竜帝の間に通されて
昼食後、迎えに来た大月様に連れられて竜帝城に向かう。
移動中、大月様が突然、
「そういえば、山上。
漸く、日程が貰えてな。
年末は、明日から1週間。
年明けは、4日から実施となった。
前よりも時間は短いが、心して受けるのだぞ。」
と言ってきた。
──何の話だろうか?
一瞬、私は何の話か判らなかったが、相手は大月様だ。
私は、
「えっと・・・。
作法の勉強の件でしょうか?」
と確認すると、大月様は、
「そうだ。」
と肯定する。
私は、一昨日の古川様と大月様との遣り取りを思い出しながら、
「確か、日程が貰えるのは来週と言っていませでしたか?」
と確認すると、大月様は、
「うむ。
小生もそう思い、
『早めの連絡、痛み入ります』
と伝えると、古川様は、
『稲荷の巫女様が〘今週中のどこかで〙と仰ったのだが、それが今朝、届いたのだ』
と仰ったのだ。
先日来週と言ったのは、恐らく、週末届くと思っていたからなのだろう。」
と答えた。会話形式にはなっているが、中身は要約しているのだろう。
私は、
「そういう話でしたか。
ならば、納得です。」
と頷き、
「それにしても、もっと早く、判かればよかったのですけどね。」
と少し笑いながら返すと、大月様も、
「全くである。」
と頷いた。私は、
「半日に短くなるという事は、勉強する期間も、より長くなるのですよね。」
と、なんとなく話の流れで当たり前の事を確認すると、大月様は、
「そうなるであろうな。」
と肯定した。そして、
「その分、山上が頑張れば伸びずに済むやもしれぬがな。」
と付け加える。私は、一日にすべき内容を半日だなんて無理だろうと思い、無表情で、
「そうですね。」
と返事をしたのだった。
竜帝城に着いた後、そのまま竜帝の間まで通される。
部屋に入ると、正面横には不知火様を始め、3人の竜人が立っている。
部屋を進み、先日、大月様や焔太様と来た時に座った位置まで移動する。
後ろを振り返り、大月様の顔を見ると、ここであっているとばかり、頷いてくれた。
私が一番前に座る事となるので少々不安になるが、仕方がないのでそのまま座る。
その後ろには佳央様、そして、やや斜め後ろに大月様が座る。
佳央様が大月様より前に出ているのに疑問を感じる。
私は、小声で、
「佳央様は、大月様の前なのですね。」
と伝えると、佳央様も小声で、
「ええ。
一応、私もこれから仮の巫女の修行に参加だから。」
と説明した。一般の竜人よりも、神社関係の人の方が身分は上となる。
私は、
「そういう事でしたか。」
と納得し姿勢を正す。そして、少し頭を下げながら、大月様に、
「こちらの部屋に通されたという事は、赤竜帝がお見えに?」
と確認すると、大月様は、
「うむ。
直接、状況を確認なさりたいのだそうだ。」
と肯定した。
私は、
「分かりました。
それで、どのような事を話せばよいのでしょうか?」
と聞いてみたのだが、大月様は、
「それは判らぬ。」
と知らない様子。筋書きはないようだ。
私はどうしたものかと考えながら、
「そうですか・・・。」
と眉根を寄せながら深く息をした。
銅鑼が鳴り、赤竜帝が入ってくる。
例によって、竜人化を解いている。
竜人化を解いた赤竜帝は、何度見ても威厳を感じる。
進行役と思われる竜人が、
「これより、昨晩の火付けに関する調べを行う。」
と宣言すると、少し間を開け、
「先ずは、大月から状況を話すが良い。」
と指示をした。すると大月様は、
「ははあ。」
と言った。後ろに居るので直接見えないが、恐らく、頭を下げながらだろう。
大月様は、
「まず始めに、誰が狐講の構成員か不明だったゆえ、その点を中心に聞き込みを行いました。」
と報告すると、進行役と思われる竜人が、
「うむ。」
と相槌を打つ。
大月様は、
「はい。
手の者と伴に色々な所で聞き込みを行ったのですが、辰巳の辺りで懐に狐の面を隠し持つ者を見つけまして。
それで、その者の動向を探る事となりました。」
と説明した。進行役と思われる竜人が、また、
「うむ。」
と頷く。大月様は、
「それで、この者なのですが、何人かとの接触を確認しておりまして。
その中には、稲荷神社の神職も含まれておりました。
これらの者達全員が狐講かは不明ですが、何人かは狐の面を持っている事を確認しております。」
と続きを説明した。稲荷神社の神職まで含まれるというのは、私にとって驚きだ。
不知火様もそう思ったのか、ぽつりと、
「内通者か。」
と呟く。
だが、大月様はそれには反応せず、続けて昨晩の張り込み結果について報告した。
佳央様や私が小火を消した件についても、纏めて報告する。
進行役と思われる竜人が、
「以上か?」
と確認すると、大月様は、
「はい。
以上にございます。」
と締め括った。
正面横に立っていた3人が全員集まり、相談を始める。
暫くして、3人は元の立ち位置に戻ると、進行役と思われる竜人が、
「次に、山上。
小火の状況を説明せよ。」
と私に呼びかけてきた。私は、先程、大月様が説明したではないかと思いながら、
「分かりました。」
と返事をした。
巫女様から連絡を受け、稲荷神社に急いだ事、大月様と会った後、二手に分かれて見張った事、狐の面を被った人が上がってきたのでその人の後をつけ、小火を見つけて消した事、大月様と合流して狐の面の人を取り押さえた事を説明した。
後からだが、途中で狐の面を被っている人を見かけた事も説明する。
進行役と思われる人は、
「うむ。」
と頷き、恐れ多くも赤竜帝まで、
<<大儀であった。>>
と労いの言葉を掛けてくれた。
私は、少し恐縮しながら、
「ははあ。」
と頭を下げたのだった。
本日も、所用につき短めです。
作中、(かなり強引ですが)辰巳という言葉が出てきますが、これは、竜帝城から見て南東の方角にある地域を指す想定です。
こちらは、江戸の町では江戸城から見て南東にある深川等の地域を辰巳と呼びましたが、これになぞらえての表現となります。
補足ですが、江戸時代の頃、干支を北から順に時計回りに割り当てる方角が使われていました。
これを使うと、真北を0度として辰の方角は105〜135度、巳の方角は135〜165度となります。
一方、南東は135度なので、辰の方角と巳の方角の間が丁度南東に当たります。
このため、南東の事を辰巳の方角と呼んだのだそうです。
方角と言えば、江戸時代の頃、八卦を使った方角も用いられていたそうです。
この方式では、南東は巽に当たります。で、先の辰巳とごっちゃになって(?)、巽を「たつみ」とも読むようになったのだそうです。
↑お恥ずかしながら、おっさん、最近まで「巽」に「そん」という読み方があるのを知りませんでした。(^^;)
・辰巳 (江東区)
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・巽
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