字の練習を
* 2023/08/11
最後に消し忘れの文字が入っていたので削除しました。(^^;)
吹雪の中、凍えそうになりながら、谷竜稲荷に移動する。
社の軒下で雪を払い、中に入る。
すると、社の中は、火鉢もないのに、何故かほんのりと暖かかった。
祝詞を上げ、儀式を済ませる。
その後、私は、
「社の中、やけに暖かくありませんか?」
と質問をした。すると、古川様は、
「昨日、・・・光った・・・でしょ?」
と聞いてきた。光ったというのは、狐講の人達が立て籠もっていた時に、私が上げた祝詞と呼応するように鏡が光った事を言っているのだろう。
私は、
「はい。」
と返事をすると、古川様は、
「あの時・・・ね。
稲荷神が、・・・お社に紫魔法を・・・掛けたの・・・よ。」
と説明した。私は、
「紫魔法・・・ですか?」
と聞き返すと、古川様は、
「ええ。
演出として・・・鏡を光らせたけど・・・、それだけだと・・・神職が気づくから・・・ね。」
と答えた。私は、
「それで、何の紫魔法なので?」
と確認すると、古川様は、
「風を防ぐものや・・・。」
と途中まで言いかけたが、急に話を止めた。
そして、古川様は一呼吸置くと、
「他にもあるから、・・・当ててみて・・・ね。」
と言い始めた。私は、
「分からないから、聞いているのですが。」
と文句を付けたのだが、古川様は、
「修行の一環・・・よ。
頑張って、・・・解析してみて・・・ね。」
とにっこり笑った。不服だが、そう言われては、やるしか無い。
私は、
「分かりました。
それで、いつまでに答えればよいので?」
と確認すると、古川様は、
「春先くらい・・・かな?」
と何故かぼかされた。少なくとも、今日中ではないようだ。
私はもう少し期限をはっきりさせようと思い、
「梅の咲く頃という事で?」
と確認すると、古川様は、
「それは・・・、雅・・・ね。
・・・そうしましょう・・・か。」
と嬉しそうだ。そして、
「頑張って・・・ね。」
と応援する。私は、
「・・・善処します。」
と苦笑いしたのだった。
社の外から、野太い男の声で、
「もし。
もし。」
と聞こえてきた。
振り向くと、格子戸の向こうに、雪と荷物を背負った神職にしてはごつい体つきの人が立っていた。
古川様が、
「来たか・・・な。」
と言いながら、格子戸を開ける。
すると、その神職らしい人は、
「どちらに置きましょうか?」
と確認した。古川様が、
「一先ず・・・、そこに置く・・・ように。」
と格子戸の近くを指差すと、神職らしい人は、
「分かりました。」
と返事をした。雪を払いながら、背負っていた荷物をそこに置く。
その荷を解くと、大小、様々な板が沢山出て来た。
古川様が、
「これで・・・全部・・・か?」
と質問し、神職らしい人も、
「はい。」
と滑らかに答えた。
古川様が、
「良し。」
と頷く。これを見た神職らしい人は、
「はい。
では、これにて失礼いたします。」
と挨拶をした後、そのまま吹雪の中に消えていった。
私は、
「ひょっとして、これ、全部ですか?」
と確認すると、古川様は、
「追加も、・・・頼んであるから・・・ね。」
と少し微笑む。
私は、
「これ以外にもですか?」
と確認したところ、古川様は、
「今日のは、・・・木札の分・・・よ。
そして、・・・明日は・・・お守りに入れる分だから・・・ね。」
と説明した。私は、
「それで、どれに何と書けば良いので?」
と確認したところ、古川様は、7寸の木札を指差し、
「先ずは、・・・この大きさのお札に・・・」
と説明を始め、袖から紙を取り出すと、
「・・・谷竜稲荷・・・と書いて・・・ね。」
と言いながら私にその紙を渡した。先ずは、神社の名前を書けば良いようだ。
だが、私は読み書きを練習している身。音と文字が一致しない。
私は、
「この文字ですか?」
と確認すると、古川様は、
「ええ。」
と頷いた。これで、書くべき字は判った。
だが、私に書いた事もない字をいきなり書けというのは、無理というもの。
雪に字を書いて練習する事も考えたが、現在、外は吹雪。
風雪で、練習にならないに違いない。
私は、
「分かりました。
が、どうやって練習すればよいでしょうか?」
と確認した
すると、古川様は、置かれている木の山に向かうと、そこから何やら探し出した。そして、
「これを使って・・・、鉋屑を作って・・・練習して・・・ね。」
と説明した。どうやら、探していたのは、鉋だったようだ。
私は、
「分かりました。
鉋で削って、練習します。」
と答えた。
だが、私は鉋を使っている所は見たことがあるが、ちゃんとした使い方は知らない。
私は、恐る恐る鉋を手に摂り、
「先ずは、やってみます。」
と言って鉋を受け取った。
鉋を木に押し当て、引いてみる。
──鉋屑が出ない!
私は首を傾げながら、もう一度鉋を引いてみたが、やはり何も出ない。
私は、
「すみません。
壊れていないか、先にやって見せて頂いても宜しいでしょうか?」
とお願いした。
すると、古川様は、
「刃を・・・調整しないと駄目・・・よ?」
と言ってきた。私は、何の事だろうと思ったが、
「どうすれば良いのでしょうか?」
と確認した。すると、古川様は、
「・・・貸してみて・・・ね。」
と手を出したので、私は鉋を渡した。
古川様は、どこから持ってきたのか、木槌を手にすると、コンコンと金具を叩き始めた。
そして、
「こうやって・・・ね。
刃の位置を・・・調整するの・・・よ。」
と説明し、台鉋から出た刃の長さを確認する。
古川様は一つ頷くと、木札に鉋を押し当ててシュィッと引いた。
見事な鉋屑が出てくる。
私は、
「見事なものですね。」
と褒めると、古川様は、
「昔、・・・木札の表面を・・・沢山削らされたから・・・ね。」
と苦笑いした。そして、
「今日のは、・・・もう削ってあるから、・・・そのまま書けるから・・・ね。」
と付け加える。私は、本来は鉋掛けもやるのかと思い、
「ありがとうございます。
助かりました。」
とお礼を言うと、古川様は少し考えてから、
「大丈夫・・・よ。」
と笑顔で返した。
古川様が硯と水、それと墨を出してくれたので、先ずは墨を摺り下ろす。
古川様が木札に紫魔法を掛け始める。
私は、削っては書き、削っては書きを繰り返す。
暫くして、そこそこ書けるようになったと思った私は、
「古川様。
これで如何でしょうか?」
と練習の成果を披露した。
古川様が、私が書いた文字を手に取る。
そして、じっくりと字を確認すると、
「・・・まぁ、・・・いいか・・・な?」
と疑問形だが合格をもらえた。私は、
「では、早速、書いていきますね。」
と言ったのだが、古川様は、
「その前に・・・ね。」
と言うと、私の書いた字にいくつか丸を付け始めた。そして、
「『谷』の・・・『口』の部分は、・・・丸くしないで・・・ね。
それと・・・、『竜』の・・・『立』の部分は、・・・突き出さないように・・・ね。」
などといった感じで、いくつも指摘をした。そして、
「言った所は、・・・意識して書いて・・・ね。」
と締めくくる。
──最初の『いいかな』は何だったのか。
私は、これだけ指摘された状態で書くのもどうかと思ったので、
「もう少し、練習をしてからにします。」
と言うと、古川様は、
「分った・・・わ。」
と頷き、板の方を指差して、
「沢山あるから、・・・早めに練習、・・・終わらせて・・・ね。」
と付け加えた。
これは、絶対に午前中には終わらない。
そう思った私は、
「午後は用事があるのに、どうしましょうか・・・。」
と一応相談すると、古川様は、
「えっと・・・。
年末まで、・・・まだ時間があるから、・・・きっと作れるわ・・・よ。」
と今日でなくても良いと言ってくれた。
私は、
「分かりました。
では、年末まで頑張ります。」
と気合を入れたのだった。
作中、(例によってかなり強引ですが)鉋が出てきます。こちらは、皆様もご存知の通り木を薄く削る道具です。
現在主流の鉋は、明治時代に西洋から入ってきた刃が2枚の二枚鉋(逆目でも削れる)ですが、江戸時代以前の鉋は刃が一枚だけだったのだそうです。
後、世界的に見ると鉋には押して削るタイプと引いて削るタイプがあるそうですが、日本では江戸時代に引いて削るタイプに統一されたのだそうです。
・鉋
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〜〜〜
おっさんもぼちぼち夏休みですが、今年の夏休みは短編を1つ書こうと画策中です。
このため、8月は(余計な用事が入らなければ)土日祝日の更新予定です。(^^;)




