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大杉の冒険者組合に呼ばれて

 翌朝、私は更科さんの部屋で目が覚めた。

 昨晩のことを思い出そうとするのだが、更科屋の座敷で赤竜帝を筆頭に蒼竜様や田中先輩たちと飲んでいた筈なのだが、途中から記憶がない。自分でここまで歩いたのか、それとも誰かがここまで運んでくれたのか、さっぱりである。


 ひとまず起きうようと思ったのだが、右腕に力を込めても感覚がない。というか、動かそうと思っても、自分の腕ではないように全く動かなかった。

 私は頭を右に傾けると、私の腕に更科さんの頭が乗っていた。幸せそうな寝顔だ。


 普段の私ならもう少し見ていたかったのだと思うが、腕が動かないなんて経験は今まで一度もない。一生腕が動かなかったらどうしようという恐怖から、とにかく更科さんを抱きしめられる方向に体を捻って、左手で更科さんの頭をそっと持ち上げ、だけども移動させる先も思いつかなかったので、私の胸に抱き寄せた。すると、腕が妙にすっとして、血の暖かさが巡っていくのを感じた。

 暫くすると、少しだけだが手を握ったり開いたりすることが出来るようになってきた。


 これで一安心だ。


 私は更科さんの頭をずっと持ち上げている訳にもいかないので、腕を移動させながら更科さんの頭を布団にそっと起いた。

 上半身を起こし、右肩を回して感覚を確かめてみる。

 ちゃんと動く。


 私は早速、行水(ぎょうずい)をしに井戸の方に向かった。

 途中、土間で朝食を作っていた杉元さんが私に気づき、(おけ)と手ぬぐいを(もら)った。

 この辺りは、何度もここに泊まっているので、私がこれから行水に行こうとしていると察したのだろう。

 流石、出来る女中さんだ。


 外に出ると、既に日が昇り始めていた。空は昨日と違って雲は少ないが、地面は昨晩の雨でまだ湿っていた。

 私は井戸に着くと、釣瓶(つるべ)を引いて水を汲み上げ、桶に移した。

 先ずは、顔を洗う。

 次に、(ふんどし)を外して、しっかり水で洗い、近くにあった竿に適当に干した。

 もう一度桶に水を汲み直し、手ぬぐいを濡らして固く絞る。着物の上を(はだ)けさせて丁寧に拭いていった。秋に入ったこの時期になると、日中はまだ暑いか、早朝は湿った体に風が当たれば若干肌寒く感じる。

 一通りスッキリしたので、褌を締めようと思ったのだが、まだ乾いていなかった。

 流石に夏も終わったので、体を拭ったくらいの時間では乾かなかったようだ。


 仕方がないので、風魔法を集めて、褌に押し当ててみると、褌がたなびいた。

 私は、これはいけるのではないかと思ったので、集めた風魔法を褌にけ続けた。


 そこでやはり行水に来た蒼竜様が、


「山上、面白いことをやっているな。」


と声をかけてきた。なんだか酒臭い。

 私は、


「おはようございます。

 蒼竜様。

 今、風魔法で褌を乾かしているところですが、こんなの面白雲なんともありませんでしょう。」


と言ったのだが、蒼竜様は、


「まぁ、水が下に行くから速く乾きはするであろうが、風魔法ではないぞ?

 これは重さ魔法だ。」


と言いがかりをつけてきた。私は、


「でも、風魔法をかけていますよ?」


と反論したのだが、蒼竜様は、


「よく見てみよ。

 風魔法は集まっておるが、実際にたなびかせているのは重さ魔法ではないか。」


反駁(はんばく)した。

 私も魔法で見ると、確かに褌は重さ魔法で引っ張られて動いているだけだった。単にそう見えただけだったようだ。言いがかりだと思ったのは、反省だ。

 私は風魔法だと思いこんでいたことを残念に思いつつも、蒼竜様が持ってきた桶に水を汲むために釣瓶を引きながら、


「すみません、蒼竜様。

 お願いできますか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「う・・・うむ。」


と言って、本物の風魔法と若干の火魔法を加え、私の褌を乾かしてくれた。

 ちなみに、蒼竜様が酒臭かったのは、赤竜帝と二人でついさっきまで飲んでいたからだそうだ。

 田中先輩は、これから仕事があるからと言って帰ったらしい。



 朝食が終わり、更科屋の開店を見届け、佳央様と更科さんと私、後は久しぶりにムーちゃんも連れて実家に出発しようと準備をした。赤竜帝と蒼竜様、そして更科家ご一同が裏口で見送りのために来てくれていた。

 そしていざ出かけようとした裏口を出た所で、岡本様が来た。

 岡本様は、


「あっと!

 山上様。

 ・・・ところでその姿、これから、葛町に・・・戻る訳ではなさそうにござりますな。

 どちらに行かれるのでござるか?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 これから実家に戻るところです。」


と教えると、岡本様は、


「やはり、そうでござったか。

 でも、少々お待ち下さい。

 これから冒険者組合の例のあれが決定される会議がありますので、呼びに参りました。

 申し訳ないが、お越しいただいても宜しゅうござるか?」


と慌てて引き止めてきた。

 私は更科さんと顔を合わせると、更科さんが、


「急ぎみたいだから、先にそっちに行ってみる?」


と確認した。ここで赤竜帝と蒼竜様も、更科家の裏口から出てきた。

 岡本様が、


「これは蒼竜様。

 これから、奥方の件の会議を冒険者組合でやることになりまして。

 もしお時間があるようにござりましたら、蒼竜様も来てはいただけませんか?」


と一緒に来るようにお願いをした。

 なんとなく申し訳なく思ったので、私からも、


「佳織のことですので、出来ましたら・・・。」


とお願いすると、赤竜帝が興味を持ったらしく、


「面白そうだな。

 ちょっと行ってみぬか?」


と言った。蒼竜様は多少なりとも事情を知っているが、赤竜帝は知らないはずだ。

 私はなんとなく不安に思ったのだが、赤竜帝が行くというのなら止める理由もない。

 私は、


「岡本様は火盗改なのに、どうして冒険者組合の使いっ走りみたいなことをさせられているのですか?」


と聞くと、岡本様も、


「いや、なに。

 乗りかかった舟ゆえな。」


と苦笑いしていた。佳央様が、


<<ひょっとして、上から何か指示があった?>>


聞いたのだが、岡本様は、


「まぁ、察してもらえれば。

 いろいろとござってな。」


と、はっきりと肯定はしなかった。

 こうして、私達は岡本様に連れられ冒険者組合に行くことになった。

 赤竜帝も蒼竜様も特に荷物もないらしく、裏口まで戻って、


「これから山上に付き合ってくるゆえ、店を開けられよ。

 拙者共は、そのまま帰る。昼は不要であるからな。」


と告げて一緒に私達と大杉の冒険者組合に向かった。

 短い間ではあったが、岡本様は簡単にどういう経緯か赤竜帝に説明をしていた。



 冒険者組合に着くと、長谷川さんが、


「皆様、いらっしゃいましたか。

 ・・・すみません。

 こちらは、どなたでいらっしゃいますか?」


と言って、赤竜帝を見た。私が、昨日の田中先輩の説明を借りて、


「蒼竜様の上司です。」


と言うと、長谷川さんは難しい顔をして、赤竜帝に、


「このような場にいらっしゃいまして、大変有り難うございます。

 汚い所で申し訳ありませんが、暫く我慢をお願いいたします。」


と、丁寧な言葉で対応した。

 恐らく、蒼竜様の上司ということは、普通の人間ではなく、役ありの()()と察しが付くので、いつもと口調を変えて丁寧に話しているのだろう。

 私は、


「それで、これからどのようにすればよいのでしょうか?」


と確認すると、長谷川さんは、


「これから、裏の広場に案内します。

 そちらに、奥方様に悪さをした者を集めてありますので、これからその者に刑を言い渡します。

 皆様には、広場の左側の席を準備していますので、お立ち会いをお願いします。

 もちろん、どうしても気に食わないことがあれば言ってもらって構いません。」


と話した。私に対しても口調が丁寧なのは、蒼竜様の上司はどんな人か分からないので、身分の上下を(わきま)えろとかいった具合に怒られないように対策しているのではないかと思う。

 蒼竜様が、


「事前に、どういう刑を言い渡すのか説明してもらっても良いか?」


と確認した。長谷川さんは、


「確かに、事前に確認したほうが宜しいですね。

 会議室が本部の者の控室になっておりますが、そちらでお話いたしましょう。」


と少しニヤリと笑いながら話した。

 なんとなく、この笑いには少し引っかかりを感じる。恐らく、愛想笑いとは違う気がする。

 私は、何かあるのだろうかと思いながら、長谷川さんの案内で会議室に向かったのだった。


 久々に、山上くんの井戸での行水です。

 相変わらず、誰得シーンですみません。(^^;)


 あと、山上くんが親戚のおじさん感覚で、蒼竜様に褌を乾かすようにお願いしています。

 流石に失礼な態度に当たるわけですが、本人は自覚がありません。


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