お迎え
谷竜稲荷の社の中、私達は佳央様が迎えに来るのを待っていた。
雪の中なので、ここまで概ね四半刻かかるらしい。
つまり、少し時間がある。
私は、
「まだ時間もありますし、もう少しだけお守りを作りませんか?」
と提案すると、古川様も、
「そう・・・ね。」
と同意。更科さんも、
「分ったわ。」
とやる気の様子。
私も筆を手に取り、お守りに使う木札に文字を書いていった。
暫くして、誰かが近づいてくる気配を感じる。
外の雪は、今は弱くなっているとは言え、それまではどんどん降っていた。恐らく、2尺くらいは積もっていると思うのだが、流石は竜人。普通に歩くような速さで、こちらに近づいてくる。
ただ、この気配に覚えはない。
私は、
「誰か、近づいてきているようです。」
と報告すると、古川様は、
「そう・・・なの?」
とまだ気配を感じていない様子。更科さんが、
「お迎えかもしれないなら、片付け、始める?」
と提案した。私は、
「知らない人の気配なのですが・・・、」
と途中まで言ったのだが、その可能性はあるだろうと考え直し、
「そうしましょうか。」
と同意した。古川様も、
「分った・・・わ。」
と了承したので、皆で片付けを始めた。
片付けが終わった頃、例の気配がそのまま神社の前を通過する。
私は、
「申し訳ありません。
外してしまったようです。」
と謝ると、古川様は、
「そういう日も・・・、あるわ・・・よ。
でも・・・、そろそろじゃない・・・かな。」
と古川様は別の気配を感じている模様。
私は、
「そうなので?」
と質問しつつも気配を探ると、蒼竜様と佳央様が近づく気配に気がついた。
2人が迎えのようだ。
私は、
「あぁ、本当です。」
と納得し、古川様に、
「でも、大月様ではないのですね。」
と同意を求めると、古川様は、
「そう・・・なの?」
と意外な返事。どうやら、2人の気配に気がついていた訳ではない模様。
更科さんが、
「和人。
大月様じゃない誰かが迎えに来たって事でいい?」
と聞いてきた。私は、状況を伝えるのを怠っていた事に気が付き、
「はい。
蒼竜様と佳央様が、こちらに向かって来ていますので。」
と答えた。すると、更科さんは、
「そうなの。
だから、『大月様ではない』って言ったのね。」
と納得顔になる。私も、
「はい。」
と同意した。
2人が、もうすぐそこまで来た。
私は皆に、
「では、そろそろ外に出ましょうか。」
と声を掛け、扉の前に移動した。
そして、扉を開ける。
すぐ、ザグっと音がして2寸くらい開いた所で、扉が開かなくなる。
──雪だ。
私は少しだけ力を掛けて扉を押したのだが、更に1寸開いた所でまた止まる。
これ以上力を込めると、扉に傷が付くかもしれない。
私は、
「すみません。
雪で扉が開きませんでした。」
と報告すると、古川様が、
「そう・・・なの?」
と首を傾げる。私は、
「この雪ですから。」
と説明したのだが、古川様は、
「本当に・・・雪?。
ここの屋根は・・・、長いけど・・・。」
と聞き返してきた。確かに、谷竜稲荷の屋根は、一方がにょきっと前に出ている。
私は間違いないと思っていたが、念の為、扉の開いた隙間から床を確認してみた。
5〜6寸程だろうか。
雪が積もっているのが見える。
私は、
「やはり、雪のようです。」
と答えると、古川様は、
「そう・・・なの?」
と言いながらこちらに来た。
格子戸越しに、蒼竜様と佳央様の姿が見えてくる。
私は、
「すみません。
蒼竜様。」
と挨拶すると、蒼竜様が、
「山上か。
こうも降っては、仕方あるまい。」
と挨拶を返した。
古川様が格子戸から外を伺い、眉間に皺を寄せる。
私は、
「すみませんが、外から雪を除けていただいても良いでしょうか?
雪が邪魔で、扉が開け辛くなっていますので。」
とお願いした。蒼竜様が、
「うむ。
が、屋根の下は4、5寸程ではないか。
力を込めれば、開くのではないか?」
と苦笑い。私が、
「折角の新築なのに、傷が着くではありませんか。」
と主張したのだが、蒼竜様は、
「少々、問題あるまい。」
と価値観が違うようだ。私は、
「ですが、例えば10年後、『あれは山上が付けた傷だ』と伝わるのは嫌ではありませんか。」
と説明したのだが、
「どうせ付いても、些細であろう。
小さな傷は、これからいくらでも付くのだ。
いちいち残りはせぬ。」
と反論された。私は、
「そうかもしれませんが・・・。」
と渋ったのだが、隣の古川様が、
「まどろっこしいわ・・・よ。」
と言いながら扉を開けた。ジャリッと音がする。
私は思わず、
「ぁあ!」
と声を上げたがもう遅い。
古川様は、
「これで・・・、謂れが残っても私だから・・・ね。」
と苦笑い。擦り付けたようで、少し罪悪感が湧く。
私は申し訳ないと思いながら、
「そうですね・・・。」
と返し、恐る恐る扉を確認した。
すると、新雪だったからか、考えていたような擦り傷はなかった。
私は、
「無事だったようです。」
と報告すると、古川様は、
「ん・・・。」
と残念な子を見る目を向けてきた。
更科さんが、
「それはそうと、これから一度帰るのよね?」
と話を変える。今の格好は、神社での正装。
飲みに行くには、色々と問題がある。
私は、
「はい。
そのつもりです。」
と肯定すると、蒼竜様が、
「まぁ、直接は行けぬか。」
と納得する。私は、
「申し訳ありません。」
と謝ると、蒼竜様は、
「なに。
仕方あるまい。」
と笑顔を向けてくれた。私は、
「ありがとうございます。」
とお礼を言って、皆で一度、屋敷に戻ったのだった。
本日、所要のため短めです。
後、江戸ネタも準備できていませんが、谷竜稲荷の外観について少しだけ整理。
まず、屋根の部分は、『資格』の後書きで説明した通り流造です。
また、壁は白壁、柱は朱塗り、扉は下半分は板、上半分は格子の物で外開き。建物全体には紫魔法が掛けられていて、これによって建物の耐震、耐湿、耐火性能が上がっている他、室内が外に比べれば過ごしやすい温度に調整されるなど、居住性も高められています。
・流造
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B5%81%E9%80%A0&oldid=82631924
あと、来週の月曜日はスポーツの日で休日となりますが、所要のためお休みする予定です。
『スポーツの日』といえば、以前は『体育の日』と呼ばれていましたが、おっさん、いつ頃名称が変わったか記憶にありません。(^^;)ボケテルネ
・スポーツの日 (日本)
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