えた。私は珍しい料理なのだろうと思い、
「雫様も知らない料理なのですか。」
とお店に感心したのだが、雫様は、
「ちゃう、ちゃう。
焼き色付いとるから田楽の何かやけど、田楽にも色々あるやろ?
そやから、食べてみんと判らんのや。」
と説明した。私は、
「そんなに、種類があるので?」
と聞くと、雫様は、
「そうや。
さっきも、醤油か、味噌で煮とる言うたやろ?
他に、掛かっとる味噌も、何混ぜるんかで、名前、変わるやんか。」
と答えた。柚子味噌や葱味噌を思い出す。
私は、
「ああ・・・。」
と納得すると、雫様は、
「そやから、答えるんは食べた後や。」
と少し笑った。私は、
「そうですね。」
と納得した。が、先に問題の大根を食べた蒼竜様が、
「田楽大根か。
柚子味噌や辛子味噌も良いのだがな。」
と答えを言ってしまう。
雫様、苦笑い。
蒼竜様、先程の挽回が帳消しになった模様。が、雫様は大根を食べ、
「なるほど、これはただの田楽大根やな。
大根は味噌汁で煮ただけ、味噌も、味醂と鰹節か何かの出汁混ぜただけみたいやしな。」
と納得した模様。私も一口食べ、
「風呂吹き大根とは、似て非なる物ですね。」
と納得し、口に酒を運んだのだった。
赤竜帝が、
「そろそろ、話を戻すか。」
と言った。思わず、小首をかしげる。
──これは、山を崩した時の話で良いのだろうか?
私は、一応、
「はい。」
とだけ答えたが、次の言葉を待つ事にした。
赤竜帝は、
「佳央からも話は聞いたのだが、此度の件、戸赤5割、山上4割、氷川1割で佳央は無罪と言った所か。
佳央については、終止嫌な予感がすると言って止めようとしたそうだからな。」
と、山で誰がどの程度悪かったかを示した。
最終的に魔法を撃って山を崩したのは私だが、それよりも焔太様の方が悪いと判断したようだ。
焔太様が、
「最終的に撃つと決めたのは、山上です。」
とその割合に不服を申し立てるが、赤竜帝は、
「撃つように唆したのは、戸赤ではないか。」
と指摘し、
「山上も、戸赤に言われねば撃たなかったのではないか?」
と聞いてきた。私も、
「はい。」
と同意する。
すると焔太様は、少し早口になりながら、
「それは、誘導ではありませんか。」
と文句を付け、
「それに、『成果なしでは報告し辛いだろう』と、何度も煽ったのは氷川様です。
俺・・・私が半分と言いますが、氷川様だけ1割というのは少な過ぎるのではありませんか?」
とやや興奮気味に指摘した。
赤竜帝は、
「軽く煽ったのは違いあるまい。
だが、全て戸赤が先に提案しているではないか。」
と反論したのだが、焔太様は、
「確かにそうですが、決めては氷川様の言葉だったと考えます。」
と反駁する。
私も、
「はい。
確かに、そうでした。」
とここは焔太様に同意する。佳央様も、
「そう言えば、やたらと和人に決めさせたがってたわ。」
と発言。私は頷き、焔太様も、
「そうだったな。」
と三者、意見が揃う。
ここで大月様が、
「お前達。
ここにおらぬ者に罪を擦り付けようとするでない。」
と少し怒った表情。だが、先程まで黙っていた古川様が、
「そう、決めつけるものではないぞ。」
と発言した。話し方から、竜の巫女様が憑依したのだろう。
大月さまは、
「しかし、」
と反論しようとするが、古川様が言葉を遮り、
「まぁ、待て。
氷川を呼べば済む話じゃろうが。
佳央だったか。
呼んでやれ。」
と指示をした。身分的には古川様の方が上。
大月様は眉間に皺を寄せつつも、
「承知致しました。」
と了承した。佳央様も、
「分かったわ。」
と言って、目を瞑る。念話を始めたのだろう。
暫くして佳央様が目を開けると、
「四半刻内に来るそうよ。」
と報告した。大月様は、
「では、公正にな。」
と言うと、『竜殺し』を一口飲んだ。
だが、公正にも何も、今の話が全て。
私は、大月様に文句を付けたい所ではあったが、この不満は口にはせず、杯の酒と一緒に飲み込んだ。
本日も短めです。
作中、「大根や豆腐、卵を焼いて味噌を塗ったもの」が出てきますが、こちらはそれぞれ田楽大根、木の芽田楽、卵田楽の想定です。
田楽大根は大根一式料理秘密箱からで、薄い味噌汁で煮た大根を炙って味噌を塗ったもの、木の芽田楽は、豆腐百珍からで豆腐を茹でて炙った後、木の芽を入れた味噌に甘酒を少し加えて掛けたもの、卵田楽は万宝料理秘密箱からで竹筒に卵を入れて蒸した後、包丁で形を整えて少し火にかけ、山葵や山椒等を混ぜた味噌を掛けたものとなります。(詳細は出典参照。あと、例によって誤訳してたらすみません(^^;))
なお、卵田楽には、豆腐百珍の卵と醤油、酒、酢を混ぜて田楽に塗って焼いたバージョンもありますが、こちらではありません。
・大根一式料理秘密箱 - 田楽大根仕方
http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=100249342&pos=17&lang=ja
・豆腐百珍 - 木の芽田楽
http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200018103&pos=12&lang=ja
・卵田楽
http://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/recipe/044.html.ja
・万宝料理秘密箱 - 卵田楽の仕方
http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200021712&pos=42&lang=ja
・豆腐百珍 - 鶏卵でんがく
http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=200018103&pos=31&lang=ja
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明日は所用のためお休みします。(==;)




