表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
513/680

誰にも話していない

 荒屋(あばらや)囲炉裏(いろり)の周りで、何種類か(かゆ)を食べた私達は、雑談を始めていた。

 外で作業をしていた大柴(おおしば)様も、午前の作業を終えて荒屋に入ってきた。


 佳央様が、


「和人の実家、農家じゃない?

 何か困ってる事があったら、聞けば良いんじゃないの?」


と提案した。花巻様が、


「そうなのか?」


と確認する。

 花巻様は、私の実家が農家だという事を確認しているのだろうか。

 それとも、実家で困り事があるかの確認をしているのだろうか。

 私は、どちらか判断がつかなかったので、一先ず、


「はい。

 両親は、平村で農家をしています。」


と前者の意味で返事をすると、花巻様は、


「平村、平村・・・。

 あぁ、笹籠(ささかご)で有名な所か。

 あそこは、水も十分、土地も肥沃(ひよく)だが、如何(いかん)せん往来(おうらい)が難しいのであったな。」


と説明した。そして、


「ただ、川から離れると、米は難しいのだったか。」


と付け加える。私は、


「山奥の辺鄙(へんぴ)な村ですのに、よくご存知(ぞんじ)ですね。」


(おどろ)くと、花巻様は、


「国内の土壌(どじょう)は、だいたい頭に入っておる。」


と胸を張った。流石(さすが)、作物の研究をしているだけの事はある。

 私は早速、


「実家は、少し山の方なのですが、何か良い作物は分かりませんか?」


と聞いてみた。すると、花巻様は、


「畑のある側か。」


と言って少し考え始めた。そして、


「豆が妥当であろうが、既に作っておったからな。」


(つぶや)いた後、(ひざ)をぽんと(たた)き、


赤茄子(あかなすび)なるものはどうか。」


と紹介してくれた。初めて聞く作物だ。

 私は、


「赤茄子と言いますと?」


と確認した所、花巻様は、


「最近、外から入ってきたのだがな。

 赤い実が綺麗(きれい)ゆえ、飾ったりもしているそうだ。」


と答えた。飾るということは、

 佳央様が、


「観賞用?」


と確認する。だが、花巻様は、


「少々、酸味もあり、青臭(あおくさ)くもあるのだが、食用でもある。」


と半分だけ否定。佳央様が、


山査子(さんざし)の実みたいな感じ?」


と確認すると、花巻様は、


「いや、全く別物だな。」


とこちらは完全に否定した。私は、


「どのくらい、青臭いのですか?」


と聞くと、花巻様は、


「どうと言われても独特であるゆえ、伝えようもない。」


と苦笑いした。そのように言われても、私も困る。

 が、ふと、(しょくぶつ)魔法で育てれば良い事を思いついた。

 私は、


「すみません。

 (たね)はありますか?」


と早速(たず)ねると、花巻様も(さっ)してか、


「植えてみるのか?」


と確認してきた。私は話が早いと思いながら、


「はい。

 あと、適当な土もあると良いのですが・・・。」


とお願いすると、花巻様は、


(はち)に植えて、持ち帰るのだな。」


早合点(はやがてん)している事が判明。だが、ここで説明しても(らち)が明かない気がしたので、


「そのようなものです。」


と半分だけ肯定した。花巻様は少し考え、


「高梨。

 少し、種を。

 後、大柴。

 鉢をな。」


と指示を出す。二人揃って、


「「はい。」」


と返事をすると、それぞれ頼まれた物を取りに行った。

 私は、


「ありがとうございます。」


と早速お礼を言った。



 四半刻(30分)程で、鉢の準備が整う。

 私はお礼を言いながら、大柴様からは土の入った鉢を、高梨様からは赤茄子の種を受け取った。

 その鉢に、早速、赤茄子の種を植え、(植物)魔法を集めて育てて見る。


 芽が出て、にょきにょきと育つ。

 花巻様が、


「うぉ?」


と驚きの声を上げる。蒼竜様が、


(植物)魔法だ。」


と説明すると、花巻様は、


「そうなのだが、凄いな。」


と感心し、


「レベルはどのくらいなのだ?」


と質問する。蒼竜様は、


「本人を見る限りでは、3か4かなのだがな。」


と答えると、花巻様が、


「いやいや。

 それにしては育ちが早すぎではないか。」


と言った。蒼竜様は、


「しかし、確かにその程度なのだ。」


と説明した。私が、


「重さ魔法で、なんとなく集めていますから。」


と補足すると、花巻様は、


「集める?」


と目の前でやっているにも(かかわ)らず、半信半疑の様子。

 あっという間に黄色の花が咲き、青く丸い実が膨らみ始めた。

 私は、


「そろそろでしょうかね。」


と言うと、花巻様も、


「うむ。」


と肯定する。

 その実が赤くなった所で(植物)魔法を()めた。

 佳央様が、


「なるほど、赤い実ね。」


と感想を言う。高梨様は、


「そうだろ?

 だけど、これが不味(まず)くてね。」


と育てたくなくなるような発言。私は、


「そうなので?」


と言うと、高梨様が、


「まぁ、食べてみな。」


と勧めてきた。私は、美味しくないものを勧めるのもどうかと思ったが、味については興味があったので、


「分かりました。」


と苦笑いしながら1つもいで食べてみた。

 なるほど、これは青臭い。

 私は、


「これは、灰汁(あく)()きが必要ですね。」


と言うと、高梨様は、


「そうだろ?

 これは、漬物(つけもの)にするくらいだからね。

 それと漬けるなら、もう少し早めに採っても大丈夫だよ。」


と食べ方を説明した。私は、


「漬物ですか。」


と反復した。きゅうりもそうだが、生で食べるよりも漬物にしたほうが美味しくなる事はよくある話だ。

 そんな事を考えていると、花巻様から、


「うむ。

 人間には、青い赤茄子は毒なのだがな。

 漬物にすれば、大丈夫となるのだ。」


と説明が入る。私は、勢い良く


「毒なので?」


と確認すると、高梨様が、


「人間は、確か、生の(きのこ)も毒だったね?」


と聞いてきた。私が、


「はい。

 お腹を壊します。」


と返事をすると、高梨様は、


「だろ?

 だけど、火を通せば問題ないね?」


ともう一度聞いてきた。なるほど、生では毒でも、手を加えれば食べられるものはいくらでもある。

 私は、


「はい。」


と納得すると、高梨様は、


「『焼く』と『漬ける』で、方法は違うから、例は悪かったけどね。

 こうやって、毒も食べられるようにしてきたのが、先人の知恵(ちえ)ってもんだ。

 解るかい?」


と笑いながら聞いてきた。私は、


「はい。

 なんとなく、言いたい事は。」


と返すと、高梨様は、


「なら、良かった。」


と満足そうに言った。


 蒼竜様が、


「それにしても、山上の(植物)魔法。

 河原(かわら)でもそうだったが、やはり便利だな。」


と言った。すると、花巻様が、


「それどころではないわ。」


(あき)れた様子。私は、


「言う程なので?」


と確認すると、花巻様は、


「当たり前であろうが。

 (植物)魔法は珍しいと言うに、10や20はあるように見えるぞ。」


と説明する。数字は、レベルの事だろうか?

 私はあまり実感はなかったが、


「そうなのですか?」


と首を傾げると、花巻様は、


「うむ。

 見た事もない速さで育ったからな。」


と少し怒り気味だ。そして、真剣な表情になり、


「踊りの。

 少々、研究を手伝う気はないか?」


(さそ)ってくれた。私も(やぶさ)かではなかったのだが、


「申し訳ありません。

 作法の勉強に神社の用事にと、あまり時間がとれませんでして・・・。」


とやんわりと断ると、花巻様は蒼竜様の顔を見た後、


「そうか。

 まぁ、時間ができれば、遊びに来るが良いだろう。」


と諦めたようだ。私は、手元(てもと)不如意(ふにょい)なのを思い出し、


「それなりの給金が出るのでしたら、たまにでしたら・・・。」


と言うと、花巻様は、


「たまにでも十分だ。

 給金は・・・、まぁ、応相談なのだがな。」


と苦笑い。蒼竜様は、


「そろそろ年末だからな。」


金子(きんす)が欲しい理由を察した模様。私は、


「はい。」


と肯定し、


「ですが、古川様や大月様とも調整が必要ですので、なかなか・・・。

 以前から大月様には、週に一度休みの日を作っていただいておりました。

 もし、決まった休みが出来るのでしたら、こちらにも来易いのですが・・・。」


と説明すると、蒼竜様は、


「なるほど。

 であれば、その旨は大月に伝えておくとするか。」


と言ってくれた。花巻様が、


「週に一度休めるのであれば、こちらにも来られるな。」


と喜んだのだが、私は、


「ですが、神社の用事がどの程度あるかは、今の私には判らないのですよ。

 ですので、約束するのが難しくてですね・・・。」


と否定した。蒼竜様が、


「大月も、日程調整で苦労しているようであるしな。」


と付け加える。私が、


「狐講の件までありますしね。」


と言うと、蒼竜様は、


「このような場で、言うものではない。」


と怒られてしまった。私は、


「失言でした。

 申し訳ありません。」


と謝ったのだが、蒼竜様から、


「あまり迂闊(うかつ)な事は、言うでないぞ。」


と注意を受けた。私は、解っていても話してしまう自分にがっかりしながら、


「分かりました。

 注意いたします。」


と素直に謝った。

 蒼竜様が周りの人に、


「そういう事だ。

 (みな)も、聞かなかった事にな。」


と依頼する。花巻様は、


「うむ。

 何の件かは解らぬが、まぁ、分った。」


と了承し、


「他も良いな?」


と確認すると、高梨様や大柴様も、


「分ったよ。」「おう。」


と返事をした。


 ふと、狐講が今夜動くという件を、誰にも話していない事に気がつく。

 私は先程釘を刺されたばかりだったので、どうやって話せばよいか、悶々(もんもん)とし始めたのだった。


 作中、赤茄子(あかなすび)なる野菜が登場しますが、こちらはトマトの事です。

 一応、江戸時代から入ってきたのだそうですが、当時は唐柿(とうがき)とか唐茄子(とうなすび)とよばれており、赤茄子と呼ばれるようになったのは明治になってから。よって、江戸時代風と銘打っている本作では、NGだったりします。(^^;)

 ちなみに、江戸時代の頃に入ってきたトマトは、日本人の味覚と合わなかったのか食用としては普及せず、(もっぱ)ら観賞用となったのだとか。



 また、作中、植木鉢(うえきばち)も出てきます。

 作中では植木鉢で野菜を育てていましたが、江戸時代の頃は盆栽(ぼんさい)や花(朝顔(あさがお)(きく)等)といった趣味目的が中心だったようです。

 育てた菊を持ち寄って評価してもらう品評会(「花合(はなあわ)せ」とか「菊合せ」と呼んだ)が盛んだったようですが、鉢植えで育てて持ち寄りました。

 中には、出品のために大阪から江戸まで、船便で朝顔を送るツワモノもいたのだとか。


・トマト

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%88&oldid=94500779

・植木鉢

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%A4%8D%E6%9C%A8%E9%89%A2&oldid=93991975

・古典園芸植物

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%8F%A4%E5%85%B8%E5%9C%92%E8%8A%B8%E6%A4%8D%E7%89%A9&oldid=86824407

・四季花くらべの内

 https://dl.ndl.go.jp/pid/1301818/1/1

 こちらの絵の背景に鉢植えが描かれていますが、カラフルな植木鉢を使っていたようです。


〜〜〜

 最後、今年は数年ぶりに実家に帰省する予定になりました。

 このため、GWの更新は行わないか、行っても超短文となる予定です。

 悪しからず。。。(^^;)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ