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夢の中に

 真っ白な中、正面に白くてぼんやりと何かが浮かんでいるのが見える。


──ここは、どこだろうか?


 キョロキョロしてみるが、そのぼんやりとした何か以外は、何も見えない。


──過去にも、似た場所に来たことはないか?


 そう思い、いつだったか思い出してみる。


──あれは、谷竜稲荷(ろくりょういなり)で稲荷神に会いに行った白狐を待っていた時ではないか?


 その時の様子を、回想(かいそう)する。


 あの時、私は直接神様を見たら目が(つぶ)れると思っていた。このため、目を手で(おお)いながら、白狐が戻ってくるのを待っていた。

 だが、それにも拘らず、突然、目の前が真っ白になった。

 私は動揺したのだが、直ぐに白狐の声がして安心したのを覚えている。

 手の覆いを外したが、一面、真っ白で白狐は見えない。それを白狐が祝詞(のりと)を唱えてなんとかしてくれたのだが、その時に、今のように白くてぼんやりとした影のようなものが見えた。

 この白くてぼんやりしたものは、後に稲荷神の()御霊(みたま)だと判る事になる。


──今回も、稲荷神の分け御霊なのか?


 そう思ったのだが、前回、分け御霊に会った時は、幼女の姿で(あらわ)れた。


──今回は、別のなにかか?


 私は助けを求めて白狐の姿を探したのだが、今はどこにも見えない。

 仕方がないので、恐る恐る私は、


「どなた様でしょうか?」


と声を()けてみた。

 だが、返事はない。


──白狐に聞けば、何か判るかもしれないのに・・・。


 私は、もう一度ぐるりと周りを見たのだが、他に何かいるような様子はない。

 私は、


「白狐はいますか?」


と声をかけてみたのだが、やはり返事はない。

 仕方がないので、ぼんやりと見えている方に近づいてみる。

 すると、そのぼんやりと見える物が、


<<・・・これで、・・・聞こえ・・・か?>>


とかすれた声で問いかけてきた。

 私は、何者だろうと思いつつも、


「はい。

 (かす)れておりますが、聞こえましてございます。」


と、()(かく)失礼のないように丁寧(ていねい)に答えると、ぼんやりと浮かんでいる何かが、


<<これで、どうか?>>


と改めて聞いてきた。私は、


「はい。

 今度は綺麗(きれい)に聞こえてございます。」


と伝えると、その声の主は、


<<うむ。

  (ようや)く、(つな)がったか。>>


(うなづ)いた。私は、(えら)い人は自分の名前を知られていて当然という態度をする事があると聞いたことがあったので、


無知(むち)で大変申し訳ありません。

 (はじ)(しの)んでお(たず)ねしますが、どなた様なのでしょうか?」


ともう一度質問をした。すると、そのぼんやりと見える物は、


<<判らぬか。>>


と少し(あき)れた口調。やはり、偉い何かなのだろう。

 私が、


「申し訳ありません。

 お姿がぼんやりとして、はっきりと拝見(はいけん)できないものでして・・・。」


と言い訳をすると、ぼんやりと見える物は、


<<そうか>>


と申すと、ぼんやりとしたものが幼女の形に変わっていった。

 その姿、稲荷神の分け御霊と(うり)(ふた)つ。


──やはりか。


 私はそう思ったのだが、それにしては少々、背が低い。

 私は、


「稲荷神の、分け御霊様にございましたか。」


とお声がけし、


「少々、(おさな)くなられましたか?」


と尋ねると、背の低い分け御霊は、


<<失礼な。

  妾は、稲荷神社の分け御霊じゃ。>>


と一瞬だけ眉根を寄せた。だが、社の大きさと分け御霊の体の大きさがあまりに釣り合わない。

 私は、


「別の分け御霊でしたか。」


と納得し、


「という事は、谷竜稲荷の分け御霊の妹君(いもうとぎみ)ですね?」


と尋ねると、稲荷神社の分け御霊は、


<<分け御霊に姉妹はないわ!>>


と怒られた。ここで、白狐が合流する。

 白狐は、


<<こちらにおいででしたか。>>


と言うと、私に、


<<小童(こわっぱ)よ。

  分け御霊は大小あれど、全て稲荷神じゃ。

  くれぐれも、粗相(そそう)のないようにの。>>


と厳し目の口調で注意した。私は少し手遅れ感を感じながら、


「申し訳ありません。

 そうとは、(つゆ)知らず・・・。」


と謝ると、稲荷神社の分け御霊は、


<<知らねば、そのような物であろう。>>


寛大(かんだい)にも許してくれた。白狐が、


<<人の方は、大きいほどご利益(りやく)があると信じておるようじゃからのぅ。>>


と付け加える。私は、


「すみません。」


と謝った。だが、そうすると、その大きさに意味はあるのか?

 私はそう思い、早速、


「不快にお思いになられたら、申し訳ありません。

 お姿の大きさには、何か意味があるのでしょうか?」


と聞いてみると、白狐が慌てて、


<<小童(こわっぱ)!>>


と叱りつけてきた。私は、やはり怒られたかと思い謝ろうと思ったのだが、その前に稲荷神社の分け御霊が、


<<良い。>>


と言ってくれた。白狐が、


<<ですが、>>


と何か言いかけたが、稲荷神社の分け御霊が、


<<妾は、良いと言ったぞ?>>


と圧を掛ける。白狐は、


<<出過ぎた事を申しました・・・。>>


と納得出来ていなさそうに謝る。

 それをよそに稲荷神社の分け御霊は、


<<それで、大きさについての答えなのじゃがな。

  大きい分け御霊は、分社が出来るのじゃ。

  妾も、ここに降りた時はもう少し大きかったのじゃが、分社するうちにの。>>


と説明してくれた。私は、


「ありがとうございます。

 それで、本日はどのようなご要件でいらっしゃったのですか?」


と少し忘れていたが、本題に入ってもらう事にした。

 すると稲荷神社の分け御霊はポンと手を打ち、


<<そうであった。>>


と笑い、


<<今日は、大儀(たいぎ)であったのぅ。>>


(ねぎら)いの言葉をかけてきた。恐らく、付け火の件の事なのだろう。

 私は、


「もったいないお言葉です。」


と返すと、稲荷神社の分け御霊は、


<<うむ。

  放置(ほってお)けば、あれが原因で(やしろ)全焼(ぜんしょう)する所であったわ。>>


と笑った。私は、


「私などいなくとも、竜の巫女様や稲荷の巫女様もいらっしゃるのです。

 直ぐに消したのではありませんか?」


と聞くと、稲荷神社の分け御霊は、


<<そうとも限らぬ。

  あそこで巫女達が火を消せば、狐講の連中が(むき)になるからのぅ。>>


と答えた。だが、私には向きになったらどうなるのか、想像が出来ない。

 すると、稲荷神社の分け御霊が、


<<あちこちから、火の手が上がった(はず)じゃ。>>


と付け加えてくれた。私は、


「そうなので?」


と首を(ひね)ると、稲荷神社の分け御霊は、


<<うむ。

  知っての通り、今回の件、狐講の中でそちの扱いに不満を持つ勢力が中心となって起こした騒ぎじゃ。

  じゃが、そちが火を消せす事で、それを望まぬと示した形となった。

  ゆえに、今夜は中止となったのじゃ。>>


と説明した。私は、


「そういう経緯(けいい)でしたか。

 私も竜の巫女様から、私が神主を務めるには社格が低いせいだと聞いております。

 ですが、私には特に不満もありませんし、それどころか恐れ多い話だとさえ思っております。

 だと言いますのに、このような騒動。」


と思っている事を伝えていると、白狐から、


<<手短にの。>>


と怒られた。私は、


「申し訳ありません。」


(あやま)り、


()(かく)、今夜は収まって安心しております。」


(まと)めた。そして、


「ところで、今夜は中止という話と聞いておりますが、この言い回しですと、次があるという事なのでしょうか?」


と確認した。すると、稲荷神社の分け御霊は少し(まゆ)(ひそ)め、


<<この件は、既に稲荷の巫女に伝えてある。

  そちらから聞くが良いじゃろう。>>


若干(じゃっかん)不機嫌そうだ。


──何か、機嫌(きげん)(そこ)ねる事を聞いただろうか?


 私は、理由が判らなかったので、白狐の方を見ると、白狐が、


<<同じ事を何度も聞くは、失礼じゃ。>>


と教えてくれた。私は、


「他の人が聞いたかは、私には判りかねるのですが・・・。」


と言い訳をすると、白狐も私と同じように思っていたのだろう。


<<それでもじゃ。>>


と苦笑いした。相手は神様。そういう物なのかもしれない。


──少々面倒な御仁というわけか。


 私はそんな事を考えながら、


「申し訳ありません。」


と謝ると、稲荷神社の分け御霊は、


<<内の言葉も聞こえておるぞ?>>


とにこやかに指摘した。私は、


「申し訳ありません。」


と謝ると、白狐が、


<<何を考えた?>>


と確認してきた。私は、どうせバレるのだからと、


「はい。

 面倒な御仁だと。」


と伝えると、白狐は慌てて、


<<それは、思うても思うてはならぬ。>>


と苦笑い。恐らく、白狐も腹の底では思っているという事なのかもしれないと思いながら、


「善処します。」


と伝えると、稲荷神社の分け御霊は、


<<まぁ、よい。>>


と笑って(ゆる)してくれたのだった。



 ここで夢から()め、目を開ける。

 いつものことながら、真っ暗だ。


 震えながら布団から抜け出し、(かわや)を目指す。

 寒さのせいか、いつもよりも近い。

 廊下(ろうか)が冷たいので、つま先立ちのようにしながら、早足で進む。


 お勝手に着いたが、いつもの通り、まだ火が入っていない。

 いそいそとお勝手の土間に降り、そこの戸から外に出る。


 空は晴れており、星がよく見える。


──今日も、神社の用事はあるのだろうか?


 仮に用事があるのであれば、今朝も(みそぎ)があるに違いない。

 私は、このような寒い中で、無い事を祈りながら飛び石を渡った。



 井戸が見えてくる。

 その横では、誰かが水を()んでいる。


 ・・・バシャリ。


 折角(せっかく)汲み上げた水を、すぐに捨てている。

 この行動には、見覚えがある。

 私は、7割以上、古川様だろうと思いつつも、そうであってくれるなと思いながら、更に井戸に近づいた。


 そこにいたのは、残念ながら古川様だ。

 井戸の周りには、勿論(もちろん)七五三縄(しめなわ)()られている。

 禊、確定である。


 私は溜息(ためいき)()じりに、


「おはようございます。」


と声を掛けると、古川様も、


「おはよう・・・山上。」


挨拶(あいさつ)を返した。

 私は、夢の中での話を思い出したので、


「すみません。

 後で良いのですが、稲荷の巫女様に、火付けの件の今後の話を確認していただいても良いでしょうか?」


とお願いをすると、古川様は、


「分った・・・わ。

 稲荷の巫女様に、・・・確認するわ・・・ね。」


と了承してくれた。他にもいくつか、確認したい事があるのだが、今の私には急いで行きたい所がある。

 私は少し足踏(あしぶ)みをしながら、


「お願いします。

 今、少し急いでいますので、また後ほど。」


と言い残して、少し早足で厠に移動したのだった。


 

 本日の後書きはお休みです。(--;) ネタ、シコメンカッタ...

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