赤竜帝にも
籠の中で気分が悪くなった私は、戸が開いたのを見て外に飛び出し、雪を汚した。
佳央様は、これを予想していたので私は文句を付けた。
そして、少しだけ体調が回復した時、周囲が吹雪いていない事に気がついた。
周囲をキョロキョロと見回す。
佳央様が、
「どうしたの?」
と聞いてきたので、私は、
「ここは、どこかと思いまして。」
と答えた、佳央様が苦笑いしつつ、
「竜帝城の大門の前よ。」
と一言。そして、指を指し、
「今は一時的に止んでるみたいだけど、雪が凍って門が開かなくなっちゃって。
今、溶かしている所よ。」
と状況を説明した。指の先を見ると、大きな門が少しだけ開いている。
そこには門番さんの一人がいて、赤魔法で凍った雪を溶かしていた。
私は、
「なぜ、一気に溶かさないので?」
と質問すると、佳央様は、
「そんな事したら、門が焦げちゃうでしょ?」
と説明した。私は、
「あぁ。それで。」
と納得し、
「どこかに鋤でもあれば、私もお手伝いをするのですが・・・。」
と、申し出た。だが、別の門番さんから、
「踊りのは、今日は客人だろうが。」
と止められた。私も、
「それもそうですね。」
と苦笑いで返す。近くにいた不知火様が、
「それよりも、竜帝城の門にこのような事をしたのは、山上・・・様が初めてです。
後で、赤竜帝にもお伝えしますので、そのつもりでいて下さい。」
と恐ろしい笑顔で言ってきた。私は、
「面目次第もございません。」
と謝るしかなかった。
暫くして、門が開く。
不知火様から、
「では、お乗り下さい。」
と言われたので、私は、
「乗らないといけませんか?」
と確認した。また、気分が悪くなったら大変だからだ。
だが、私の思いに反し不知火様は、
「当たり前です。」
と返事をした。私は、
「出来れば、歩いていきたいのですが・・・。」
とお願いしたのだが、不知火様は、
「仕来りです。」
と却下された。私は、
「どうしてもなので?」
と抵抗したのだが、不知火様は、
「どうしてもです。」
と意見を変える気はない様子。佳央様からも、
「早く乗って。
もう少しなんだし、問答している時間も無駄よ。」
と怒られた。
私は、
「・・・解りました。」
と渋々答えたのだった。
再び、籠に乗る。
出立の声が響き、籠が持ち上がる。
数十歩、籠が揺れずに前に進む。
想定外の快適さ。
本来、この籠はこういう物なのだろう。
が、ここでまた大きく、籠が揺れる。
──また風か!
私は、再び気分が悪くならないか心配しながら、早く内裏につかないかと思ったのだった。
昨日、短編で力尽きたので短めです。(^^;)
作中、山上くんが「鋤があれば、(除雪を)お手伝いしましょうか?」と申し出る場面がありますが、こちらは、江戸時代の頃、除雪に木鋤を用いたという話に基づいています。
この除雪問題は今も昔も雪が積もる地域の厄介ごとの一つですが、江戸時代の頃、地方によっては雁木という庇を長く出して雪が降っても人が通れるようにしたり、当番制で雪を踏んで道を作ったりしていたのだそうです。
・除雪
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%99%A4%E9%9B%AA&oldid=96577759
・ほうらい祭り
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%BB%E3%81%86%E3%82%89%E3%81%84%E7%A5%AD%E3%82%8A&oldid=87014924
※石川県白山市のお祭りで、行列の中に獏面様という奇抜な面や着物を着た人がいるそうですが、獏面様の持ち物の中に、木鋤板という除雪に用いていた道具があるそうです。
・雁木造
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%9B%81%E6%9C%A8%E9%80%A0&oldid=94832489
・庇
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%BA%87&oldid=95494853




