三人目、四人目がいても
稲荷神社の壁の小火を消した佳央様と私は、狐の面を被った人を取り押さえ損ねてしまった事に気が付き、動揺していた。
佳央様が念話で、大月様に連絡をとる。
佳央様は、
「取り込み中だって!
急ぐわよ!」
と慌てて走り始めた。既に、交戦中なのかもしれない。
私も早口で、
「分かりました!」
と返しながら、その後を追い始める。
神社の石段まで戻り、そこを駆け下りる。
階段の途中では、珍しく刀を抜いた大月様と、狐の面を被った二人組が対峙していた。
──このまま行けば、不意を突ける!
そう考えた私は、二人のうちの一人を指差して、小さく、
「佳央様!」
と声をかけた。佳央様が、
「分ったわ!」
と頷きながら指差した方に向かう。
私は黄色魔法を集めながら、もう一方の人に突撃した。
私としていは、大月様が捕まえるための隙きが出来れば良いと思っていたのだが、思いの外上手く行き、面の人を簡単に組み伏せる事に成功する。
もう一人も、佳央様が上手く大月様の方に誘導したのだろう。大月様が組み伏せる。
一先ず、面の人を2人共捕まえる事が出来た。
私は、
「先程、小火を消してきましたが、どちらが火を着けたのでしょうか?」
と質問した。すると大月様は少し迷っているようではあるが、
「こいつだ。」
と大月様が捕まえた人を揺する。だが、その面の人は、
「小火?
俺は火付けなんてしてねぇぞ!」
と言ってきた。私は、
「ですが、ここは一本道です。
他に誰がいるというのですか?」
と確認すると、その面の人は、
「俺は、参拝しに来ただけだ。
お前達もつけていたんなら判るだろ?」
と主張する。確かに、火を着けた瞬間を私達は見ていない。
だが、面の人は、私達がつけていた事に気がついていた。
わざと見せて証人に仕立て上げようとしたと考えれば、怪しさが増す。
大月様は少し困りながら、
「火付けがあった時に、ここにいたんだ。
番所までは同行するな?」
と確認したのだが、面の人は、
「俺は、やっていないと言ってるだろうが。」
と主張した。私が組み伏せたもう一人の面の人が、
「俺は、裏で待ってたんだから関係ない。
離してくれるな・・・いただけませんか?」
と大月様の視線を受けてか、途中から急に丁寧になる。
大月様は、
「二人共、同じ面を被っているであろうが。
ならば、どう考えても同じ組織の者と考えるが道理。
すまぬが、一緒に来てもらうが、良いな?」
と説明した。もう一人の面の人も、
「分った・・・。」
と渋々ながら番所には来る模様。大月様は、
「良し。
では、行くぞ。」
と言って組み伏せた面の人の体を起こし、歩かせ始めた。
私も、
「こちらもお願いします。」
と言ってもう一人の面の人を起こした。
面の人を捕まえたまま、大月様の後ろを進んでいく。
私は、これで竜の里が大火になる事はないだろうと思いながら、前の面の人を歩かせたのだった。
最寄りの番所まで、移動する。
道中、大月様と佳央さまが小火の話をしていたが、私は特に何も聞かれなかった。
面の二人は、大人しく連行されてくれたので、手間もかからなかった。
大月様が、
「山上。
今日は、もう遅いからな。
帰るがよかろう。」
と言ってくれた。私は、
「分かりました。」
と返事をした。だが、実家が焼けた後の事だが、一兄から、役人がご近所にしつこく聞き込みをしていたと聞いたのを思い出した。
私は後からやはりと言って聞かれても面倒だと思い、
「ですが、昔、こういう時は役人が見た人の話を聞いて回るものだと聞いた事があります。
私は何も聞かれていませんが、そのまま帰っても大丈夫ですか?」
と確認すると、大月様は、
「先程、佳央に聞いたゆえな。」
と帰っても良い様子。だが、念の為か、
「もしや、何か付け加えたい事でもあるのか?」
と聞いてきた。
その時の様子を、思い出してみる。
確か、現場では壁に薪が立てかけられてあって、そこに火が付けられていた。
煙の立ち方は、ずっとスキルを使って温度を見続けていたので判らない。
後、匂いについても、特に取り立てるようなものではなかった。
私は、
「いえ。
普通の焚き火のようでしたし、変な匂いもありませんでした。
付け加えて話すような事はありません。」
と返し、
「・・・動物の油でも使っていれば、あれは臭うので、一発で解りますがね。」
と付け加えると、大月様は、
「つまり、油は使っていなさそうと。
これは、良い着眼点だな。」
と意図しないお褒めの言葉。そして、
「他には?」
と改めて確認してきた。私は、取るに足りない事と思っていた点が褒められたので、他にも平素と同じで見落としている事はないかと記憶を遡ったが、特に話すような内容を思い出せない。
私は、
「いえ。
他は、特にありません。」
と返すと、大月様は、
「分った。
こちらも、特に聞きたい事もないからな。
帰っても、問題あるまい。」
と頷きながら言った。私は、
「分かりました。
では、本日はこれで帰ります。」
と挨拶をすると、大月様も、
「うむ。」
と挨拶を返した。佳央様も挨拶をし、番所から外に出る。
佳央様と二人、屋敷に向かって移動する。
夜風は冷たいが、問題が片付いた嬉しさの方が勝っているからか、そこまで寒いとは感じない。
私は、
「これで一安心ですね。」
と笑いかけると、佳央様は険しい表情で、
「どうかしら。
私は最初、犯人は一人と思ってたの。
でもさっき、狐の面の人は二人だったでしょ?
なら、三人目、四人目がいてもおかしくないじゃない。」
と言い出した。私は、
「その『まさか』。
・・・ありますかね?」
と聞くと、佳央様は、
「どうかしら。
でも、あっても不思議じゃないと思うわよ?
私達に、わざとつけさせたみたいだったし。」
と答え、更に心配を煽る。私は、
「すみません。
念話で、古川様に確認して貰っても良いですか?」
と確認すると、佳央様は、
「そうね。
それが良いわね。」
と納得すると、足を止めて目を瞑った。
少しして、佳央様が目を開ける。
佳央様は、
「巫女様に確認するって。」
と状況を説明した。私は嫌な予感がしてきて、
「もう一度、稲荷神社に向かいますか?」
と聞くと、佳央様も同じように考えていたのか、
「そうね。
答えが戻ってからじゃ、遅いかもだし。」
と返事をした。私は、
「はい。
急ぎましょう。」
と稲荷神社に行き先を変えた。
早足で稲荷神社に向かいながら、古川様からの連絡を待つ。
チラチラと佳央様を見ていると、佳央様から、
「まだよ。」
と言われてしまった。私は、
「すみません。
気になってしまいまして。」
と軽く謝ると、佳央様は、
「気持ちは解るわ。」
と理解を示す。だが、
「でも、そんなに見られてもね。」
と苦笑い。私はもう一度、
「すみません。」
と謝った。
稲荷神社が近づいてくる。
私は少し早口で、
「もうすぐ着きますね。」
と落ち着きなく伝えると、佳央様は、
「連絡はまだよ。」
と私の質問を先取りして答えた。私は、
「早く判るとよいのですが・・・。」
と心配しながら伝えると、佳央様も、
「そうね。」
と返した。
私は、早く巫女様から返事が来ないかと思いながら、周囲に異常がないかキョロキョロしながら歩いたのだった。
今回は、作中の解説にかこつけて江戸ネタを少しだけ。
作中登場する稲荷神社は、東京の愛宕山(標高25.7m)のような感じの小さな山の上に神社が建っている想定です。
現実の愛宕山の上にも神社が建っていますが、こちらは稲荷神社ではなく、京都に総本社がある愛宕神社となります。
この愛宕神社ですが、江戸の防火のために徳川家康が命じて創建させた神社なのだそうです。
後、ここのご本尊は勝軍地蔵菩薩で戦勝祈願にご利益があるとされる事から、桜田門外の変で待ち合わせにも使われたそうです。
・愛宕山 (東京都港区)
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%84%9B%E5%AE%95%E5%B1%B1_(%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E6%B8%AF%E5%8C%BA)&oldid=93442276
・愛宕神社 (東京都港区)
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%84%9B%E5%AE%95%E7%A5%9E%E7%A4%BE_(%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E6%B8%AF%E5%8C%BA)&oldid=94631923
・愛宕権現
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%84%9B%E5%AE%95%E6%A8%A9%E7%8F%BE&oldid=93620221
・桜田門外の変
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A1%9C%E7%94%B0%E9%96%80%E5%A4%96%E3%81%AE%E5%A4%89&oldid=94487346




