お札(ふだ)も
話が一段落した所で、下女の人が障子の外から声をかける。
「朝餉をお持ちしました。」
佳央様は、
「ええ。
待たせたわね。」
と返事をする。下女の人は、
「勿体なきお言葉。」
と畏まってから、膳を部屋に運び入れた。
いつもの事ながら、古川様と私の前に置かれた膳の上には、粥が乗るのみ。
神社で行事がある時は、これが仕来り。仕方がない。
一方、佳央様と隣の更科さんの膳の上には、油揚げを焼いたもの、切り干し大根を醤油で味付けしたもの、梅干しと白ご飯、そして、大根葉の味噌汁が乗っている。油揚げの皿には、小さな山に形を整えた大根おろしが付いている。
さっと粥を食べ終わった後、暫くすると、更科さんから、ボソり、
「あまり見ないでね。
恥ずかしいから。」
と指摘された。言われて初めて、更科さんが食べている様子をぼーっとしながら眺めていた事に気が付く。
私は、
「すみません。
昨日熱が出ましたので、ちゃんと食べているか気になったもので・・・。」
と言い訳すると、更科さんは、
「心配してくれるのは、嬉しいけど。
・・・ねっ?」
と言われてしまった。自分がされたら恥ずかしいだろう事はやるなという意図だろう。
私は、
「すみません。」
と謝り、下女の人に、
「すみません。
茶をお願いします。」
とお願いし、淹れて貰ったお茶を啜ったのだった。
古川様もお茶を飲み始めたので、私は、
「本日は、何をするのでしょうか?」
と確認した。すると、古川様は、袖から紙を取り出し、
「今日は・・・、この祝詞を上げて・・・ね。
あと・・・、お札も・・・作ってもらいます・・・から。」
と答えた。お札と言えば、以前、木札を紙に包む作業をした覚えがある。
私は、
「あぁ。
あの、作業ですか。」
と言うと、古川様は、
「今回は・・・、木札に文字を書いて・・・ね。」
と無茶な事を言い出した。私は、
「字は、まだ練習中なのですが・・・。」
と暗に別の作業にしてくれないか頼んだのだが、古川様は、
「手当の関係・・・よ。
やるわよ・・・ね?」
と言ってきた。私は、
「私が書いたので、ご利益があるので?」
と確認したのだが、古川様は、
「稲荷神への覚えが良いのは・・・山上だから・・・ね。」
と説明し、
「後・・・、紫魔法を掛けるのは・・・、私がやるから・・・ね。」
と付け加える。私が書いた方が良いかはともかく、古川様が紫魔法を掛けるのであれば、ご利益の方は大丈夫に違いない。
私は、
「少々不安ですが・・・、頑張ります。」
と札に文字を書くことを了承した。
古川様は、
「お願い・・・ね。」
とにこやかに返した。古川様が、袖の中から出した紙を渡しながら、
「これも・・・ね。」
と付け加える。私は、
「分かりました。」
と返事をすると、全員が食べ終わるまでやる事もないので、この祝詞を上げる練習をしたのだった。
食事が終わる。
いつもなら雑談が始まるのだが、今日は少し違った。
古川様から、
「少し早いけど・・・行くわ・・・よ。」
と声が掛かったからだ。
私は、
「いつもより、早くありませんか?」
と確認すると、古川様は、
「お札・・・、沢山作る・・・でしょ?」
と返してきた。少しでも多く札を作って、早く借金を減らせという事のようだ。
更科さんが、
「私も手伝えると良いのだけど・・・。」
と思案顔になる。古川様は、
「えっと・・・。」
と少し考え、
「明日・・・、出来た札に紙を巻く作業を・・・お願い・・・ね。」
と作業を指示し、
「黒山も・・・ね。」
と付け加える。佳央様は、
「私も?」
と驚いた顔をしたが、古川様は、
「一応・・・、こちら側の扱いだから・・・ね。」
とにっこり笑顔だ。佳央様は、
「こちら側?」
と首を捻ったのだが、古川様は、
「全くしてないけど・・・、山上と修行・・・、一緒にする事になった・・・でしょ?」
と指摘した。今まで機会はなかったが、そういえば佳央様も、仮の巫女の修行に参加する事になっている。
佳央様は、
「忘れてたわ・・・。」
と苦笑い。私は、暫くは全員一緒だなと思い、
「なら、明日から全員、朝食は粥ですね。」
と指摘すると、佳央様から、
「何、ニヤニヤしてるのよ。」
と嫌そうな顔で怒られた。私は、
「皆、一緒と思いまして。」
と言い訳をすると、更科さんが、
「私も嬉しいわ。
日中も、ずっと一緒にいられるから。」
と笑顔で言った。佳央様は、
「ああ。
そういう意味ね・・・。」
と苦笑い。私は、
「そういう意味と言いますと?」
と、どう解釈していたのか確認したのだが、佳央様は、
「別に良いじゃない。」
とバツが悪そうだ。ここは、突っ込んで聞かないのが正解だったようだ。
私は、
「何か、すみません。」
と謝ったのだった。
暑さに負けて短めです。(--;)
作中の「切り干し大根を醤油で味付けしたもの」は、「大根冬春醤」を想定しています。(醤にはふりがながついているのですが、読めませんでした。(--;))
切り干し大根を戻して絞った後にゆがき、醤油でざっと味付けして冷やした後、山椒味噌をよく擦って和えて作るのだそうです。(誤訳していたらすみません(^^;))
・三十一 大根冬春醤仕方
http://codh.rois.ac.jp/iiif/iiif-curation-viewer/index.html?pages=100249502&pos=38&lang=ja
〜〜〜
明日は所要につきお休みします。悪しからず。。。(^^;)




