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午後から

 (かわや)での用を済ませる。

 相変わらずの吹雪だが、今はスキルで魔法を見ている。

 おかげで、視界だけは、先程よりも判るようになっていた。


 古川様に、


「お待たせして、申し訳ありません。」


と断りを入れ、井戸の方に戻った。



 井戸の所には、古川様が作ってくれた雪の壁がある。

 おかげで、ここは風が弱い。

 私は、


「それでは、白装束に着替えてすぐに戻ってきますね。」


と声を掛け、吹雪の中に突入した。

 先に付けた足跡を辿(たど)る事で、最初に来たときよりも楽にお勝手まで帰ってくる事ができた。

 


 急いで部屋に戻る。

 更科さんはまだ起きておらず、普通に寝息(ねいき)をたてている。

 私はそれを確認した後で、急いで白装束(しろしょうぞく)に着替えた。


 お勝手まで移動する。

 相変わらず、お勝手の人はまだ誰も来ていない。

 合羽を使いたい気持ちはあったが、許可を貰う相手が居ないので、今回も諦める事にした。


 また、黄色魔法(身体強化)を集めて全身に(まと)う。

 そして、お勝手の戸を開けて外に出ると、丁度(ちょうど)吹雪が()いだようだった。

 この間にと思い、急いで井戸に向かう。


 井戸に着くと、古川様が、水を()み上げては捨てていた。

 こうする事で、井戸水が暖かくなるからだ。

 私が、


「お待たせしました。」


と声をかけると、古川様は、


「いえ。

 それよりも、・・・急ぐから・・・ね。」


と早速、禊を始めたのだった。



 禊が終わり、お勝手に入ると、待っていたかのように雪が()り始めた。

 お勝手では、朝食のための煮炊(にた)きが始まっている。

 私は、お勝手の人の一人を捕まえると、


「すみません。

 あの合羽は、誰に声をかければ使えるのでしょうか?」


と質問をした。すると、そのお勝手の人は、


「あれかい?

 あれは、今日みたいな吹雪の日に、井戸まで水を汲みに行く時に着るんだよ。

 もし使いたいんなら、この辺の誰かに一声(ひとこえ)掛けとくれ。」


と答えた。私は、


「それは助かります。

 ですが、もし、誰も居ない場合はどうすればよいですか?」


と確認すると、お勝手の人は、


「その時は、勝手に使いな。」


と許可を出してくれた。そして、


「ところで、どこに着ていくんだい?」


と確認してきた。なので、私は正直に、


「はい。

 厠まで。

 今朝のように吹雪いていると、辛いですからね。」


と説明すると、お勝手の人は、眉間(みけん)(しわ)を寄せ、


「厠?

 厠は駄目だよ!」


と怒られた。私は、


駄目(だめ)ですか?」


と念を押して確認したが、お勝手の人は、


「駄目に決まってるだろ!

 汚れるじゃないか。」


と簡潔に説明した。私は、


「汚さなければ、良いのですか?」


と確認したのだが、お勝手の人は、


「駄目だよ!

 あれは、どんなに気をつけてても、汚してるもんだからね!」


(がん)として受け付けない。

 私は、これ以上言っても無駄だろうと思い、


「分かりました。

 無理を言ってすみませんでした。」


と謝って、厠に合羽を着ていくのは諦めた。

 だが、井戸に行くのなら良いようなので、私は、


「では、井戸まで禊に行く時にお借りしますね。」


とお願いした。だが、今度は古川様から、


「それは・・・、駄目・・・かな。」


と待ったが掛かる。私は、


「それも、仕来りですか?」


と確認すると、古川様は、


「そういう事・・・よ。」


と苦笑いした。私は、


「そうですか・・・。」


と肩を落とした。仕来りであれば、どう言っても覆る事はないに違いない。

 古川様は、


「冬は寒いけど・・・、(こら)えて・・・ね。」


と謝った。私は、


「分かりました。」


溜息(ためいき)をつきながら返したのだった。



 部屋に戻り、更科さんの様子を確認する。

 すると、更科さんは目を覚まし、


「おはよう、和人。」


挨拶(あいさつ)をした。私も、


「おはよう、佳織。」


と挨拶を返すと、更科さんは、


「昨日は、ゴメンね。」


と言いながら、体を起し始めた。

 私は、体の熱が引いているのは確認していたが、


「もう大丈夫なので?」


と声を掛けた。すると、更科さんは、


「うん。」


と控えめに返事をする。私は、


「今日は吹雪いていますので、厠まで案内しますね。」


と申し出ると、更科さんは少し困っている表情だが、


「ここは厠まで、少し距離があるものね。」


と苦笑い。私は、


「はい。

 それに、()み上がりですし・・・。」


と伝えると、更科さんは少し恥ずかしいそうに、


「分った。

 お願いするね?」


と私を頼ってくれた。私は、


勿論(もちろん)です。」


と返し、更科さんを連れて厠に行ったのだった。



 厠を往復した後、雑談をしていると、朝食の時間になった。

 座敷に移動すると、既に古川様と佳央様が待っている。

 私は、


「おはようございます。

 少し、遅れました。」


と言いながら座布団に座ると、佳央様が、


「それは別に良いけど、午後から呼び出しがあったわよ。」


と言ってきた。私は、


「呼び出しですか?」


と詳細を求めると、佳央様は、


「不知火様がね。

 山を(くず)したの、不味(まず)かったみたい。」


と簡潔に説明した。私は、


「その話ですか。

 山の持ち主から、材木やら山菜やらの請求をされて、私の借金が増えるのでしたよね。」


と夢で聞いた話を確認すると、佳央様は、


「分ってたなら、どうして撃ったの?」


と怒られた。私は、


「いえ。

 昨晩、稲荷神から聞きましたので。」


と苦笑いすると、佳央様は、


「あぁ、そういう事。」


と納得した様子。だが、初耳だったのか、更科さんから、


「何の話?」


怪訝(けげん)な顔をされてしまった。

 私は、


「実は、昨日、山に行った時なのですが。

 雪熊を仕留めるのに、山を崩してしまいまして・・・。」


と簡潔に説明すると、更科さんは、少し考え、


「それ、千両単位の話じゃない?」


と大変困った顔になった。千両単位と聞いて、冬にも拘らず、背中に冷や汗が流れる。

 私は、


「大金とは思っていましたが、そんなにですか?

 私も、神社で祭りでもして、富籤(とみくじ)でもやらないと返せないとは思っていましたが。」


と慌てると、古川様から、


「それ、・・・着服・・・よ?」


と指摘された。私が、


「どういう事で?」


と確認すると、佳央様が、


「富籤は、神社の普請(ふしん)に掛かる金子(きんす)を得るためにやるものよ。

 それを懐にしまったら、駄目じゃない。」


と理由を説明した。私は、


「そうなので?」


と確認すると、古川様が、


「そう・・・よ。」


と肯定した。私は、


「では、どうすれば良いのでしょうか?」


と確認すると、古川様は、


「もうすぐ正月だから・・・、お(ふだ)とか・・・かな。」


と言った。佳央様が、


「大丈夫なの?」


と質問をする。恐らく、お札の売上(うりあげ)も神社のものだと言いたいのだろう。

 古川様は、


「お手当として・・・、出すなら・・・ね。」


と説明した。すると、佳央様は、


「そういう事ね。」


と納得し、私に、


「和人。

 沢山(たくさん)作って、沢山売りなさい。」


と言った。私も、


「そうします。」


と同意すると、古川様が、


「後で・・・、手配しておくわ・・・ね。」


と準備をしてくれるようだ。私は、


「宜しくお願いします。」


と頼んだのだった。


 本日は、(既出と思い込んでいた)江戸ネタを一つ。


 作中、合羽(かっぱ)が出てきますが、こちらは皆様もご存知の通り雨避けの服となります。

 合羽の原型は、宣教師が着ていた外衣(capa)だそうで、ポルトガル語のcapaが当て字で合羽になったのだそうです。

 この合羽、宣教師が伝えただけあって当初は毛織物を使っていたのだそうですが、江戸時代になると華美だということで禁止されたのだそうです。

 一方、桐油(きりあぶら)を塗布した紙合羽もあったのですが、こちらは華美ではないので禁止されませんでした。材質が紙なので軽くて携帯性に優れるため、折りたたみ出来る懐中合羽なども登場したのだそうです。


合羽(かっぱ)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%90%88%E7%BE%BD&oldid=92616664

桐油(きりあぶら)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A1%90%E6%B2%B9&oldid=91777588

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