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狡(ずる)い手だと思いつつも

 今日の私は仕事が休みだったのだが、朝から特に何をするでもなくぼーっとしていた。


 更科屋が遠慮になって直ぐの頃は、休日になる度に何か情報がないかといろいろな人達に聞き込みをして回っていた。だが、本職でないせいもあって、一般の人は誰も相手にしてくれないし、それどころか、犯罪者の肩を持つのかと言って罵声を浴びせらる。私は、だんだんと悪い方に思考が行くようになっていた。

 そのせいで、頭ではなにかしないとと思っているのだが、実際に行動にするのが億劫(おっくう)になっていたのだ。だから、結果として特に何をするでもなくぼーっとするようになっていた。


 佳央様から、


<<御飯は?>>


と聞かれ、朝食を食べていないことに気がついた。私は面倒くさいと思いながらも、食べないわけにもいかないので、


「伐り株にでも行きますか?」


と定食屋の名を挙げると、佳央様は、


<<そうね。

  あと、食後は冒険者組合にでも行ってみない?>>


と誘われた。私は、


「行っても、夜になれば更科家に行くので、依頼は受けられませんよ?」


と返した。すると佳央様は、


<<まぁ、顔出しね。

  ひょっとしたら、何か進展があったかも知れないし。>>


と説明した。私は面倒くさくて、


「もう、一月以上経つのですよ?

 新しい情報なんて、そうそう出てきやしませんよ。」


と言って返すと、佳央様は、


<<じゃぁ、字でも教えてもらいに行くのは?>>


と方向転換してきた。私は、


「それどころではありませんよね?」


と少しいらっときながら指摘した。佳央様は、


<<今みたいに、ぼーっとしてるなら一緒よ。>>


と言い返してきた。ズキリと胸に来る。

 佳央様には見透かされていたようで、


<<気が紛れるかも知れないし。>>


と言われ、気分転換なら行くことにした。

 私は、


「では、御飯を食べた後に行きますか。

 里見さんが暇そうなら相手をしてもらいましょう。」


と言って、伐り株に御飯を食べに出かけた。



 切り株では、次兄と遭遇(そうぐう)した。

 一緒にいると文句を言われるのは目に見えているので、次兄とは今はあまり会いたくはなかったのだが、()ってしまったものは仕方がない。次兄は私を見るや、勢い良く席を立ち上がったが、また座って残っている御飯を食べ始めた。次兄もいろいろと言いたいことはあるのだろうが、やはり、次兄は私よりも大人ということなのだろう。


 私は次兄と同じ机は避けたのだが、空いている席がそこしか無かったので、斜め前の机に座った。

 佳央様が、


<<声、掛けないの?>>


と聞いてきた。私は、


「掛けようにも、今は言葉が見つかりません。

 その、かなり迷惑を掛けていますし。」


と言った。恐らく、次兄は聞こえているはずである。

 私は、(ずる)い手だと思いつつも、佳央様に、


「最初、お祖母様から半年か一年かかるかもしれないと聞いた時、私はその意味を解っていませんでした。

 その・・・、長くかかるということは、それだけ責められる期間が長くなるということなのですね。

 徐々に、心が疲弊していくと言いますか・・・。」


と次兄に聞いてもらうために話した。佳央様は、


<<まぁ、そうね。

  夜行っても、最近はすっかりお通夜だし。>>


と同意した。私は、


「お祖母様は、本当に凄いですよね。

 あの状況でも、聞くべきことはちゃんと聞いていますし。

 情報を持ってこない私にも、文句の一つも言いません。

 自分たちは大変なのに。」


と更科家の様子を話した。

 次兄が立ち上がり、勘定をして店を出ていく。

 佳央様は、


<<わざと、聞かせたんでしょ?

  性格、悪くなってきたわよ?>>


と言われてしまった。私も自分で分かっているので、


「はい。

 この件が終わったら、ちゃんと謝ろうと思います。」


と返した。佳央様はちゃんと全部食べたが、私は半分くらい残してしまった。

 最近、食が細くなったような気がする。


 気が晴れないまま冒険者組合に入ると、里見さんから、


「おや、山上さん。

 お久しぶりです。」


と声をかけてきた。里見さんの、はっきりとした元気な声が忌々(いまいま)しい。

 私は、


「お久しぶりです。

 里見さん。」


と挨拶を返すと、早速、


「何か変わったことがないか聞きたいのですが、野辺山さんはいますか?」


と質問した。里見さんは、


「随分、声が沈んでいますね。

 山上さんに限って滅多なことは無いと思いますが、考えすぎるのも体に毒ですよ。」


と心配そうに言ってきた。私は文句を言おうと思ったが、


「心配してくれてありがとうございます。

 私が何かやっても解決はしませんし、なかなか。」


と相手に合わせて返事を返した。佳央様が、


<<和人、外面は健在ね。>>


と苦笑いをした。これを聞いてか里見さんも、


「なるほど、そういう事でしたか。

 少し考えが浅かったようです。

 野辺山さんは今は部屋にいるはずですから、ちょっと聞いてきますね。」


と言って、野辺山さんのところに行った。


 暫くして里見さんが戻ってくると、


「お会いになるそうです。

 案内しますね。」


と言った。私は、


「もう部屋も分かりますから。」


と断ると里見さんは、


「気を遣ってくれるのは分かるのですが、一応、ついていくのが規則になっていまして。」


と申し訳なさそうに謝った。私も、


「いえ、そちらの事情も考えず済みません。」


と謝った。

 野辺山さんの部屋に入ると、沼田さんがお茶を持ってきてくれた。

 沼田さんが、


「山上さん、お久しぶりです。

 最近は、反物を運ぶ仕事しかしていないそうですね。」


と話しかけてきた。私は、


「はい。

 週に二回、湖月村を往復しています。」


と返した。すると里見さんが、


「なるほど、だから最近はこちらで依頼を受けていないのですね。

 冒険者の何人かに、『最近は拳骨を見ないが、どうしたんだ』と聞かれまして。

 一応、『本職は歩荷だからそっちのご仕事をしているんじゃないか?』と返してはおきましたが。」


と話した。私は、


「一応じゃなくて、こっちが本職です。」


と苦笑いしながら返すと、佳央様が、


<<山上のそういう顔、久しぶり。>>


と指摘した。野辺山さんが、


「まぁ、こんな状況でどうにかなりそうになるのは仕方ないんじゃないか?」


と他人事だ。いや、実際に野辺山さんから見て他人事なのだが、もう少し親身になって欲しい。

 私は、


「すみません、突然に押しかけてしまって。

 最近、全く進展がありませんので、何か無いかと思いまして。」


と聞いてみた。すると野辺山さんは、


「先日、長谷川さんのところで話を聞いたそうじゃないか。

 おそらく、そこで聞いた話からは新しい話はない。

 俺が知っている中で一番新しい話でもするが、既に聞いているとは思うぞ?

 まぁ、世間話程度だ。」


とあっさりと返してきた。私は、新情報はほとんど出てこなさそうで残念に思った。

 佳央様が、


<<世間話ね。>>


と少し含み笑いをした。

 野辺山さんは、


「まず、最近の出来事として、少し前から火盗改が捜査に参加してくれている。

 流石(さすが)は本職で、事件を(まと)めるのが上手い。

 いろいろと整理していった結果、更科の件と更科屋の件の類似点がいくつか出てきた。

 そこで、搦手(からめて)を使って刑を軽くしようとしているのではないかという話も出ているが、真偽は不明だ。

 ただ、後は地道に証拠集めをして、どの説が正しいか特定していく作業だと言っていたから、終わりは見えているのかもしれん。」


と言った。私は、


「地道なということは、はやり野辺山さんもまだ時間がかかると考えているということですか?」


と聞くと、野辺山さんは、


「そう言うことだ。」


と肯定した。

 もう一つ、野辺山さんは、


「それで、更科の件だがな。

 本来は夏中には処分が出来る予定だったんだが、この件が終わるまで下手に動けなくなってな。

 ただ、諦めたわけではないから、そこは勘違いするなよ?」


と言った。私は、


「分かりました。

 あの一軒も胸糞悪いので、早めに決着して欲しいものです。」


と話した。すると野辺山さんも、


「まさに。

 ただ、現役の冒険者を始め、それなりの人数が関係していてな。

 社会的に影響が大きいということで、刑が軽くなっていてな。

 がっかりするとは思うが、そこは先に謝らせてくれ。」


と言われた。

 私は、


「それを決めるのは、私ではなくて佳織ですから。」


と言うと、野辺山さんは、


「そうだったな。

 すまんが、伝えておいてくれ。」


と申し訳なさそうに言った。

 こうして、野辺山さんとの世間話は終わったのだった。

 おっさんの夏休みも今日で終わります。

 次回からは、また土日更新に戻りますが、例によって明日もリモートワークで家にいます。(--;)

 今年は、GWの時もそうでしたが、ずっと家にいるので夏休みを取っているという気分ではありあせんでした。

 この無駄な夏休み、来年(?)になって新型コロナ騒動が落ち着いたら、利子を付けて返してほしいものです。(^^;)


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