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藁(わら)細工

 竜帝城の一室、竜帝の間での話が終わった後、佳央様と私は赤竜帝から別の部屋に呼ばれた。

 それは、赤竜帝が私の借金を心配して下さっての事で、(みんな)で返済のための案を話し合っていた。



 赤竜帝が、


「踊りが嫌なら、他に何か特技はあるのか?」


と質問をする。

 私は、


「特技ですか・・・。」


と少し考え、


「そうですね・・・。

 (わら)(かさ)草履(ぞうり)を編むのは、得意です。

 小さい頃から、やっていましたので。」


と答えた。だが、どちらも小銭ならばともかく、大金を稼ぐには弱い。

 だが、赤竜帝は、


「ほう、藁細工か。」


と少し興味を持ち、


「他に何か編めるか?」


と聞いてきた。

 私は、


「他ですか。

 例えば、今の時期ですと正月の七五三縄(しめなわ)なんかは作れますが。」


と答え、昔を思い出して、


「そういえば子供の頃、余った藁で(うさぎ)や亀も作りましたよ。

 大した出来映えでは、ありませんでしたが。」


と付け加えると、赤竜帝は、


「流石、工芸が盛んな平村出身と言ったところか。」


()めてくれた。

 佳央様が、


「和人。

 亀は、お守りにならない?」


と聞いてきた。私は、古川様が本質は紫魔法(呪い)の方だと言っていたのを思い出し、


「確認してみるまで判りませんが、恐らく出来ると思いますよ。

 紫魔法(呪い)さえ込めれば、お守りになる筈ですから。」


と説明すると、佳央様は、


「そうなんだ。」


と初めて耳にしたようだった。

 赤竜帝が、

 

「だが、返済には弱いな。」


と渋い顔。しかし、他に案もないと見たのだろう。

 赤竜帝は、


「まぁ、(ちり)も積もれば山となると言う。

 やってみればよいのではないか?」


と言った。私も他に妙案はないので、


「そうですね。

 古川様にも相談して、いろいろ試してみようと思います。」


と返した。赤竜帝は、


「うむ。」


と頷き、


「そうだ。

 蒼竜にも相談してみてはどうだ?」


と提案した。

 私は、別の案が出てくるかもしれないと思い、


「良いですね。

 そう致します。」


と返した。赤竜帝は、


「うむ。」


と頷くと、部屋の外を少し気にして、


「そろそろ時間か。」


と一言。私は、


「もうですか。」


と言うと、赤竜帝は、


「すまぬな。」


と言葉だけ謝った。私は、


「いえ、とんでもありません。

 お忙しいのに貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました。」


とお礼を言うと、赤竜帝は、


「なに。」


と軽く返し、


「では、またな。」


と別れの挨拶をした。私も、


「はい。

 赤竜帝も。」


と挨拶を返すと、赤竜帝は部屋から出ていった。

 それと入れ違いで、不知火様が入ってくる。

 不知火様が、


「話は終わったようだすね。」


と若干怪しい語尾で確認する。私は、


「はい。」


と同意したのだが、不知火様が、


「では、帰りも送りますので、このまま付いてきて下さい。」


と言い出したので、少し固まってしまった。

 私は、また籠に乗るのが(いや)で、


「佳央様と二人で、帰ろうと思うのですが。」


と断ったのだが、不知火様は、


「そうもいきません。

 (しの)んでならともかく、赤竜帝に呼ばれて籠で来たのですから、帰りも乗っていただきます。」


拒否(きょひ)された。私は(あきら)めずに、


「いえいえ。

 そもそも、同格というのも公式ではありませんし。」


ともう一度断ったのだが、不知火様は、


「それでもだ。

 後で稲荷の方から、礼に()いていると指摘されても困るからな。」


と苦笑い。稲荷の方というのは、稲荷神社の神職の誰かからという意味だろう。

 私は、


「どうしてもですか?」


と確認したのだが、不知火様は、


「どうしてもです。」


と折れる気はない様子。

 私は、押し問答をしても時間の無駄だろうと思い、仕方がなく、


「分かりました。」


と同意した。

 その後、行きと同様、私が籠で半死半生になったのは言うまでもない。



 屋敷に帰って着替えた後、佳央様と更科さんを連れて、古川様の部屋に行く事になった。

 吹雪で雨戸が鳴る中、足元の行灯(あんどん)を頼りに廊下を進んでいく。


 古川様の部屋に着くと、私は障子(しょうじ)に向かって、


「すみません。

 お守りの件で相談がありまして。」


と呼びかけた。すると、古川様が、


「お守り・・・?」


と言いながら障子を開けた。

 そして、


「いつもの座敷に・・・移動・・・する?」


と聞いてきた。私は、古川様の部屋で相談するつもりだったのだが、何かあるのだろうかと思いつつ、


「佳央様。

 使っても、大丈夫ですか?」


と座敷の確認をお願いした。佳央様が念話で下女の誰かに確認し、


「大丈夫だって。」


と返事をしたので、私は古川様に、


「では、移動しましょうか。」


と答えた。



 全員で座敷に移動し、定位置(座布団)に座る。

 古川様が、


「それで・・・、お守りの相談だった・・・よね?」


と確認したので、私は、


「はい。」


と頷き、


「藁細工に、紫魔法(呪い)をお願いする事は出来ないかと思いまして。」


と簡単に説明した。すると、古川様は、


「それを・・・、お守りにする・・・の?」


と質問したので、私は、


「はい。」


と答えた。

 古川様は少し考え、


「一応・・・、藁細工でも出来るけど・・・どんな形に・・・する・・・の?」


と聞いてきた。私は、


「亀はどうかと、考えております。」


と返すと、古川様は、


「縁起物・・・ね。

 良いんじゃない・・・かな。」


と了承した。

 古川様が、


「後・・・、藁細工で思いついたんだけど・・・ね。

 草履(ぞうり)紫魔法(呪い)を掛けたら・・・、長く使えるようになる筈・・・よ。

 どう・・・かな?」


と提案した。足に合ったお気に入りの草履が長く履けるというのは、悪い事ではない。

 私は、


「草履にですか。

 二束三文(にそくさんもん)ですが、長く履けれるのは良いですね。」


肯定(こうてい)したつもりだったのだが、古川様は、


「値付け・・・ね。」


と否定したと受け取った様子。私は、


「はい。

 神社でなら、多少、高くも売れますよね?」


ともう一度肯定したのだが、今度は更科さんが、


「草履、どこから仕入れるの?」


と聞いてきた。私は、


「一応、自分で藁草履を編もうかと考えているのですが・・・。」


と答えたのだが、更科さんは、


「藁草履かぁ・・・。

 それだと、高級には見えないわね。」


と指摘した。私は、


「神社で売られている事が、肝心なのですよ。」


と主張したのだが、古川様本人が、


「そうは言っても・・・、佳織ちゃんの言う通り・・・、限度があるわ・・・ね。

 草履は・・・、取り下げる・・・わ。」


と諦めた。私は、


「分かりました。

 では、亀のお守りだけ、作ろうと思います。」


と纏めた。

 古川様は、

 

「分った・・・わ。

 なら・・・、私が紫魔法(呪い)を掛ける担当・・・ね。」


と役割分担を確認し、


「売るからには・・・、10か20は作る事になるけど・・・、頑張って・・・ね。」


と応援してくれた。私は、


「はい。

 頑張ります。」


とその気になったのだが、佳央様が、


「ところで、どこから藁を買うの?」


と水をさしてきた。私は、


「藁なんて、どこにでもあるのではありませんか?」


と聞いたのだが、古川様が、


(よご)れているのは・・・、お(すす)めしない・・・かな。」


と指摘した。私は、


風見(かざみ)さんから買うのは、如何でしょうか?」


と提案すると、更科さんが、


「前に、刈り取りを手伝いに行った所ね。」


と付け加える。私は、


「はい。

 風見さんは相撲の力士もしているそうですが、(げん)を担いで藁に土が着かないように作業をしていましたから。」


と風見さんの所から買おうと思った理由を説明した。すると古川様は、


「それは・・・、良さそう・・・ね。」


と納得顔。だが、佳央様が、


「その藁、まだ残ってると良いわね。」


眉間(みけん)(しわ)を寄せる。確かに、風見さん自身が使う分しか残していない可能性がある。

 私は、


「佳央様。

 すみませんが、念話で確認していただいてもよいでしょうか?」


とお願いしたのだが、佳央様は、


「無理よ。

 面識ないし。」


と断られた。私は、


「そうしますと・・・。」


と少し考え、


「蒼竜様経由で、お願いして貰っても良いでしょうか?」


と聞いてみた。佳央様は、


「まぁ、それなら。」


と了承し、直ぐに目を(つむ)った。念話を始めたのだろう。


 藁の入手が出来ないと、藁細工の案そのものがなくなってしまう。

 私は、風見さんが多めに藁を持っていてくれる事を願いながら、佳央様の念話が終わるのを待ったのだった。


 作中、藁細工(わらざいく)が出てきますが、江戸時代の頃は、草履や笠の他、(かご)座布団(ざぶとん)等、色々なところで藁細工が活躍していました。


 藁細工の籠といえば、新潟や長野の方で『猫ちぐら』というものが作られたのだそうです。

 この猫ちぐらと言うのは、まるで虚無僧が被っていた深編み笠(ふかあみがさ)のような大きめの籠に猫が出入りするための窓が付いたものとなります。江戸時代後期、江戸でも使われていたらしく、歌川広重の絵にも描かれているのだそうです。


・藁

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%97%81&oldid=96018202

・猫ちぐら

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%8C%AB%E3%81%A1%E3%81%90%E3%82%89&oldid=91931242

・笠

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%AC%A0&oldid=96288586

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