返事は
* 2023/09/18
本筋に影響ない範囲で、少し言い回しを修正しました。
座敷に集まった私達は、佳央様の念話が終わるのを待っていた。
風見さんから稲藁を分けてもらえないか確認しているのだが、念話の相手は蒼竜様。佳央様が、風見さんに念話するにも直接面識がないと言ったので、それならば蒼竜様に媒になって貰おうという事になったからだ。
まだ、外は吹雪いているのだろう。
時折、打ち付けられた風で、締め切られた雨戸がドンと鳴る。
返事待ちのせいか、音が普段以上に気になる。
佳央様が言っていた『まだ残ってると良いわね』という言葉が、私の不安を掻き立てる。
私は、更科さんに、
「風見さん、余分に取ってあると良いのですが・・・。」
と話しかけると、更科さんも、
「そうね。」
と返事をした。
時間とともにウロウロと歩きたくなってくるが、ぐっと我慢する。
暫くして、佳央様が目を開ける。
私は、
「どうでしたか?」
と質問をすると、佳央様は、
「頼んでみるって。」
と返事をした。時間が長かったように感じたが、風見さんにはまだ話が行っていないらしい。
更に待たないといけないと思うと、少し気分が重くなる。
暫くした頃、古川様が、
「なかなか・・・、来ないわ・・・ね。」
と言ってきた。私は、
「はい。」
と返し、
「ひょっとしたら、納屋か何かに確認に行っているのかもしれません。」
と私の推察を披露すると、古川様は、
「どう・・・かな。
でも・・・、待つしかない・・・か。」
と返した。今の状況だけでは、判断が難しい。
私は、
「そうですね。」
と同意した。
暫くして、障子の向こうに下女の人がやってきた。
そして、
「失礼いたします。
夕餉をお持ちいたしました」
と声が掛がる。いつの間にか、夕餉の時間になったようだ。
佳央様は、少し迷ったようではあったが、
「良いわよ。」
と許可を出した。迷ったのは、蒼竜様からの返事を待っているからに違いない。
運び込まれてきた膳に、目をやる。
今日の献立は、何かの鳥を焼いたもの、大根と魚卵と2種類の細長い何かの煮物、白菜の漬物と白米と潰した豆や人参、大根など具だくさんの味噌汁だ。
私は、返事が来る前に食べるものどうかと思ったが、お腹が空いたので、
「佳央様。
蒼竜様からの返事、来ませんね。」
と声を掛けた。佳央様が、
「そうね。」
と同意する。
私は、
「ならば、先に食べませんか?
先ほどから、返事も来ませんので。」
と提案したのだが、佳央様は、
「でも、食べてる時に折り返しの念話が来たら、失礼じゃない?
だから、和人と佳織は、先に食べてていいわよ。」
と困った様子。相手がずっと動いてくれていたのに、自分達だけ先に食べていたら、礼に欠ける。
私は、
「確かに、そうですね。」
と同意したが、普通はどうするのだろうと思い、
「佳織は、どう思いますか?」
と聞いてみた。更科さんの実家は商売をやっているので、こういう場面にも詳しいに違いない。
更科さんは、
「そうね・・・。
参考になるか判らないけど、父の場合、急ぎの用事なら待ってたみたい。」
と答えた。そして、佳央様に、
「念話した時、急ぐか伝えた?」
と確認すると、佳央様は少し考え、
「いいえ。」
と返事をした。更科さんは、
「蒼竜様は、すぐ確認するって言ってた?」
と重ねて確認すると、佳央様は、
「いいえ。」
と返した。すると、更科さんは、
「なら、蒼竜様の中では、急いではいないって事になってるんじゃないかしら。」
と結論づけた。佳央様が、
「言われてみれば、そうなるわね。」
と、念話した本人なのに納得顔をする。
私は、藁が入手できない事には作業も出来ないので、
「すみませんが、夕餉の後、もう一度念話で確認して貰っても良いでしょうか?」
と催促のお願いをすると、佳央様は、
「そうね。」
と同意してくれた。
佳央様が普段よりも早く食事を終え、早速、念話を始めようと目を瞑る。
だが、慌てた更科さんが、口の中の物を呑み込み、
「連絡、もう少し後にしたら?
ご飯時かもしれないし。」
と指摘した。あまりお行儀は良くないが、緊急なので、仕方がない。
佳央様は目を開けると、
「ええ。
今、まさに叱られたわ。」
と手遅れだったようだ。更科さんは、
「そう・・・。」
と苦笑いした。
全員の食事が終わり、いつもの雑談の時間となる。
私は、余計なおせっかいと思いつつも、
「佳織は、いつ頃、蒼竜様の食事が終わると思いますか?」
と聞いてみた。更科さんは、
「判らないわね。
一人でさっと済ませるなら、四半刻もかからないけど、赤竜帝となら朝までかもしれないでしょ?」
と答えた。私は、
「蒼竜様には雫様がいますから、一人で食事はないですよ。
なので、1刻くらい間を空けた方が良いですかね?」
と纏めると、更科さんは、
「そうね。」
と返し、佳央様も、
「なら、そうするわ。」
と了承した。
半刻ほどした頃、佳央様が、
「来たみたい。」
と一言、目を瞑る。蒼竜様からの念話だろう。
更科さんと私は、佳央様を注視した。
古川様は、普通にお茶を啜っている。
暫く待っていると、佳央様が目を開けた。そして、
「7〜8把程しか残ってないって。」
と答えた。私は、
「太めの七五三縄なら、2〜3本分ですか。
ですが今回は亀なので、恐らく足りると思います。
少々、心許ないですが・・・。」
と返すと、古川様が、
「そう言えば・・・、神社の七五三縄も・・・準備しないと・・・ね。」
と言い出した。
私は、
「神社の七五三縄までは、無理ですね。
蒼竜様に、花巻様にもお声掛けいただくよう、お願いしても良いでしょうか?」
と確認すると、佳央様は、
「人使いが荒いわね。」
と文句を言いながら、目を瞑った。
が、予想よりもずっと早く佳央様が目を開けると、
「蒼竜様も足りないと思って、先に連絡を取ったんだって。」
と説明した。私は、
「ありがとうございます。」
とお礼を言ったのだが、佳央様は、
「お礼には、少し早いわよ。
緑魔法で育てられるから、要らぬ心配だろうって言われたって。」
と苦笑いした。私は、
「あぁ、確かに。」
と納得した。が、少し引っかかりがある。
私は、
「ただ、それだと藁が乾燥していないので、直ぐには使えませんね。」
と問題点を指摘すると、古川様も、
「神社のを作るなら・・・、陽の光で乾かして・・・ね。」
と付け加える。もし、これが必須条件だとすれば、いくら稲を育てても仕方がない。
更科さんもその点に気がついたらしく、深刻そうな顔で、
「魔法で乾燥したら、駄目なの?」
と聞くと、古川様は、
「ええ。
太陽には・・・、重要な意味があるから・・・ね。」
と答えた。念の為、私は、
「一瞬でも、陽の光に当てればよいのですか?」
と確認すると、古川様は、
「まぁ・・・、そう・・・ね。」
と歯切れは悪いが肯定する。
私は少し考え、
「佳央様、遠くに飛んで行って、陽の光に当てる事は出来ないでしょうか?」
と聞いてみたのだが、佳央様は、
「今の季節は、ずっと吹雪いてるから、私じゃ無理ね。」
と出来ない様子。私は、
「他に、頼めそうな人はいませんか?」
と聞いたのだが、佳央様は、
「金子がいるわよ?
それも、少し多めに。」
と言ってきた。恐らく、割に合わなくなるに違いない。
私は、
「そういえば、稲荷神社に聞いてみたらどうでしょうか?
去年までは、七五三縄を準備していた筈ですよね。」
と確認すると、古川様は、
「そうね。
山上が・・・、作る気になってたから・・・、さっきは言わなかったけど・・・ね。」
と苦笑い。古川様は、始めから稲荷神社に問い合わせるつもりだったのかもしれない。私は、
「では、そちらはお願いします。」
と依頼し、
「佳央様。
風見さんから藁を受け取る方法を、何か聞いていませんか?」
と話を替えた。
すると佳央様は、
「いつでも取りに来ていいって言ってたわ。」
と答えた。更科さんが、
「いくらか聞いてる?」
と金子の確認をすると、佳央様は、
「あっ。」
と眉間に皺を寄せ、
「少し待ってね。
すぐ聞くから。」
と念話を始めた。どうやら、確認し忘れていたらしい。
私は、どのくらい請求されるのかとドキドキしたのだが、念話が終わった佳央様は、
「和人が真面目に作業してたから、金子は要らないって。」
と嬉しい回答だ。
私は、
「それは助かります。
ならば明日、早速神社の帰りに寄りましょうか。」
と言うと、佳央様は、
「分ったわ。」
と言って目を瞑った。早速、念話で伝えたのだろう。
私は、
「これで、亀の分は確保できそうですね。」
と安心すると、古川様から、
「稲荷神社の・・・、返事次第だけど・・・ね。」
と付け加えた。私は、
「確かに、そうですね。」
と返したものの、恐らく、七五三縄くらいは準備しているに違いない。
佳央様の念話が終わり、
「大丈夫だって。」
と風見さんの了承を得た。
私は、今の所は上手く行っているなと思いながら、
「では、今日はここまでにして寝ますか。」
と皆に声を掛けたのだった。
本日の後書きは、夕餉で出てきた料理の説明となります。
作中の『何かの鳥を焼いたもの』は、今回は鴨肉を想定しています。
また、『大根と魚卵と2種類の細長い何かの煮物』は『干し大根漬け』、『潰した豆や人参、大根など具だくさんの味噌汁』は『打ち豆汁』となります。
『干し大根漬け』は、干した大根を戻した物、ほぐした数の子、細切りにした昆布とするめを、酒と醤油、味醂で煮た料理です。
そして『打ち豆汁』は、打ち豆(叩いて潰した豆を乾燥させたもの)、人参、大根、里芋、牛蒡、葱が入った味噌汁となります。
・干し大根漬け(ほしだいこんづけ)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/hoshi_daikon_zuke_niigata.html
・打ち豆汁…福井県
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/cuisine/cuisine3_3.html
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来週の土曜日は所要のため、短めになる予定です。
悪しからず。。。(~~;)




