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会社のおじさんに誤解された

 ちょっぴり下のネタなので、苦手な人はすみません。

 蒼竜様に杉並社長を呼んでくるように言われ、私はとりあえず大杉の集荷場に向かっていた。

 とりあえずと言うのは、普段、私は葛町の集荷場には行くか、大杉の集荷場には滅多(めった)に行かないので、ここに杉並社長がいるかどうかはわからないからだ。

 だが、もしいなかった場合でも、集荷場に一人くらいは人がいるだろうから、その人に社長の居場所を聞けるのではないかと考えていた。


 なんとなく、足取りが重い。


 昨日、迷惑をかけたと謝ったばかりなのに、今日、また修行で連れて行かれて仕事ができなくなる旨を伝えなければいけないからだ。きっと、杉並社長に呆れられることだろう。とは言え、蒼竜様の依頼なので、私は早足で歩いて杉並社長の家の裏にある山並運送の会社に向かっていた。


 会社に着くと、田中先輩と同じ40代くらいのごついおじさんと、20歳前後のお姉さんが仕事をしていた。お姉さんは、黄色地に赤の鮮やか線の入った着物を着ていて外に出る感じではないので、荷物を運ぶのではなく、書類を整理するのが主な役割なのだろう。


 私が、


「すみません。」


と声を掛けるとおじさんの方が、


「おや、あんたは確か・・・誰だっけ?

 たまに、田中さんと来るやつだよな。

 今日は田中さん、一緒じゃないのかい?」


と聞かれた。私は、


「いつもお世話になっています。

 葛村の集荷場の山上です。

 今日は、田中先輩は赤・・・、蒼竜様の相手をしているので、私だけです。」


と言った。もう少しで赤竜帝と言いそうになったが、名前を出すと不味いので先に気がついてよかった。

 が、そのおじさんは、


「蒼竜様?

 はて、誰だっけ?

 まぁ、いいか。

 で、社長に用事か?」


と聞いてきた。どうやらこのおじさんは、蒼竜様の事も知らないらしい。

 私は、『社長に用事か』と聞かれて話が早いと思いながら、


「はい。」


と答えると、おじさんは、


「やっぱりか。

 田中さんと来る時は、だいたい社長だもんな。」


とドヤ顔をしてから、


「今日、社長は会合だよ。」


と答えた。

 私は、やはり一発で杉並社長には会えなかったかと思ったが、おじさんが、


「でも、そろそろ帰ってくる頃合いだから、まぁ、そこに腰掛けて待ってろ。

 今、茶でも入れてやるからな。」


と言って、お茶の準備を始めた。

 これは大変ありがたい。

 私は、


「手伝いましょうか?」


と声を掛けるとそのおじさんは、


「いいよ。

 (わし)は、今日は後、机のを出して終わりだからな。」


と言って断られた。

 さっきまでおじさんが座っていた机を見ると、上に書類が置いてある。おそらく、あの書類を出したら今日は帰るのだろう。

 おじさんは時間があるのでやってくれるといっているが、どちらかと言うとお茶()みは下っ端の役割ではないかと思う。なのでもう一度手伝うか確認しようと思ったが、楽し気にお茶汲みを始めていたので、おじさんはお茶を入れるのが好きなのだろうと思い直し、


「では、お言葉に甘えさせていただきます。」


と言って、椅子に座った。

 暫くしておじさんが来て、さっき入れてくれたお茶を私の前に置きながら、


「茶菓子はないが、まぁ。」


と言ってお茶を勧めてきた。

 私は、


「では。

 いただきます。」


と言って飲んだ。

 至って普通の煎茶(せんちゃ)だ。

 私は、


「美味しいですね。」


と言うと、おじさんは、


「まぁ、世辞はな。」


と苦笑いされてしまった。おじさんは、


「それで今日は?」


と改めて用事を聞いてきたので、私は、


「はい。

 先程話した蒼竜様が、社長を呼んでいまして。」


と言うと、おじさんは、


「ん?

 取引先でも怒らせたか?」


と聞いてきた。私は、


「いえ、取引先というわけでもないのですが・・・。」


(にご)すと、おじさんが、


「何か、訳ありみたいだな。」


と眉間に眉を寄せた。

 私は話しやすかったのもあって、出来るだけぼかしながら、


「実は無自覚に不用意なことを言ってしまったせいで、暫く会社を休むことになりそうでして。

 その、相談で連れてくるように言われたのですよ。」


と話した。

 話した後で、少し意味不明な文脈になったなと後悔したので、もうちょっと説明を付け加えようと思ったのだが、先におじさんが、


「先方に連れて行かれるのか?

 いや、普通、いくら怒っていても連れて行こうとするのは良くないな。」


と少し怒り出した。私はおじさんが心配してくれているのは分かったが、誤解なので


「いえ、その怒っているから連れて行くと言うよりも、今後、私が粗相しないように作法とかを教えてくれるそうでして。」


(なだ)めようとした。

 すると、おじさんは、


「普通、作法まで仕込もうとはしないだろ。

 ・・・あぁ、貴族絡みで何かやらかしでかしたのか。

 たまに難癖(なんくせ)をつけて、良からぬことをする奴がいるらしいからな。」


と眉を(ひそ)めて言った。私は、蒼竜様は『良からぬこと』をする人たちではないので、


「いえ、蒼竜様達は、いいことはするかも知れませんが、悪いことはしませんよ。」


と困って返すと、おじさんは、


「いいことって・・・、お前な。

 しかも『達』ってことは、複数でか。

 それはまた、業が深いな。」


と顎に手を当てて考えていた。

 ちらっと見えた奥の女性が赤面している。向こうでも怒ってくれているのだろうか。

 私は、


「いえ、ですから!

 というか、その『業が深い』というのは、どういう意味ですか?」


と聞いた所で、杉並社長が帰ってきた。

 杉並社長は、


「おや?

 山上か。

 今日はどうした?」


と聞いてきた。するとおじさんが、


「どうもこうも。

 どこかのお貴族様が怒っていて、粗相をしたから社長を連れてこいと言っているらしくてですね。

 どういう物好き、というか色好きか、大勢でこいつの(けつ)を狙っているらしんですよ。」


と困った顔をして説明した。

 私は『穴』という所に疑問を感じつつも、


「いえ、怒っているわけではありませんよ。

 そうじゃなくてですね。」


と言ってひと呼吸置いて仕切り直し、


「先程、蒼竜様に社長を連れてくるように仰せ遣りまして。

 私が何も考えずにした発言のせいで、ひと騒動ありまして。

 それで、作法を仕込むために暫くお休みさせたいと言っていました。」


と説明した。杉並社長は少し考えて、


「あぁ、なるほど。

 しかし山上も、田中先生が師匠だかというわけでもないだろうが、いろいろと話が飛んで分かりづらいな。

 だが、まぁ、そう(とら)えた吉田も吉田だ。

 『作法を仕込む』と言うのには、普通とは違う意味になる場合があるとは言え・・・。」


と最後の方はぶつぶつと独り言のように話した。さっきから私が話していたおじさんは、吉田さんと言うらしい。

 その吉田さんがどう意味を取り違えたのか、私にはよく分からなかったので、


「その、『違う意味』というのは?」


と確認すると杉並社長は、


「そういう話は聞いたことないか。」


と苦笑いしながら下を向き、何か少し考えてから、


「まぁ、ここで知ってもいいか。

 少しいいか?」


と言って私の耳元まで顔を近づけ、


「貴族が作法を仕込むと言ったら、男女のあれを無理やり教え込むということだ。」


と説明してくれた。ここまで言われれば、さすがの私でも何のことかは分かる。ただ、杉並社長は男女のと言っているが、蒼竜様は男性なので、吉田さんはそれを男同士でと勘違いしたということだろう。いや、双龍様だけではなく、他の男たちにもということか。

 私は、思わず赤面して黙ってしまった。

 社長が耳元で話したのは、この場に女性がいたからだろうが、その様子を見ていた女性の社員は、


「まだ純朴(じゅんぼく)そうなのに、変なことを教えないで下さい!」


と抗議していた。社長が、


「山上はもう結婚しているぞ?」


と言うと、女性の社員が驚いた顔をしながらぶつぶつと独り言を言いはじめていた。

 よく聞きとれなかったが、雰囲気にドス黒いものを感じた。杉並社長や吉田さんが、やや気まずそうな顔をしているので、『結婚』の二文字は禁句になっていたのかも知れない。


 杉並社長は咳払(せきばら)いをして、


「それはそうと、蒼竜様が呼んでいるということなら、これからすぐに出かけるとしよう。

 で、今はどこに?」


と聞いた。私は、


「今は、更科屋にいます。

 田中先輩も一緒です。」


と答えると、杉並社長は、


「更科屋・・・。

 ということは、無罪ということか?」


と確認してきた。私は思わず顔を(ほころ)ばせながら、


勿論(もちろん)です。」


と答えると、杉並社長は、


「それは良かったな、山上。

 まぁ、ひとつ急ぐとしよう。」


と言って、早速、出かけようとした。

 おじさんが、


「社長、その前に書類が出来ていますが!」


と引き留めようとした。すると社長は、


「何か、大きな事でもあったかい?」


と確認した。おじさんが、


「いいえ、特には。」


と答えると、社長は、


「じゃぁ、後から読むから、僕の机に上げておいてくれ。」


と指示をした。おじさんは、


「分かりました。

 では、後でお願いします。」


と言って書類を持って、おそらく社長の机に歩き始めた。それを見て、私もお父様から依頼状を持ってきたことを思い出し、


「社長、あともう一つ、更科屋から書状を預かっています。

 反物を運ぶ依頼状だそうですから、すみませんがこちらも宜しくお願いします。」


と言って社長に渡した。すると杉並社長は表の字を見て中を開けてさっと読み、


「吉田、済まないが、立ったついでだ。

 これも僕の机に置いておいてくれないか?」


と言っておじさんに依頼状を渡した。おじさんは、


「山上、どうせならもう少し早くな。

 二度手間だろ。」


と文句を言ってきたので、私は、


「すみません。」


と謝っておいた。

 杉並社長は一度頷くと、


「では、行くか。」


と言って外に出るため、戸に向かって歩き出した。

 私も、杉並社長の後に続いて歩き始めた。


 山上くんが「反物を運ぶ依頼状だそうです」と伝聞系で言っています。

 これは、山上くんはほとんど漢字が読めない設定だからとなります。

 ※本当は書状の表には「依頼状」と書いてあるのですが、『状』の漢字しか読めていません。

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