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すぐ入れてやれ

 とある即席料理(そくせきりょうり)をやっている茶屋にて、赤竜帝、古川様、蒼竜様、大月様、佳央様、更科さんと私は、雫様と彼女の荷物持ちに駆り出されていた焔太様が来るのを待っていた。

 だが、蒼竜様の話しによれば、まだ到着まで四半刻(30分)ほどかかるとの話。

 暫くは、雑談をして待っていた。



 赤竜帝が、


「先に始めるか?」


と提案してきた。どうやら、待ちきれなくなったようだ。

 私も、蒼竜様の顔をちらっと確認してから、


「そうですね。」


肯定(こうてい)。蒼竜様は、


「ならば、雫に連絡しておくとしよう。」


と言った。何の連絡もなしに先に始めていたら、気分が悪いかもしれない。

 赤竜帝が、


「うむ。」


と頷き、大月様に、


「では、頼む。」


と指示を出した。大月様が、


御意(ぎょい)でございます。」


肯定(こうてい)し、障子(しょうじ)の方に向かう。すかさず、店の人がやって来た。

 大月様は、少し障子を開けると、


「先ずは銚子(ちょうし)と簡単な(さかな)もな。」


と指示を出す。すると店の人は、


「分かりました。」


と返事をし、障子から離れていった。

 きっと、そちらに調理場があるのだろう。

 その後、赤竜帝が、


「そう言えば、山上。

 不知火(しらぬい)が、(みょう)な事を言っておったぞ。」


と話しかけてきた。何となく、嫌な予感がする。

 私は、恐る恐る、


「何が妙なのでしょうか?」


と質問すると、赤竜帝は、


「山上が、雪熊達から山の(ぬし)として認められたやもしれぬと言っていたのだ。」


と答えた。私は、ぎょっとして、


「人間でも、なってしまうものなので?」


と確認すると、赤竜帝は、


「珍しい例ではあるがな。」


と楽しそうに笑う。私は、


「それで、なってしまうとどうなるので?」


と確認すると、赤竜帝は、少し冗談っぽく、


「我こそは一番の取り巻きにならんとばかり、雪熊が寄ってくるのではないか?」


と笑い声を漏らす。私も笑って、


「ひょっとして、冗談ですか?」


と質問したのだが、赤竜帝は、


「いや。

 聞いたままだ。」


と真面目な顔になる。私は心配になり、


「ならば、里に雪熊が入ってきたりするのでしょうか?」


と伝えると、赤竜帝は、


「里の門には門番がいるのだ。

 易々(やすやす)とは入れまい。」


とこれは否定。私は少し安心して、


「それならば、良かったです。

 今の季節、これを理由に里を追い出されたら大変ですので。


と冗談風に言うと、赤竜帝は、


「侵入を許さぬうちはな。」


と笑顔。私は、


「ならば、門番さんに頑張ってもらわねばですね。」


と返したのだった。



 暫くして、障子の外から、


「失礼いたします。」


と声がかかる。酒と肴を持ってきたようだ。

 赤竜帝が、


「うむ。」


と返事をすると、スーっと障子が開いた。そして、(ぜん)を運び入れる。

 膳の上を見ると、(さかずき)と小皿が3つ並んでいる。

 小皿は、(するめ)、小松菜と油揚げの煮浸し、それと、黄色い物が詰まった蓮根(れんこん)だ。

 私は、


「変わった蓮根料理ですね。」


と言うと、赤竜帝が、


(とが)めはせぬ。

 先に、少しだけ食べてみろ。」


とニヤリ。私は、何かあるのだろうと思ったが、慎重に少しだけ黄色い部分を(かじ)ってみた。

 すると、たちまち、口の中にえげつない辛さが広がり、涙目になった。

 私は口を抑え、盃を手に持ち、早く入れてくれるように催促(さいそく)した。

 赤竜帝が慌てた声で、


「これは、苦手であったか。

 大月、すぐ入れてやれ。」


と酒を注ぐように指示をすると、大月様も立ち上がりながら、


「はい。」


と言って急ぎ銚子から酒を注いでくれた。

 一気に、それを飲む。

 クーッと、酒気が体に染み渡る。

 足りずに、もう一度盃を差し出す。

 大月様が二杯目を注いでいると、正面の更科さんが、


「煮浸し、食べて。」


と勧めてきた。先ずは、大月様が注いでくれた酒を飲む。

 そして、煮浸しを口に入れると、辛いのが和らいだ。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝ると、赤竜帝は、


「いや。

 が、山上は辛いのも苦手であったか。」


と申し訳なさそうな顔。

 私は、


「どうも、そのようで。」


と苦笑い。無意識に頭を()いていたので、慌てて手を下ろした。

 恥ずかしさのせいか、体がグンと熱を帯びる。

 赤竜帝は周りを見回し、


「いきなりこれであるが、始めるとするか。」


と苦笑いしながら一言。本日の飲み会が始まった。


 本日、所用につき短めです。


 作中、『黄色い物が詰まった蓮根(れんこん)』が出てきますが、こちらは『辛子蓮根』を想定しています。

 辛子蓮根は、茹でた蓮根に辛子と味噌を混ぜたものを入れ、卵黄とそら豆粉、小麦粉を水で溶いて衣にし揚げた料理となります。現代では、卵黄とそら豆粉ではなくウコン(ターメリック)を使っているとのこと。

 江戸の頃、熊本藩で坊さんが病弱だった殿様に蓮根を食べさせると良いと進言し、賄方(まかないかた)が考案した料理という説があるそうです。


 後、今日、おっさん、新米を買いに行ってきたのですが、その前にwikiを調べてへーっと思ったので、その話も一つ。

 新米と言えば、一般的にはその年取れた米というイメージです。

 ところが、JIS法上での米は米穀年度で管理されているそうですが、この米穀年度は11月が始まりなのだそうです。このため、10月に刈り取りが終わった米は、一般的な感覚と異なり前年度産となるのだそうです。(令和5年10月に刈り取ると、令和4年度産になる)

 11月始まりの「年度産」ではなく1月始まりの「年産」と表記しているお米があるのは、早場米を年度表記すると、まるで古米のように見えるからといった事情もあるようです。


・辛子蓮根

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%BE%9B%E5%AD%90%E8%93%AE%E6%A0%B9&oldid=96634228

・からし蓮根 熊本県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/karashi_renkon_kumamoto.html

・新米と古米

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%96%B0%E7%B1%B3%E3%81%A8%E5%8F%A4%E7%B1%B3&oldid=97229146

・米穀年度

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%B1%B3%E7%A9%80%E5%B9%B4%E5%BA%A6&oldid=88857651

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