表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
546/681

この吹雪の中でも

* 2023/07/30

 合羽の材料がおかしかったので変更しました。


 真っ暗な中、目を()ます。

 昨日からの吹雪はまだ()んでいないようで、ガタガタ、ガタガタと雨戸(あまど)が音をたて続けている。


 昨日、更科さんが熱を出した事を思い出し、具合を確かめることにする。

 布団(ふとん)から体を起した所で、更科さんの布団がすぐ(となり)に並んでいる事に気がつく。


──昨晩、手を握っていたのだった。


 急に、恥ずかしさが込み上げてくる。

 私は、布団から出ずに体を半分だけ(ひね)ってから、更科さんの(ひたい)に手を当てた。


──少し、冷たい。


 これは、布団の外が寒いからに違いない。

 恥ずかしいが、更科さんの手で熱があるか確認する事にする。

 (やま)しい事をするのでは無いのだからと自分に言い聞かせながら、更科さんの布団に手を突っ込む。そして、中を(まさぐ)り、(さぐ)り当てた手を(つか)む。

 私よりも、少しだけ温かい。


──これならば、熱は大丈夫だろう。


 私はそう思い、安心した。

 私は更科さんが起こさないよう、小さく、


(なお)って良かったですね。

 佳織。」


と声を掛け、それから布団を出た。



 向かう先は、勿論(もちろん)(かわや)

 外が吹雪(ふぶき)だろうと、関係ない。


 一旦、お勝手まで移動し、草履(ぞうり)()いた。

 少しだけ戸をずらし、外を(うかが)う。

 予想通りの、猛吹雪(もうふぶき)。すぐに、戸を閉める。

 出口近くに、紙で出来た合羽(かっぱ)が掛かっている事に気が付く。

 下には、かんじきも置いてある。


──これは、使っても良いのだろうか?


 勝手に着て怒られても困る。

 許可を得ようと周囲を確認したが、人の姿は見当たらない。

 今は、天気が良ければ星空が広がる時間帯だ。当然だろう。


 誰かいないかと、気配を(さぐ)る。

 井戸の辺りに、古川様の気配があるのを見つける。

 昨日の夜のうちに、古川様は戻ってきていたようだ。


 というか、古川様は井戸の(そば)。この吹雪の中でも、(みそぎ)をするつもりらしい。


──禊で(こご)()んだら、洒落(しゃれ)にもならない。


 私はそう考えたのだが、中止にするための方法が思いつかない。

 古川様は竜人なので、寒さに強い。

 私が死ぬ可能性など、微塵(みじん)も考えていないに違いない。

 思わず、溜息(ためいき)をついてしまった。



 寒さ対策になるので、重さ魔法で黄色魔法(身体強化)をめいいっぱい集め、全身に(まと)わせる。

 これで、少しは寒さに耐性(たいせい)が出来る。

 合羽の方は、少し悩んだのだが、誰に(ことわ)ればよいか判らないので、諦める事にした。

 ここで待っていても、状況が良くなるとも思えない。

 私は思い切ってお勝手の戸を開くと、吹雪の中に出ていった。



 横殴りの雪。そして、その雪は(ひざ)近くまで積もっている。

 新雪なのでふわふわではあるが、それでも前に進みにくい。


 (かわや)に向け、少しづつ雪を踏みながら前に進む。

 草履を履いていても、足の(こう)には容赦(ようしゃ)なく(ゆき)がかかる。

 冷たくて火傷しそうなのを我慢(がまん)して、前に進む。

 これは、霜焼(しもや)け待ったなしだろう。


 暫く歩くと、どこまで進んだのか、判らなくなる。

 古川様がいる場所を、気配で探る。

 一先ず、そこまでは行けそうだ。


 少しづつ進むのが面倒になり、雪を(すね)で押しのけながら、普通に歩くように前に進んでみる。

 先程よりも早く進むが、雪に触れる時間が長くなり、かえって(つら)くなる。

 仕方がないので、また少しづつ雪を踏み固めて、前に進む。


 そうして前に進んでいき、井戸の所まで辿(たど)り着く。

 そこでは、古川様が、井戸の周りに雪の壁を作ってくれていた。

 井戸からは、ほんのりと湯気が立ち上っている。

 私は、


「おはようございます。」


と声をかけると、古川様もそれに気がついて、


「おはよう。

 今日は、・・・ゆっくり・・・ね。」


と返事をした。吹雪のせいで、いつもよりも遅かったようだ。

 私は、


「すみません。」


と謝り、雪の壁を指差して、


「これは全部、古川様がやってくれたのですか?」


と確認すると、古川様は、


「ええ。」


肯定(こうてい)した。私は、


「精が出ますね。」


()めたのだが、ここで一段と用を足したくなってきた。

 私は、


「ところで、古川様は、厠の位置がどちらにあるか判りますか?」


と確認した。古川様が、


「向こうだけど、・・・どうして?」


と聞き返してきた。私は、


「はい。

 この吹雪で、途中から自分が居る場所が判らなくなってしまいまして。

 ここに来るのも、古川様の気配だよりだったのですよ。」


と頭を()いた。古川様が、困った顔をする。

 その原因は、自分が頭を掻いせいだろうと思ったが、敢えてこれを無視する事にする。

 私は、


「申し訳ありませんが、厠まで案内していただいても良いでしょうか?」


とお願いした。古川様は、一層困った顔をしたが、


「えっと・・・。」


と少し考えたが、


「分ったわ。」


と了承してくれた。私は、


「助かります。」


と頭を下げると、古川様は、また困った顔をした。

 今度のは、私が頭を下げたのが原因に違いない。が、こちらも敢えて無視をした。

 立場はどうあれ、お願いしているのにふんぞり返ったままというのは、私の性に合わない。



 古川様が先行し、厠を目指して歩いていく。

 古川様は、さすがは竜人で、雪などないかのように歩いていく。

 私は、


「雪が重くないですか?」


と話しかけたのだが、振り返る様子もない。

 先ほどと違い、吹雪で声が届いていないのだろう。


 途中、更科さんがどうやって厠に移動するのかかが、気になり始める。

 後からでも道が判るようにと、重さ魔法も使い、なるべく道が残るように雪を踏みつけていく。


 暫くして、厠まで辿り着く。

 私は、


「助かりました。」


と声をかけると、古川様は、


「早くして・・・ね。」


と待ってくれる模様。私は、


「分かりました。」


と返事をし、厠へと急いで入った。


 用を足している最中、ふと、吹雪でもスキルで魔法を見れば前が見える事を思い出す。

 用を足しながらスキルを使い、格子の向こうを魔法で確認する。

 ここからの位置では、古川様は見えない。


 だが、薄っすらと何かが見える気がした。

 目を()らして、よく確認する。

 すると、その何かが、庭の木々である事に気がついた。

 一度気がついてしまえば、一層、はっきりと見え始めてくる。


──初めからこうやって見ていれば、古川様についてきて貰う必要もなかったな。


 私はそんな風に考え、苦笑いしながら残りの用を済ませたのだった。


 暑さに負けて、少し短め。

 江戸ネタの方も、お休みです。(^^;)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ