西門から出て
*2023/06/18
誤記の修正
佳央様と私は、玄関で氷川様や焔太様と合流した。
玄関の所で、下女の人から通行手形を受け取る。
そして、玄関を出ると、いつもと逆の方に歩き始めた。
私は、
「東門ではないのですか?」
と確認すると、焔太様が、
「いや、今日は西門だ。」
と答えた。氷川様が、眉間に皺を寄せる。
佳央様が氷川様に近づき、小声で何か言うと、氷川様は、
「承知はしておるが・・・の。」
と渋い顔をする。どうも、焔太様の私に対する接し方が気に食わないようだ。
私は、
「特に、気にしていませんから。」
と伝えたのだが、氷川様は、
「いえ、丁寧に反してもらう必要があります。」
と語気が強めだ。焔太様が、
「知っている人からすれば、以前と同じじゃないと怪しまれるのではない・・・ありませんか?」
と指摘したのだが、氷川様は、
「既に山上さ・・・は、お披露目も済んでおる。
無礼千万と考えるが筋じゃろうが。」
と反論した。私に対し、焔太様は丁寧さが足りず、氷川様は丁寧過ぎる状態の模様。
焔太様は、
「言われてみれば・・・。」
と納得する。そして、
「山上様。
数々の無礼、平に願います。」
と謝ってきた。私は、
「いえ、別に気にしていませんので。」
と伝えたのだが、氷川様から、
「気にして下さい。
示がつきません。」
と怒られた。私は、
「申し訳ありません。」
と謝ると、焔太様から、
「その敬語が、俺に言葉を選ばせているのだ・・・ですからな。」
と指摘する。相手の言葉につられて、自分の言葉も引きずられるという事は、よくある事かもしれない。
私は、
「仰る通りですね。
気をつけます。」
と返したのだが、返した言葉が丁寧だった事に気が付き、思わず苦笑いをした。
西門に到着し、門番さんが出てくる。
私は、
「ご苦労さまです。」
と声を掛けながら手形を見せると、門番さんは、
「確認した。」
と言って腰にぶら下げた帳面を手に持ち、何やら記載した。そして、
「通って良いぞ。」
と許可が出る。今回は、滞りなく門外に出られるようだ。
私は、
「ありがとうございます。」
と声をかけ、皆で門の外に出た。
里の中は雪掻きが行われているが、外はそうではない。
真っ白な雪の中、草鞋をかんじきに乗せて紐を縛り、雪の上を歩き始めた。
今朝降った雪だからだろう。ふっくら、柔らかだ。
焔太様が、
「比較的近くまで、出没しているそうだ。
・・・です。」
と説明する。これは、これから間引きをする雪熊の話だろう。
周囲の気配を探ってみる。
すると、物凄く大きい気配がある事に気がついた。
私は、
「近くまで来ているのが主の場合、見逃すのです・・・のか?」
と質問すると、焔太様は、
「その場合は、やむを得まい。」
と倒す指示。私は嫌な予感がしつつも、
「分かりました。」
と了承した。が、氷川様からの視線を感じ、私は、
「分った。」
と言い直した。本当に、面倒くさい。
佳央様が、
「あっちのやつの事ね。」
と私が感じた気配の方向を指で差す。
私は、
「そうです。」
と頷くと、焔太様が、
「様子を見に行くか。」
と言い出した。私は、やめた方が良いと考えたのだが、氷川様が、
「周囲には、手下もいるようじゃな。」
と指摘すると、焔太様は、
「4人もいるのです。
問題ないと思いますが、どうでしょうか?」
と行く気満々の様子。だが、氷川様が、
「私を含めるでない。」
と水を差した。以前、清川様が殺生はしないと言っていたのを思い出す。
私は、
「ひょっとして、神社関係の人は殺生を禁じられていたりしますか?」
と確認したのだが、氷川様は、
「そうではありません。
そういう日なのです。」
と答え、
「そもそも、狩衣を着るではありませんか。
狩衣は、漢字で書く通り、元は狩猟のための衣です。
獲物を獲ってはいかぬ道理は、ありません。」
と指摘した。氷川様は当たり前のように言っているが、私にそのような知識はない。
私は、
「なるほど、そうでしたか。」
と返し、
「ところで、『そういう日』なのでしたら、私も駄目なのではありませんか?」
と質問した。すると氷川様は、
「その筈なのですが、巫女様が言うには、今日の山上様は竜神の祝詞で清めたので問題ないのだそうです。」
と返した。そういえば、今朝の禊の時の祝詞は、古川様が竜の巫女様に会うためのものだった。
佳央様が、
「竜神神社と稲荷神社で、駄目な日が違うのね。」
と纏めると、氷川様が、
「そういう事だ。」
と断言する。私は、
「そういえば、今日は稲荷神向けの祝詞は使いませんでした。
竜の巫女様は、これも全て先見で知っていたという事でしたか。」
と感心したのだが、氷川様から、
「ですが、儀式において区別するのは必要です。
少々お行儀が悪いので、もうやらないで下さい。」
と軽く怒られた。私は、
「あまり、竜神、稲荷神と対抗心を燃やす必要もないと思うのですが・・・。」
と感じたままに言ったのだが、氷川様は、
「対抗心ではありません。
神様に失礼ではありませんか。」
と文句を付ける。今朝、古川様にも同じような事を言われた覚えがある。
私は、
「すみません。
仰る通りです。」
と謝ると、氷川様は、
「私ではなく、神様にです。」
と言われてしまった。ぐうの音も出ない。
焔太様が、
「その話、まだ続くか?」
と聞いてきた。話で油断していたが、雪熊の気配が先程よりも近づいている模様。
私は、
「いえ。
それよりも、雪熊への対処の方が先のようですし。」
と答えると、焔太様は、
「そういう事だ。」
と大きな気配の方に向いた。
私もそちらの方を向いた後、重さ魔法で赤魔法、緑魔法、雷魔法を集め、纏め始めたのだった。
本日、短めです。
昨中、「狩衣」というものが出てきますが、こちらは作中の通り、元は狩りのための着物でした。
これが平安時代に公家の普段着となったのですが、それが礼服の色合いを増していき、江戸時代には四位の大名などの礼服となりました。神職の普段着となったのは、明治になってからとのこと。
・狩衣
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