2人の船頭の話
お店の大将が奥に下がった後、赤竜帝が、
「ところで、山上。
お前は、踊らないのか?」
と確認してきた。恐らく、私の通り名の一つが『踊りの山上』なので言っているのだろう。
だが、私に踊れるのは、平村のお寺の祭りのお囃子くらいだ。
私は、
「いえ、人に見せられるような踊りはありませんので・・・。」
と苦笑いした。だが、隣の客が衝立からひょっこり頭を出し、
「そっちも、踊るのか?
ならば、この衝立はいらぬな。」
と言い始めた。私は、
「いえ、踊りませんから。
衝立もそのままで。」
と言った所、大月様も、
「そうだぞ。
少しは、自重せぬか。」
と頷いた。赤竜帝が、
「なんだ。
つまらんな。」
と笑った。正気に戻った竜人だろうか、
「本当に、面目ない。」
と苦笑いしながら謝った。
暫く雑談しながら飲んでいると、お店の大将が鳥肉を焼いた物を持ってきた。
そして、膳の上に置きながら、
「雉だ。」
と簡単に説明する。赤竜帝が、
「旨そうだ。」
と誉めて箸を付けようとすると、お店の大将は、
「ちょっと待ってろ。」
と静止し、この場を離れた。
そして、すぐに戻ってきた後、小皿を持ってきて、
「山椒だ。
好みでつけて食ってくれ。」
と言った。赤竜帝が、
「うむ。」
と承知し、箸を付ける。そして、
「良いな。」
と感想を聞くと、店の大将は満面の笑みで、
「そうだろう、そうだろう。」
と言いながら奥に下がって行った。
衝立の向こうで、自慢話が始まる。
蒼竜様が、
「酔っ払いの自慢話と言えば、昔、王都の東にある川辺という町まで、何かの査察に行った時にな。」
と、唐突に話を始めた。私は初めて聞く地名だったので、
「川辺ですか?」
と尋ねると、蒼竜様は、
「うむ。」
と頷いた。そして、
「その町で、屋台に縁台を並べただけの酒を出す店に寄ったのだ。
そこには、2人の船頭が飲んでいてな。」
と話を続けた。どうやら、私の質問は、ただの相槌だと思ったようだ。
私はモヤとしたが、確認するよりも先に佳央様が、
「どうして、船頭と判ったの?」
と質問をした。
蒼竜様が、
「それは、この2人がな。
どちらの方が偉い人を乗せた事があるかで、競っていたからだ。」
と答える。すると、赤竜帝が、
「それで?」
と話を続けるように合の手を入れてしまった。
仕方がないので、川辺がどんなところかは、別の機会に聞く事にする。
蒼竜様は、
「最初は、どこそこの庄屋を乗せただの、それらしい事を言っておったりました。
ですが、途中から、毛色が変わり始めます。
河童を乗せた事があると言い出しまして。
ですが、もう一人の船頭は、
『河童なら、自分で泳ぐだろう』
と笑い始めました。」
と話し始めた。一同が、それはそうだと頷く。
すると、その様子を見た蒼竜様は満足そうに、
「うむ。」
と頷き、
「だが、その船頭、
『いやいや。
それがその河童、川向うで相撲をしていたら足を折ったらしくてな。
だが、その後で親が倒れたと聞いたのだそうだ。
それで、涙ながらに舟に乗せてくれと頼まれてな。
後日になるが、相応の礼もすると言うのだ』
と説明したのだ。」
と一同を見回しながら話した。
赤竜帝が、
「それでどうした?」
と興味を示す。
すると、蒼竜様は、
「はい。
その船頭は、その河童を向こう岸まで運んだのだそうです。
話を聞いていた船頭は、
『そりゃ、狐か狸に化かされたんじゃないのか?』
と笑ったのですが、話をした船頭は真剣な表情で、
『その後、俺もそう考えたんだがな。
1週間程後に、舟に沢山、魚が入っていたのよ。
つまり、相応の礼ってのをしてきたわけだ』
と話しました。
当然、もう一人の船頭は、
『本当か?』
と疑ったのですが、話をした船頭は、
『お前も、信じないか』
と悲しそうな表情になりまして。」
と少し笑いながら話す。私は、
「笑いながら話すのは、少し不謹慎な内容ではありませんか?」
と不機嫌に言うと、蒼竜様は、
「いや、まぁ、事実ならばそうなのだがな。」
と苦笑い。そして、
「この話の続きなのだがな。」
と間を取った。私が、
「どのような話ですか?」
と質問すると、蒼竜様は、
「うむ。
もう一人の船頭は、
『俺は信じるぞ。
似たような経験をしたことがあるからな』
と言いだしてな。
話をした船頭が、
『どういった経験だ?』
と聞くと、その船頭、
『あれは、去年の春頃だったか。
俺は、赤鬼を乗せたのだ』
と話し出したのだ。
もう一方は、
『よく、食われなかったな』
と心配したそうだ。」
と苦笑い。大月様が、
「どっちもどっちという事か。」
と纏めると、蒼竜様は、
「まぁ、酔っぱらいだからな。」
と苦笑いした。そして、
「それで、その赤鬼を乗せた船頭がどうして無事だったかの話をつづけるぞ。」
と前置きをした。一同、頷く。
蒼竜様は、
「その船頭が言うには、
『それは、俺だって食われると覚悟したさ。
だがな。
渡してくれと頼むくらいなのだ。
向こうにも、それ相応の事情という物があったのだろう。
それに、渡さぬと断れば、その場で食われたに違いないからな。
俺は、恐る恐る、了承したわけだ』
との事。
もう一人の船頭が、
『渡した後は、どうなった?』
と聞くとな。
鬼を渡したという船頭は、
『今ここにいるんだから、解るだろう。
しかも、普通に渡し賃を貰ったぞ』
と少し笑ってな。
だが、どうしても気になったとかで、鬼に、
『この後、食われると覚悟していたのですが、見逃して下さるのか?』
とわざわざ聞いたそうだ。
すると、その鬼は、
『仕事をして貰ったのだ。
そのような不義理を働くは、怒りに狂って鬼となった者か、欲に目が眩んだ人間だけだ』
と言って笑いながら去っていったのだとか。」
と続きを話した。赤竜帝が、
「他にも、いそうだがな。」
と苦笑いすると、蒼竜様が、
「義理で雁字搦めになった者とかですか?」
と聞くと、赤竜帝は、
「そういう者もいるな。」
と答えた。他にも、心当たりがあるようだ。
大月様が、
「それで、この話を聞いた船頭は何と言ったのだ?」
と聞くと、蒼竜様は、
「うむ。
もう一人は、
『鬼か。
やるな。
だが、俺は竜人も乗せたことがあるぞ?』
と、また、張り合い初めてな。
まぁ、酔っぱらいだから、そんなものだ。」
と答えた。私は、
「それで、乗せた竜人というのは、どなただったのですか?」
と聞いたのだが、蒼竜様は、
「すまぬが、ここから先は記憶が曖昧でな。
今話した部分だけ、妙に印象に残っていただけなのだ。」
と忘れたようだった。
私は、
「そうでしたか。
でしたら、また思い出しましたら、宜しくお願いします。」
と言うと、蒼竜様も、
「うむ。」
と言って、この話が終わったのだった。
今回は河童や鬼をネタにしようと思っていたのですが、一般的な話ばかりになるので、しょうもないネタを一つづつだけ。。。(--;)
河童は、元は猿とかわうそのような毛の生えた見た目で描かれていたそうですが、江戸時代に入ってから今の蛙のようなつるつるの体で書かれるようになったそうです。
後、鬼の肌の色は、赤、青、黄・緑・黒の5色と言われていますが、こちらは五行と五蓋から決まったという説があるのだそうです。
仮に鬼をモチーフにした戦隊物を書くとしたら、こちらの5色を参考に使うのが良いのかもしれませんね。(^^;)
(ピンクではなくブラックが初っ端から登場する事になる)
・河童
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B2%B3%E7%AB%A5&oldid=93726618
・鬼
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%AC%BC&oldid=93928226
・五行思想
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%BA%94%E8%A1%8C%E6%80%9D%E6%83%B3&oldid=92374277
・五蓋
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%BA%94%E8%93%8B&oldid=93285329




