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夜になり

 夕暮れの荒屋(あばらや)、もう解決したので特に隠し立てするような事でもないと思っていたのに、妙な言い回しをした蒼竜様。

 私は、ひょっとしたら話してはいけない何かが残っているのだろうかと思い、


「蒼竜様。

 聞かれた場合、どのように答えれば良いのでしょうか?」


と質問した。すると蒼竜様は不思議そうに、


「普通に答えれば良いが、どうした?」


と返してきた。どうやら、心配し過ぎのようだ。

 私は、


「分かりました。」


と返し、花巻様の方を見た。

 花巻様は、


「良くは解らぬが、踊りのを呼びたい時は、事前に連絡をして門まで迎えに行けばよいのだな?」


と確認した。私は、


「はい。」


と答えると、花巻様は、


「ならば、次は門まで大柴を(むか)えに()るとしよう。」


と言った。そして、大柴様に、


「では、頼んだぞ。」


と声をかける。大柴様は、


「承知しました。」


と返事をし、私に、


「それで、何をやったんだ?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 私には、狐が()いているのですが、厳密には狐憑(きつねつ)きではありませんで。

 何もしなくとも、特に問題もないのですが、監視が着くことになりました。」


()(つま)んで説明した。だが、大柴様は、


「いやいや。

 色々と、飛ばしすぎだ。

 もう少し、解るように説明せてくれ。」


と困った顔をし、


「先ず、踊りのには、狐が憑いているのだな?」


と確認した。私は、


「厳密には違いますが、はい。」


と返事をすると、大柴様は、


「厳密には違うとはどういた意味だ?」


と確認してきた。私は、


「私の場合、構造が2階建てになっているそうでして、その1階には私の魂が、2階には白狐(びゃっこ)のが入っているそうなのです。

 ですので、白狐に完全に支配される事はないと聞いております。」


と答えると、大柴様は、


「ん・・・?」


と首を(ひね)った。そして、


「白狐という事は、稲荷神の使いという事か?」


と確認する。私は、


「はい。」


肯定(こうてい)すると、大柴様は、


「つまり、踊りのを(おが)めば、神社で拝んだも同じという事か。」


と斜め上の方向に(まと)めてきた。私が、


「いえ、そのような事はありません。

 きちんと、神社に拝んで下さい。」


と訂正すると、大柴様は、


「だが、神使(しんし)が中にいるんだよな?」


と確認してきた。私は、この点は、


「はい。」


と認めたが、思いつきで、


「ですが、神社で狛犬(こまいぬ)に参拝はしませんよね?

 なので、私を拝んでもご利益(りやく)はありません。」


と説明した。

 自分では良い返しだと思ったが、大柴様が、


「たまに、狛犬の前に賽銭(さいせん)が置かれている事がないか?」


と不思議な事を言ってきた。私は初耳だったので、


「それは、勉強不足ですみません。

 私は、狛犬を拝んだ事がありませんので、今度、確認してみますね。」


と回答を先延ばしにすると、大柴様は、


「白狐にか?」


と聞いてきた。私は、


「いえ、古川様、・・・谷竜稲荷(ろくりょういなり)を管理している人に聞こうと思います。」


と返すと、大柴様が、


「神社を管理?

 神主か?」


と逆に聞き返された。私は、


「はい。」


と肯定すると、蒼竜様が、


「山上は、仮の巫女の修行を受けている所だからな。」


と説明した。本当は、もっと状況が変わっているのだが、


「はい。」


(うなづ)いておく。

 大柴様は、


(つて)があるのは分ったが、つまり、その古川様という(かた)が問題ないと言っていらっしゃるのだな?」


と確認してきた。私は、


「いえ、()・・・、もっと上の(かた)が・・・。」


と言うと、大柴様は、


「・・・なるほど。

 ならば、問題ないのだろう。

 が、それならば、どうして監視がつくことに?」


と確認してきた。私は、


「確か、白石様の顔を立ててと聞いたと思います。」


と答えると、大柴様は、


「白石・・・。

 あぁ、玄翁様か。

 先日、玄翁様は蟄居になったと聞いたが、それは災難だったな。

 踊りのは最近竜の里に来たのだから、もう少し失脚するのが早ければ、監視役も付かなかったという事だろ?」


若干(じゃっかん)(あわ)れみの目。

 だが、この件は私を(えさ)に白石様のお屋敷に踏み込んで解決したと聞いていたので、


「いえ。

 順番から考えると、恐らく、こうなるのは仕方がなかったのだと思います。」


と伝えた。蒼竜様も、


「うむ。」


と頷く。そして、


「この件の詮索(せんさく)は、また、今度にしてもらえぬか?」


と話を止めようとした。花巻様が、


「話しては不味いという事か?」


と確認すると、蒼竜様は、


「うむ。

 まだ、周囲の調べが続いている事でもあるからな。」


と説明した。花巻様は、


「なるほど。

 大柴。

 良いな?」


と命令口調で伝えると、大柴様も、


「承知しました。」


と返し、私に、


「踊りのも、色々と聞いたな。」


と謝った。私は、


「いえ、お気遣いなく。」


と返すと、大柴様は、


「うむ。」


と頷いたのだった。



 佳央様が、


「話わ終わった?」


と確認する。何気に、日も暮れたようで、既に黄昏時へと差し掛かろうとしている。

 私が、


「はい。」


と返事をすると、蒼竜様が、


「では、帰るとするか。」


と言って、花巻様に、


「では、そろそろな。」


と帰りの挨拶(あいさつ)をした。

 こうして私達は、花巻様の作物を研究している所から帰路についた。

 お土産に、私が育てた(かぶ)(たね)を数種類もらったのだが、育てるような畑がない。

 まさか、庭を借りて蕪を植えるわけにもいかない。

 私は、この種をどう活用すればよいか、悩んだのだった。



 屋敷に戻ると、直ぐに夕餉(ゆうげ)となる。

 座敷には、古川様、佳央様、更科さんと私が座布団に座る。

 下女の人が運んできた(ぜん)の上には、何かの鳥の肉を焼いたものや、里芋の上に細切りの何かが乗ったもの、後は、ご飯と味噌汁に大根だか蕪だかの漬物を細切りにしたものだ。

 私は、


「こちらは、どういった漬物なので?」


と聞くと、下女の人は、


「こちらは、すぐき漬けという蕪の漬物です。

 多少、酸っぱくなっておりますが、そういうものですので、ご承知おき下さい。」


と説明した。今しがた蕪の種を持って帰ったばかりなので、なんとなく、嬉しくなる。

 私は、


「酸っぱいのですね?

 分かりました。」


と返すと、下女の人は、


「では、失礼します。」


と下がっていった。


 夕食が終わり、歓談の時間となる。

 私が、


「そういえば、佳央様。

 日中、蒼竜様に今夜動くらしいと伝えたのですが、どうなったのでしょうかね?」


と聞いてみた。佳央様は少し考え、


「・・・狐講?

 聞いてないけど。」


と返した。私は少し心配になって、


「大月様には伝わっているのでしょうかね?」


と質問すると、慌てた更科さんが、


「ちょっと待って。

 和人。

 蒼竜様が関わると、被害が大きくなるんじゃなかった?」


と聞いてきた。私は、


「・・・そういえば、巫女様がそんな事を言っていましたね。」


と返した。だが、伝言くらいで事態が大きく変わるとも思えない。

 私は心配し過ぎだと持ったのだが、古川様が、


「そう・・・なの?」


と言って、慌てて念話を始めた様子。皆で、古川様に注目する。

 暫くすると、古川様は、


「すぐに・・・、大月の手伝いに行けっ・・・て。」


と言った。恐らく、蒼竜様に伝言したのが悪い方向に作用したのだろう。

 私も責任を感じ始め、


「分かりました。

 すぐに、行きましょう。」


と言った後、監視役の件もあるので、佳央様に、


「お願いしても良いですか?」


と動向を依頼した。佳央様は、


「・・・分ってるわよ。」


と渋々と言った感じだが、付いてきてくれるようだ。私は、


「ありがとうございます。

 助かります。」


とお礼を伝え、


「佳織も、教えてくれてありがとうございます。

 これから、行ってきますね。」


と出発の挨拶をすると、更科さんも、


「分った。

 でも、無理はしないでね。」


と挨拶を返した。

 佳央様と伴に、大月様が潜んでいるであろう、稲荷神社に向かって小走りで移動する。


 私は、そうは言っても伝言程度なので、そこまで大袈裟(おおげさ)な話に発展はしないだろうと考えていたが、飲み会の席で竜の巫女様は、蒼竜様が関わると、最悪の場合は竜の里が2、3割も燃えてしまうと言っていた。

 私は、あの時、佳央様に伝言をお願いすればよかったのにと後悔しながら、闇夜の中を移動したのだった。


 作中の「何かの鳥の肉を焼いたもの」は、(きじ)の肉を焼いた想定です。

 雉は獣肉ではありませんので、江戸時代の頃にも食べられていたようです。


 また、「里芋の上に細切りの何かが乗ったもの」は「いもなます」で、細切りにした鯉に手を加えて煮た里芋の上に乗せてある想定です。長野にもじゃがいもを千切りにした「いもなます」がありますが、これとは別の物となります。 


 もう一つ、「根だか蕪だかの漬物を細切りにしたもの」は、「すぐき漬け」を想定しています。

 すぐき漬けは、荒漬(あらづ)けをした後、「天秤押し」という太い丸太を使い、片方に石をぶら下げて()()の原理で蓋を押さえつけて漬けるという珍しい漬物です。

 この漬物からはラブレ菌が発見されていて、この菌を使った乳酸飲料も販売されています。


・いもなます

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%BE%E3%81%99&oldid=86464669

・いもなます 長野県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/imo_namasu_nagano.html

・すぐき

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%99%E3%81%90%E3%81%8D&oldid=94624764

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