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今夜の件

 ふと、狐講(きつねこう)が今夜動くという件を、誰にも話していない事に気がつく。

 本当は今すぐにでも話したいが、狐講の件は人がいる所で話さないように蒼竜様から(くぎ)()されたばかり。

 だが、そのような事はお構いなしに次の作物を試そうと言う話となった。


 花巻様が、


「高梨。

 次は、あれを持ってきてくれ。」


と指示を出す。高梨様が、


「分ったよ。」


と返事をすると、大柴様も、


「なら、俺は(はち)だな。」


と自主的に、動き始める。

 花巻様が、


「うむ。」


(うなづ)き、二人がこの場を離れる。


 私は、二人が荒屋(あばらや)から出ていく様子を考え事をしながら眺めていた。

 大月様になるべく早く伝えるためには、念話が一番の筈だ。そして、この場で念話が使えるのは、蒼竜様と佳央様だ。

 どうやったら、二人の内、一方を外に連れ出す事が出来るだろうか。

 私は、何か良い案がないかと考えたが、特に思いつかない。


 夜動くのであれば、夕方までには大月様に伝えたい。

 なんとなく、焦燥(しょうそう)感が(つの)り始める。


 私は、唐突だし不自然であまり良い手ではないとも思ったが、


「蒼竜様。

 一緒に、(かわや)に行きませんか?」


と声をかけた。別に、本当に行きたいわけではない。

 蒼竜様が、少々怪訝(けげん)な顔で、


「どうした?」


と聞いてきたので、私は、


「その・・・。

 場所が良く判りませんでして。」


と言うと、蒼竜様は少し困った顔で、


「必要か?」


と聞いてきた。私は、


「できましたら。」


とお願いすると、蒼竜様は、


「まぁ、良いが。」


と承知してくれた。私は、


「ありがとうございます。」


とお礼を言うと、花巻様と佳央様に、


「少し、席を外します。」


と断って、蒼竜様と荒屋から外に出た。

 私は、


「どちらに厠の建物があるのでしょうか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「こっちだ。」


と答え、荒屋の裏手に回った。

 ちゃんとした家と、離れが見える。

 私は、


「あぁ、あの離れですか。」


と言うと、蒼竜様は、


「では、もう良いな。」


と答えた。だが、折角連れ出したのに、ここで帰ってもらっては困る。

 私は、


「蒼竜様。

 実は昨晩、狐講について、託けがありまして。」


と切り出すと、蒼竜様は、


「託け?」


と真剣な顔となる。私が、


「昨晩、夢で今夜にも動くと聞きまして。

 大月様に伝言をお願いしても良いでしょうか?」


と依頼すると、蒼竜様は、


「うむ。」


と頷いた。私は、


「宜しくお願いします。

 では。」


と伝え、形だけだが厠に行った。



 厠から戻ると、どういうわけか、土間(どま)植木鉢(うえきばち)が6つも準備されていた。

 高梨様と大柴様は、何故かいない。


 私は、


「すみません。

 お待たせしました。」


(あやま)ると、花巻様が、


「何。

 それよりも早速だが、そこの鉢をな。」


と言ってきた。私は、


「何の種で?」


と質問すると、花巻様は、


「数種類、米を混ぜてあってな。」


と答えた。そして、


「花が咲いたら、一度、成長を止めれもらってもよいか?」


と依頼を受ける。私は、


「どうしてでしょうか?」


と質問すると、花巻は、


「どうも、この時期に風が吹くか吹かぬかで新しい品種が出来るかどうかが決まるようなのだ。」


と説明した。私が、


「折れない程度という事ですよね。」


と確認すると、花巻様が、


「当然だ。」


と肯定する。私は、


「分かりました。

 試してみます。」


と始める事にした。



 先ずは、花巻様が鉢に水をやる。

 次に、私が(しょくぶつ)魔法を集めて使い、芽を出させる。

 花巻様が様子を見ながら、時折、水を遣る。

 そして、花が咲きそうになった所で、一旦手を止める。

 花巻様が、


「まだ、咲いておらぬな。」


と指摘をしたので、私は、


「はい。

 勢い余って、花の時期が終わると困ると思いましたので。」


と返事をした。花巻様が、


「なるほど。

 確かに、調整は面倒なのやもしれぬな。」


と頷いた。

 折角(せっかく)なのでと、穂肥(ほごえ)を施し、少しづつ(植物)魔法を使っていく。

 (しばら)くして、緑の稲穂(いなほ)から小さな白い花が出てきた。

 花巻様から、


「待て!」


と少し大きな声が飛ぶ。私は、


「分かりました。」


と返事をし、(植物)魔法を集めるのを()めると、花巻様は、早速、(かぜ)魔法で風を送り始める。

 暫くすると、大柴様が新たな鉢を持ってきた。

 後ろには、やはり鉢を持った高梨様もいる。

 私は、


「次があるのですか?」


と聞くと、花巻様は、


「うむ。」


と返事をした。そして、


「そろそろ良いか。」


と言って風を止めると、私に、


「では、踊りの。」


(植物)魔法を再開するように(うなが)した。

 私は、


「分かりました。」


と返事をして、また、(植物)魔法を集めて稲に使い始めた。

 稲が黄色くなり、稲穂が垂れ始める。

 佳央様が、


「じっくりと見た事なかったけど、こうやって米が出来るのね。」


と感心した様子。花巻様が、


「うむ。

 作物が育つ様子を間近に見るというのは、中々(なかなか)、良いものであろう?」


と聞いたのだが、佳央様は、


「まぁ、そうね。」


と、そこまでではない様子。花巻様は、


「む・・・。

 (もっと)も、普通はそんなものか。」


と言った。

 私は、人によって関心事も違うので、これは仕方がないだろうなと思ったのだった。


 

 本日、短めです。


 作中、花巻様が「花が咲いたら、一度、成長を止めれもらってもよいか?」と言っていました。

 これは、稲が自分の花粉で受粉可能な植物(自家受粉する植物)のためとなります。(何もなければ自身の花粉で受粉してしまい、親と子で遺伝子構造は極めて近いものとなります。)

 ただ、江戸時代の頃は遺伝子学も発達していませんでしたので、一部の例外を除き、品種改良は偶発的な交配や突然変異に依る物だったようです。

 作中のように複数の種類の種を同じ鉢に植えると言った知恵はなかったと思われますので、江戸時代風と銘打っている本作では、NGだったりします。(^^;)


 因みに、先程記載した一部の例外というのが朝顔で、一部の人達の間では何の品種と何の品種を掛け合わせればどういった品種が出来るといのが、経験則として知られていた模様。ただ、どの程度の知識を有していたかは不明なので、遺伝子学の入口まで来ていたと言えるかも不明なのだとか。


・受粉

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%8F%97%E7%B2%89&oldid=93694955

・栽培品種

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A0%BD%E5%9F%B9%E5%93%81%E7%A8%AE&oldid=92473262

・アサガオ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%82%AC%E3%82%AA&oldid=93998869


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