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私に決断させたい様子

 佳央様が、逃げる時に使った板を仕舞(しま)いながら、


「巻き込まれてくれたみたいね。」


と逃げて来た方を見た。私も、そちらの方を確認する。


 今は森の中。風雪も強く、雪熊の様子を直接見る事は出来ない。

 だが、気配を探るに、雪熊の隊列が八の字から崩れているのが分かる。

 元の位置近くに半数、残りが崖の下という感じだろうか。(ぬし)と思われる大きな気配は、元の位置の側にいる。

 落ちた雪熊の中には弱っている個体もいるが、あまり減ったという気はしない。

 しかも、先ほどと違って怒気(どき)を強く感じる。

 なんとなく、近づいて皮を剥ぎに行くのは、()めた方が良いに違いない。


 私は、


「その様ですね。」


と返し、


「では、予定通り里に帰りましょうか。」


と足を里の方に向けた。だが焔太様が、


「まぁ、待て。」


()めてきた。佳央様が、


「まさか、(くず)れた下の方に行くなんて言わないわよね?」


と確認する。だが、焔太様は、


折角(せっかく)倒しても、証拠がないだろうが。」


と文句で返した。私は、


「冒険者組合の登録章のような物は、無いのですが?」


と質問すると、焔太様は、


「登録証・・・?」


と少し考えたが、


「あぁ!

 あれかぁ。」


と思い出した様子。あれには、討伐した魔物が登録される。

 私は、


「それでは、駄目なので?」


と聞くと、焔太様は、


「確かに、間引いた実績としては、認められると思います。」


と答えたが、あまり納得した様子がない。

 どうしてだろうと思っていると、焔太様は、


「ですが、それは恐らく、全部山上様に記録がつくのでは無いでしょうか。

 仮にそうなら、解体して売らねば、俺に実入りがありません。」


と説明した。私の魔法で倒したのだから、確かにそうなるのだろう。

 焔太様が、続けて、


「それに、山上様も、これからご入用(いりよう)もあるでしょう。」


と付け加える。


 確かに、年末年始は入用が多い。

 だが、雪熊達はかなり気が立っているし、数もそれなりにいる。


 私は、(あきら)めた方が良いだろうと、


「ですが、数が多いですよ?」


と説得したのだが、焔太様は、


「山上様、さっきまで、あんなに突っ込みたがっていたではありませんか。」


と言ってきた。

 私は、


「あんあに、怒っているのですよ?

 凶暴になっていると分かっていて、わざわざ近づくのもどうかと思うのですが・・・。」


と指摘したのだが、焔太様は、


「そうですか?」


(とぼ)けている様子。佳央様が、


「なら、一人で行けば?」


と援護してくれたが、氷川様が、


「じゃが、年末は物入りじゃ。」


と行きたい模様。意見が半分に割れた形となる。

 私が、


「勝算はあるので?」


と確認すると、焔太様は、


「大きな気配は、上に残ったではありませんか。」


と説明した。普通の雪熊相手に、負ける事はないという意図だろう。

 続けて焔太様が、


「そもそも、怒っていれば動きが単調になります。

 (むし)ろ、(ねら)い目と言えるでしょう。」


と自信あり気だ。だが、佳央様から、


「崖から落ちて、手負(てお)いよ?

 命がけで突っ込んできたら、和人は危ないんじゃない?」


と指摘する。氷川様、佳央様、焔太様は竜人なので、多少の攻撃も(しの)げるに違いない。

 だが、私は人間なので、雪熊の爪にやられれば一溜(ひとたま)りもない。

 私は、


「全く、その通りです。」


肯定(こうてい)したのだが、焔太様は、


「いや、いや。

 山上だぞ?」


と反論した。どう考えても、過剰(かじょう)評価(ひょうか)だ。

 私は、佳央様に黒竜の魂を渡して弱体化したので、


「いえ。

 前はともか、今は無理ですよ。」


と説明したのだが、焔太様は、


「いや。

 俺では、あそこまで(くず)せませんから?」


と崩した斜面の方を指差(ゆびさ)した。

 私は、


「あれは、十分に溜める時間があったからですよ。」


と返したものの、改めて考えると、私の魔法で雪熊の半分が斜面の下まで(ころ)げ落ちている。

 焔太様は、


「時間があったからと言って、ああはなりません。」


と苦笑い。私も、


「確かにそうですが、あれは私も予想外でした。」


と返すと、氷川様が、


「いや、山上様の実力じゃろう。」


とヨイショした。その上で、


「ただ、(まれ)に中途半端に土砂崩れが止まる場合があると聞く。

 その場合、そこに力が加わると再び動き土砂崩れが始まるのだそうじゃ。

 此度(こたび)は、ひょっとしたらこれだったやもしれぬがの。」


と氷川様の見立ても付け加える。私は、


「恐らく、それですよ。」


とその意見を肯定した。



 焔太様が、


「話を戻しますが、本当に行かないのですか?」


と確認してきた。氷川様も、


「私も、行くべきじゃと思うぞ?」


と押してきた。だが、一撃で六字(ろくじ)というのもご(めん)だ。

 私は、


「風雪も強くなってきましたので、帰りましょう。」


と言うと、焔太様は、


「いやいや。」


と笑顔で帰り道の方 に移動した。

 私も、


「いえ、いえ。」


と言いながら回り込もうと思ったのだが、焔太様が、


「いやいや。」


と先に進ませないように退路を(ふさ)ぐ。

 氷川様も、


(あきら)めい。

 今日は、そういう日じゃ。」


と一言。言葉尻(ことばじり)から、稲荷の巫女様が先見をした結果ではないかという気がしてきた。

 私は、それをはっきりさせようと思い、


「巫女様ですか?」


と確認したのだが、氷川様は、


「巫女様は、関係ない。」


と否定した。だが、以前、竜の巫女様が『望む未来の分岐に入るためには、嘘をついたり演技をする事もある』と言っていた。

 私は、今回もそれなのだろうと推測(すいそく)したが、気が進まなかったので、


「どうしても、行かないといけないので?」


と確認すると、氷川様は、


「その方が、良いじゃろう?」


とあくまで私に決断させたい様子。私は溜息(ためいき)をつきながら、


「分かりました。」


と返事をした。


 本日短めです。

 今回は、無理やりですが小粒なネタをいくつか。(後半は既出ですが。。。)


 まず、作中、焔太様が「入用(いりよう)」と言っています。

 この「入用」ですが、「いりよう」と「にゅうよう」の2つの読み方があります。

 双方ほぼ同じ意味で「必要な物」「必要な経費」という意味を含みますが、江戸時代、幕府が支払う経費の事を御入用(ごにゅうよう)と呼んでいました。

 で、「入用(にゅうよう)」の話が出たので付け加えると、幕府の経費で作った橋を「御入用橋(ごにゅうようばし)」、一方、町方の費用で作った橋を町橋(まちばし)と呼んだのだとか。


 次に、氷川様が崖崩れが大規模になった原因について推測していますが、こちらは昨日の後書でも触れた重量バランスが崩れて地すべりが起きる話となります。(^^;)


 もう一つ、作中の六字(ろくじ)は「再計測」の後書きでも説明した通り、『南無阿弥陀仏』の6字から、お()くなりになるという意味です。


・公儀橋

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%85%AC%E5%84%80%E6%A9%8B&oldid=94144376

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