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今日は何の作法を

 座敷で朝餉(あさげ)を食べ終わった私達は、お茶を飲みながらの雑談の時間へと移っていった。


 更科さんが私に、


「大月様は、すぐに来るの?」


と質問をする。だがこの質問、私は答えを知らない。

 私は、大月様と時間調整もしただろう古川様に、


「ご存知ですか?」


と確認したのだが、古川様も、


「いえ、・・・知らないわ・・・よ。

 でも、・・・もうじき・・・来るんじゃない・・・かな。」


と知らない模様。私は、


「そうですか。」


と返事をし、更科さんに、


「だそうです。」


と答えると、更科さんは、


「そっか。

 じゃぁ、お話する時間も余りないのね。」


と残念な様子。私が、


「まぁ、来るまでここで話をしましょうか。」


と提案すると、更科さんも、


「そうね。」


と同意した。



 暫くして、下女の人がやって来た。そして、障子の向こうから、


「すみません。」


と声がかかる。佳央様が、


「何?」


と確認した所、下女の人は、


「大月様がいらっしゃいました。」


と報告した。佳央様は、


「分ったわ。」


と返事をし、私も、


「分かりました。

 今から行きますね。」


と返すと、下女の人は、


「はい。

 では、お通しした部屋まで案内いたします。」


と言った。

 私は、座布団から立ち上がりながら、


「では、佳織。

 行ってきますね。」


と声を掛けると、更科さんも、


「うん。

 和人、勉強頑張(がんば)ってね。」


応援(おうえん)してくれた。



 下女の人の案内で、大月様が待つ座敷に移動する。

 廊下(ろうか)を歩いていると、先の部屋から大月様の気配を感じた。

 私は佳央様に、


「今日は、何の作法を教しえて貰えるのでしょうかね。」


と声をかけると、佳央様は、


「さぁ。

 作法と言っても、色々あるから。」


と返した。私も、当然判らないだろうと思っていたので、


「そうですね。」


と頷いた。

 下女の人が立ち止まり、


「こちらにございます。」


と一旦座り、障子を開く。

 私は、


「ありがとうございます。」


とお礼を言って、座敷の中に入った。

 佳央様もそれに続く。

 ふと、棚に飾られている、木で出来たずんぐりとした馬の置物が目に止まる。

 私は、この置物にはどのような謂れがあるのだろうかなどとと思いながら、座布団に座った。


 佳央様が大月様に、


「良く来た。

 して、今日は何の作法を話すのじゃ?」


と話しかける。

 私は、昨日、大月様が話しかけたのが何だったかの確認をしたいと思っていたのだが、先に雑談をやるようだ。

 大月様が、


「はい。

 山上様は正月に赤竜帝とお会いになる筈ですので、その辺りについてのお話をいたそうと考えております。」


と返事をする。私は、ここで話を先日の話を聞こうと合図を送ったのだが、佳央様はそれに気づかず、


「なるほど。

 近々使う作法とは、良い考えじゃ。

 早速、始めるが良いぞ。」


とそのまま作法の勉強を始めるように促した。だが、私としては先に昨日の話を聞いておきたい。

 私はう一度、佳央様に合図を送ったのだが、佳央様が合図に気づく間もなく大月様は、


「分かりました。」


と了承してしまった。まぁ、最後でもよいかと思い直す。


 大月様が、


「では、正月のお目見得(めみえ)についてから始めるか。」


と話し始めた。

 大月様が言うには、歳の初めには、竜人は全員、竜帝城の方に集まるのだそうだ。

 ただ、全員が一同に集まるには、時間的にも、場所的にも問題がある。

 このため、数日に分けて赤竜帝の姿を拝謁(はいえつ)するのだそうだ。

 もちろん、装束(しょうぞく)も席順も決まっているそうで、余程の事が無い限り、欠席も出来ないのだとか。

 ただ、末端の竜人は人数が多い。

 隔年でお目見得する者達や、全くお目見得出来ない者たちもいるのだそうだ。

 (ちな)みに、直接会える人を「お目見得以上」、会えない人を「お目見得以下」と呼び、隔年で会う人達は、「半お目見得」と呼ぶのだそうだ。

 お目見得以下の人達は、会えないのに行くというのも理不尽だと思ったが、仕来りなので仕方がない。


 このような話が、午前中、延々(えんえん)と続く。


 正午まで半時(1時間)となった頃、下女の人がやってきて廊下に控えた。

 佳央様が障子(しょうじ)の外に向かって、


「何用じゃ?」


と確認をする。すると下女の人は、


「宜しいでしょうか。」


と佳央様に返事をした。要件を聞いたのは下女の人なのに、どうしたのだろうと思っていると、佳央様は、


「少々待て。」


と言って、障子の外に出ていった。

 佳央様が、少しして座敷に戻ってくる。そして、 


「大月。

 すまぬが、今日はここまでじゃ。

 これから、午後一番の準備に入る。」


と伝えた。私は、帰る前に昨日の話を聞きたいと思ったので、佳央様に合図を送ったのだが、それには気づいて貰えず、大月様は、


(うけたまわ)りました。」


と了承した。そして、すぐに座敷から下がっていってしまう。私は、


「昨日の話を聞きたかったのですが。」


と苦情を言ったのだが、佳央様は、


「なら、合図を送ってよ。」


と返事をした。私は、


「送りましたよ。」


と文句をつけたのだが、佳央様は、


「そう?

 でも、そうなら、もっと分かるようにやって。」


と逆に文句をつけられた。私は少しイラッとしたが、


「分かりました。

 ただ、そうやってまたすれ違ってもいけません。

 一度、練習をしませんか?」


と提案した。すると、佳央様は、


「そうね。

 でも、その前に昼餉(ひるげ)だそうよ。

 空腹で(やしろ)に行くのも駄目(だめ)でしょ?」


とひらり(かわ)されてしまった印象。

 私は、一言文句を言いたくなったが、


「そうですね。」


と返し、昼食が準備されているいつもの座敷へと向かったのだった。


 本日、短めです。

 今回は、江戸ネタをいくつか。


 (かなり強引ですが)作中出てきた「木で出来たずんぐりとした馬の置物」というのは、福島の郷土玩具の三春駒(みはるごま)のような物を想定しています。

 この三春駒ですが、蝦夷討伐で坂上田村麻呂さかのうえのたむらまろが東北まで行って苦戦していた時に木馬に助けられたという伝承に基づいて、子供の玩具(がんぐ)として作られたのが始まりなのだそうです。

 ただ、この玩具は最初は三春の隣の高柴で作られていたため、高柴木馬(たかしばきんま)と呼ばれていたそうですが、これを三春の野生馬の名称である「三春駒」の名を使って勝手に販売した人がいたそうで、これがそのまま全国に広まってしまったのだそうです。

 これ、今なら商標権やら何やらで絶対起きない話だなと思ったおっさんでした。(^^;)


 後、作中、赤竜帝と会えるかどうかの話がありました。こちらにいては、江戸時代の将軍様に会えるかどうかの話を踏まえて設定してみました。

 江戸時代、将軍に会う事を「御目見(おめみえ)」と言ったのだそうですが、作中の通り、会える人(概ね旗本以上)を「御目見以上」、会えない人を「御目見以下」と呼んだのだそうです。

 あと、隔年で会える半御目見(はんおめみえ)というのもあったそうですが、こちらは天守番、宝蔵番といった人達がこれにあたるのだとか。

 おっさん、これをどこまで作品に取り入れるのが良いか、未だに悩んでいたりします。(^^;)

 (この件を考えている内に、いつの間にか時間が消えていきまして。。。)


三春駒(みはるごま)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%B8%89%E6%98%A5%E9%A7%92&oldid=93735841

御目見(おめみえ)

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%BE%A1%E7%9B%AE%E8%A6%8B&oldid=85537330

・第一章 「旗本8万騎」の実像 出自さまざま

 小川恭一『江戸の旗本辞典』角川ソフィア文庫, 平成28年1月25日, 電子書籍で読んだのでページ数不明


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