氷川様も
稲荷神社の人達が、社の前で狐講の狂言誘拐の後始末を行っていると、番屋の好青年、遠藤様がやって来た。
どうやら騒ぎを聞き付けて、様子を見に来たようだ。
遠藤様が、
「山上か。
今日は、何の騒ぎだ?」
と尋ねてきたので、私は、
「はい。
例の狐講が、狂言誘拐を働きまして。
そこの社に立て籠もっていたのですが、先程、中から出てきて解決したところです。」
と説明し、
「ほら、そこで稲荷神社の人が4人を捕まえているでしょう?」
と指差した。すると遠藤様は、
「寺社役か。
が、何故、礼装を・・・?」
と困惑している様子。私は、
「神職の方ではないので?」
と確認すると、遠藤様は、
「装束が違うだろう。」
と指摘する。確かに、私が着ている袴とは違って、足元を引きずっている。
私は、洗濯が大変だろうななどと思いながら、
「あぁ、なるほど。」
と納得し、
「儀式に参加していたからではないでしょうか?」
と先の質問を返した。
すると、遠藤様は、
「そうだったか。」
と言いつつ、眉間に皺を寄せる。
何か、思案を始めたようだ。
私は、今聞くのも心苦しいが、あまり聞き慣れない役所(?)だったので、
「ところで、寺社役と言いますと?」
と確認した。すると、遠藤様は、
「寺社奉行を知らぬか?」
と少し困った顔。私が、
「いえ。」
と返すと、遠藤様は、
「俺達は、町奉行の管轄なのだがな。
寺社奉行は、主に神社仏閣を管轄している所だ。
そして、寺社役というのは、寺社奉行の与力のようなものだな。」
と説明した。私は少し考え、
「・・・与力ですか。
つまり、社で起きた厄介事を治めに、出張ってきたという事ですね。
私が来た時には、もう、立て籠もっていたようですから。」
と返すと、遠藤様は、
「そうだったか。」
と頷いた。
ふと、屋敷で焔太様が待っていることを思い出す。
私は、
「すみませんが、私はそろそろ帰ります。
これから、山で雪熊の間引きを頼まれていますので。」
と伝えると、遠藤様は少し考え、
「そうか。
では、寺社役には、色々と聞かれた後なのだな?」
と確認した。そう言えば、今の所、私は何も聞かれていない。
私は、
「いえ。
ですが、向こうが先約でして・・・。」
と返すと、遠藤様は困った顔をして、
「行くにしても、寺社の連中に一声かけるようにな。」
と助言した。私は、
「そうですね。」
と返し、
「では。」
と挨拶をして遠藤様から離れた。そして、氷川様の側まで移動し、
「すみません。
次の予定もありますので、そろそろ戻りたいのですが・・・。」
とお願いをすると、氷川様が、神職の誰かをちらっと見てから、
「分かりました。」
と了承した。そして、
「少しだけ、お待ちください。」
と言うと、さきほど視線を送った神職の人と軽く話をしに行った。
これで、寺社の人にもよしなに伝わるに違いない。
さすが気が回ると感心しているうちに、氷川様は私の側まで戻って来て、
「お待たせしました。」
と声を掛けた。私は、
「打ち合わせですか?」
と確認すると、氷川様は、
「はい。
今後の予定を、確認して参りました。」
と返事をした。私が、
「予定ですか。」
と反復すると、氷川様は、
「はい。
今日は、本件の連絡があるかもしれませんので、このまま山上様の側にいるようにとの事です。」
と打合せした内容を教えてくれた。私は、氷川様も大変だなと思いながら、
「承知しました。」
と返したが、氷川様は竜人とはいえ、少々ふくよかだ。私は、
「ですが、これから山に行く予定です。
ひょっとして、中止したほうが良いですか?」
と確認すると、氷川様は若干引き攣ったような顔をして、
「それは、存じております。
ですので、そのために私が同行いたします。」
と答えた。私は、
「大丈夫なので?」
と念押ししたのだが、氷川様は、
「はい。」
と少し不満げに返事をした。これ以上言うのは、野暮に違いない。
私は、
「分かりました。
ですが、そうしますと・・・。
以前、佳央様が山の向こう側は念話が難しいと言っていました。
連絡は出来るので?」
と確認すると、氷川様は、
「はい。
稲荷神社から人手を借りますので。」
と答えた。
人手があれば解決するのだろうか?
私は不思議に思ったが、そもそも人でを出して貰うにしても騒ぎがあった直後だ。
私は、
「あちらも今は、この件で取り込み中だと思うのですが、大丈夫なので?」
と確認すると、氷川様は、
「これでも稲荷神社は、大きな神社です。
人も大勢おりますので、問題ありません。」
と苦笑い。そして、
「要所要所に人を立たせるだけですので。」
と付け加える。どうやら、念話が届く位置に念話の出来る人を置いて、取り次いでいくようだ。
私は納得したので、
「分かりました。
お手数をおかけしますが、宜しくお願いします。」
と同行を了承したのだった。
右、右、左の順に角を曲がるのを繰り返しながら、屋敷に帰る。
次に、更科さんに手伝ってもらいながら、着替えをする。
その後、佳央様と合流して座敷に移動すると、氷川様とその後ろに焔太様が控えていた。
これから、形式上の遣り取りを行うらしい。
佳央様が、
「面をあげよ。」
と声を掛け、二人が、
「「ははあ。」」
と頭を上げると、佳央様は、
「待たせたな。」
と声を掛けた。氷川様が代表して、
「もったいなきお言葉にございます。」
と返事をする。
焔太様も何か言いたそうだが、上位の氷川様がいるので控えている様子。
佳央様が、
「これより山に参るが、良いな。」
と確認をすると、二人揃って、
「「ははあ。」」
と了承する。
佳央様は、
「では、表で待っておれ。」
と指示を出し、佳央様と二人で座敷から下がった。
この後、廊下で、
「毎回これやるの、面倒よね。」
と呟いたので、私も、
「全くです。」
と同意したのだった。
本日、短めです。
作中、(少々強引ですが)寺社奉行が出てきます。こちらは神社仏閣等を管轄していた奉行所となります。
この寺社奉行ですが、先程「神社仏閣等」と記載した「等」の部分に、よくわからない物が含まれています。
例えば、楽人や碁所、将棋所が含まれていまして、楽人というは、雅楽を演奏する人、碁所は城中で行われる囲碁を取り仕切ったり、囲碁の棋士を総括する所、将棋所も碁が将棋に変わったような所だったのだとか。
おっさん、楽人は寺社奉行が将軍家の宗教行事を取り仕切っているので理解できる気がしますが、碁所や将棋所は何故に寺社奉行の管轄だったのだろうかと不思議に思います。(^^;)
後、寺社役付同心の服装は素襖を想定しています。
こちらは、特別な時の竜人の礼装という想定です。
(特別でない時の礼装は、紋付袴の想定)
・寺社奉行
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%AF%BA%E7%A4%BE%E5%A5%89%E8%A1%8C&oldid=94852959
・雅楽
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%9B%85%E6%A5%BD&oldid=95296422
・碁所
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%A2%81%E6%89%80&oldid=95514796
・将棋所
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%B0%86%E6%A3%8B%E6%89%80&oldid=94326707
・素襖
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%B4%A0%E8%A5%96&oldid=95549548
〜〜〜
後、明日も短めの予定です。。。(^^;)




