雪掻(ゆきか)き
* 2023/9/16
誤記を修正しました。
分け御霊、白狐との話し合いが続く。
勿論、話題は私の借金の返済方法についてだ。
私は、
「すみません。
私も一つ案を出しましたので、次は白狐に出していただいても宜しいですか?
先程は、流石の策でしたし。」
と聞いてみた。すると白狐は、
<<他にか?
色々、あるじゃろうが。>>
と面倒くさそうに言ったが、
<<例えばじゃ。
崩れた山に、元々生えていたものを再生すれば、文句も言われまい?
小童は、青魔法が使えるのじゃからな。>>
と、またしても私が思いつかないような案を出してくれた。
先程は、地権者を取り込めて踏み倒す話。
今回は、山を復活させて、なかった事にしてしまおうという話。
私は、
「そのような手がありましたか!」
と感心したのだが、分け御霊が、
「そういう手もあるの。
じゃが、崩れた範囲は広いのじゃ。
全体に青魔法をかけるは、無理があるぞ?」
と否定した。言われてみれば、確かにその通りだ。
だが、この案自体に現実味はないにしても、何か思いつくきっかけになるかもしれない。
私も、
「・・・仰る通り、無謀ですね。」
と分け御霊に同意しつつ、
「ですが、私に見えている物がいかに狭いか、気付かせられました。」
と白狐もヨイショした。白狐が、
<<そういうのは、要らぬわ。>>
と苦笑いし、分け御霊まで、
「将に。」
と微妙な顔をする。
先程、『やりにくい』と文句を言われたばかりだったので、私も苦笑いしたのだった。
分け御霊が、
「少々、長居が過ぎた。」
と上を見上げると、白狐も、
<<もう、朝ですか。>>
と一言。どうやら、そろそろ起きる時間らしい。
分け御霊が、
「では、また神社での。」
と消えていく。私も、
「はい。」
と挨拶を返し、
「では。」
と目を覚まそうとした所、直前に白狐から、
<<筍の他にも、色々考えてみるがよいぞ。>>
と提案した。確かに、他の作物も行けるかもしれない。
私は、
「ありがとうございます。
そうします。」
と答えてから、目を開けたのだった。
まだ、日の出前。
雨戸も締め切られているので、目を開けても真っ暗。
その雨戸から、ガタガタと鳴る音はない。恐らく、今は風が止んでいるのだろう。
私は、晴れていると良いなと思いながら、厠に行くべく布団から抜け出した。
ブルリと震えが来て、思わず、両手両足を体につけて丸くしゃがみ込む。
思ったよりも寒いので、スキルで温度を確認してみると、冷たい時に見える青を通り越し、白っぽい所がちらほら。室内とは思えない寒さだ。
黄色魔法を集め、寒さ耐性を強化する。
それでも寒いので、誰も見ていない事を確認し、丸くなったまま、爪先だけで廊下の方に移動した。
障子を開けると、廊下が一面、真っ白になっていた。
なるべく体の熱を奪われないよう、爪先立ちでお勝手に向かって移動する。
傍から見れば可笑しな体制で、移動する。下女の人と遭わないよう、常に気配を確認しながら前に進む。
途中、見回りの下女と思われる人が近づいてきたので、寒いのを我慢して立ち上がる。
すれ違いざま、
「おはようございます。」
と挨拶をすると、下女の人が、ペコリとお辞儀で挨拶を返した。
下女の人をやり過ごした後は、すぐにまた丸くなる。
が、温度が下がった着物が肌に張り付き、また、ブルリと震える。
それでも、立っているよりは増しと思い、爪先立ちでの移動を再開する。
お勝手まで辿り着き、外に出るために草履を履く。
戸の向こうは、もっと寒いに違いない。
引き戸に手を掛けるのが、これを引くのが躊躇われる。
だが、ここで立ち止まるわけには行かない。
もう一段黄色魔法を集め、寒さ耐性を強化する。
不安に思いながらなかなか開かない戸を無理やり開けると、戸の半分の高さまで雪の壁が出来ていた。
──こんなに雪が!
私は、そのまま外に出るのも難しいだろうと思い、雪掻きが出来る道具がないかと、周囲を見回した。
戸の脇に、木製で1尺も幅のある木鋤が置いてあるのを見つける。
これを使って、雪掻きをしろという事に違いない。
その隣には、3尺四方の木の板に紐が付いている物もあるが、使い方が判らない。
鋤を手に取り、先ずは、鋤を縦に持ち、1尺半程、雪に差し込んでは抜いて切れ目を作る。
次に、鋤の幅で、もう一本、切れ目を作る。
更に、鋤を水平に持ち、2本の切れ目を入れた下側に差し込んで、重さ魔法で軽くしつつ雪を持ち上げる。
雪は、お勝手の中に捨てるわけにも行かないので、なるべく遠くに放り捨てる。
鋤の幅を置いて横にもう一本、縦の切れ目を入れる。
そして、また水平に鋤を差し込み、雪を持ち上げる。
これで、除いた雪が2尺程の幅になる。
持ち上げた雪は、勿論、なるべく遠くに放り捨てる。
これを下に、下にと何度も繰り返し、雪が膝下になるまで掘り下げる。
膝下まで掘れば、後は踏み固めれば良い。
これを繰り返し、道を作っていく。
だが、掘れども掘れども、厠どころか井戸にさえ辿り着けない。
私が途方に暮れながら奥に4尺ほど掘り進めた所で、見回りと思われる下女の人がやって来た。
下女の人が、
「おはようございます、山上様。」
と挨拶をする。私も、
「おはようございます。」
と挨拶を返すと、下女の人は、
「昨晩は、思いの外、雪が積もっていたのですね。
後は、私の方で雪を溶かしますので、山上様は少しお休み下さい。」
と言ってきた。私は、
「いくら竜人とは言え、この高さの雪は大変ではありませんか?」
と聞くと、下女の人は、
「そのような事はありませんよ。」
と返事をし、赤魔法でどんどん雪を溶かし始めた。
そして、
「このようにすれば、さほど時間もかかりませんので。」
と説明した。下はぐしょぐしょ。だが、私が雪掻きするよりも早いのは間違いない。
私は、
「助かります。
すみませんが、宜しくお願いします。」
とお願いしてお勝手で少し休む事にした。
暫くして、お勝手に佳央様がやってくる。
佳央様が、
「下女の人にお願いしたのね。」
と一言。私は、
「おはようございます、佳央様。
はい。
始め、私が雪掻きをしていたのですが、途中で下女の人が来て、変わってくれると申し出てくれましたので。
今、赤魔法でどんどん溶かしてくれていますよ。」
と現状を説明した。だが、佳央様は、
「これだと、足元が濡れるのよね。」
と文句を付けた後、
「明日からは、重さ魔法で押し固めて。
ぐしょぐしょは嫌だから。」
と言われてしまった。私は、あまり上手く行く気はしなかったが、
「重さ魔法ですか?
もし、何か良い方法があるなら、教えてくれませんか?」
と聞いてみた。すると、佳央様は、
「あったでしょ?」
と言いながら、戸の脇を指差した。
そこにあったのは、用途不明の紐の付いた木の板。
私は、
「それですか?」
と首を捻ると、佳央様は、
「そうよ。」
と肯定し、それを持ってお勝手の外に出た。私も佳央様の後ろについていき、外に出る。
佳央様は、
「見てなさい。」
と指示を出すと、それを雪の上に置いた。
そして、器用にその上に乗ったかと思うと、重さ魔法を使った。
板が、ズンと雪に沈む。
佳央様が、
「解った?」
と聞きながら板をどけると、そこの雪が、板に押されて綺麗に固まっていた。
私は、
「なるほど、そうするのですか。」
と感心し、自分でもやってみたくなったので、
「すみません。
貸していただいても良いですか?」
とお願いすると、佳央様は、
「良いわよ。
慣れるまで大変だけど、頑張ってみて。」
と板を貸してくれた。
それを受け取り、雪の上に置く。
そこによじ登ろうとしたのだが、板が傾き、ズルリと滑る。
私は、
「これは、確かに大変ですね。」
と苦笑いした。
単に板を載せ、重さ魔法で板を重くする。
これだけでも少しは沈むが、せいぜい1尺ちょっとだけ。佳央様の半分も沈まない。
佳央様が、
「なるほど、先に軽く固めてから乗るのね。
今度から、私もそうするわ。」
と言った。私は、本当はそういうつもりでやったのではなかったのだが、
「はい。」
と肯定して、板の上に乗った。
そして、重さ魔法で一気に沈ませる。
なるほど、こうすると深くまで沈む。
板をどけ、恐る恐る、自分で固めた所に乗ってみる。
すると、思ったほど足も沈まず、大きな問題はなかった。
佳央様は、
「明日から、出来そうね。」
と笑顔になったので、私も、
「はい。」
と笑って返した。
更科さんがやってきて、
「楽しそうね。」
と笑顔を向けてきた。私は、
「はい。」
と肯定し、
「佳織、ちょっと見ていて下さいね。」
と断って、早速、私は、板を雪の上に置いた。
そして、重さ魔法で一段沈ませた後、自分も上に乗り、重さ魔法を使う。
一気に下まで下がった所で、私は、
「こうやって、雪に道が作れるのですよ。
面白くありませんか?」
と言うと、更科さんは、
「そうね。
でも、私には無理かも。」
と雪を踏んでみせた。
私は、更科さんもやりたいのだろうと思い、
「そうですね。
二人で乗ってみますか?」
と提案すると、佳央様から、
「これだから、新婚は・・・。」
と苦笑いされてしまった。
下女の人が戻ってきて、
「厠まで通しました。
どうぞ、お使い下さい。」
と言ってきた。私は、
「ありがとうございます。
助かりました。」
とお礼を伝えると、下女の人は、
「いえ。
また、何かありましたらお声がけ下さい。」
と返したが、私が持っている板を見て、
「雪掻きでは、呼ばれないかもしれませんが。」
と付け加えた。
私は、
「どうでしょう。
佳織がお願いするかもしれません。」
と伝えると、更科さんから、
「私は、これがあるから。」
と言って、足元を指差した。
見ると、かんじきを履いている。
私は、こんな便利な道具を持っていたのかと思いながら、
「かんじきですか。
雪の上では、便利ですよね。」
と苦笑いすると、更科さんは、
「昨日、貰ったのよ。
和人にも貸すから、使いたかったら言ってね。」
と申し訳なさそうに付け加えた。私は、
「ありがとうございます。
では、その時は宜しくお願いしますね。」
と更科さんの頭を撫でたのだった。
本日、ネタを仕込み損ねたので、後書きはお休みです。
後、来週土曜日は人間ドックに行くのでお休みの予定です。
悪しからず・・・。(~~;)




