仲良くやっているか?
田中先輩は、自分の手柄であっても自慢したりしない。
だが、私としては、今回のように大きな出来事は、もう少し率先して話してくれても良いんじゃないかと思うことがある。
不知火様が、
「しかし、よく2発で空鯨3匹を落としたな。
俺も単騎で1匹づつ落とす自信はあるが、てこずるのは間違いない。
こうもあっさりやられては、流石は尻尾切りと言うしかないぞ。」
と褒めた。赤竜帝も、
「うむ。
見事であった。」
と同意した。私は思わず、
「2発ですか?」
と聞くと、隣のニコラ様が、
「射線上に2匹いたのだろ?
大物なら、的も大きいんだ。
驚くことでも何でも無いと思うが。」
と言った。しかし、久堅さんは、
「いやいや。
ニコラ様は、空間認識が常人のそれじゃないからな?
普通は至難の業なんだぞ?」
と言った。レモンさんが、
「そう言いながら、久堅もよく一太刀で二匹を倒したりしているだろ。
A級でも、これが出来るのはあまりいないぞ?」
と苦笑いだ。久堅さんは、
「ニコラ様は、わざと小さいのを外して一直線に並ぶように誘導するだろ?
俺は、そういうのは仲間に任せっきりだからな。」
と言った。野辺山さんが、
「連携か。
組を作る時、誘導するのが上手いやつが一人いるのといないのとでは大違いだからな。」
と楽しそうに話した。レモンさんが、
「ゴーチェもニコラ様と同じで、前線に出て戦うstyleか?」
と聞くと、田中先輩は、
「俺か?
俺は、ポーターだぞ?
戦闘で連携もないだろ。」
と返した。蒼竜様が、
「俺と一緒に旅していた時も、危なげなかったしな。」
と言うと、不知火様が、
「確かに、作戦会議には参加していたが、
『俺は、普段のお前たちの動きを知らないからな。
最初に俺が出鼻をくじくから、そこから崩れるのを前提にした作戦も考えておいてくれ。
後は、適当に手薄な所を潰してまわるからな。』
とだけ言って、後はほとんど何も喋らなかったな。」
と、本陣での田中先輩の話しをした。私は、
「これは連携ではないのですか?」
と聞くと、ニコラ様が、
「作戦ではあるが、連携とは言い難いだろう。
軍というのは、いくつものpatternを想定して訓練している。
なのに、普段一緒に訓練していないゴーチェ・・・田中が入れば、連携も乱れるというものだ。
それならいっそ、田中だけ一人遊撃隊として戦うというのも一案ではある。」
と返した。私は、
「ぱたーんと言うのは?」
と聞くと、久堅さんが、
「patternというのは、そうだな。
右から来たらこうする、左から来たらこうするといった感じで、いくつもの状況を先に想定して練習をするんだが、その一つの状況の事を言っている。
解るか?」
と言った。私は、
「いえ。
すみません。」
と言うと、横(というか正面)から更科さんが、
「大根があったとして、お客さんが焼き魚と言えば大根卸しにするし、味噌汁にするなら、千六本にしたり短冊に切ったりするようなものよ。
まぁ、大根おろしを練習する人はあまり見たことはないけど。
・・・あと、息を合わせるのが必要だから、お餅つきで説明したほうが良かったかなぁ。」
と言った。お餅つきは、最初はゆっくり突いて練習し息を合わせておかないと、指が大変なことになる場合がある。
私は更科さんに、
「そういうことですか。
佳織、ありがとう。」
とお礼を言った。この説明でニコラ様が言いたかった事も分かったので、ニコラ様に、
「どういう事か、分かりました。
前もっての練習が大切なのに、いきなり息を合わせようとしても上手く行きませんよね。」
と言った。ニコラ様が、
「まぁ、そういうことだ。
連携できない軍は、軍として運用する利点の半分が消えたようなものだからな。」
と言った。私は、今日の赤井様達の戦いぶりを思い出したのだが、バラバラに別れて戦っていて、連携がとれている感じではなかった。私は、
「ニコラ様からすれば、今日の赤井様達は軍としては運用がなっていなかったということでしょうか?」
と聞いた。蒼竜様が、
「ニコラ、そういうことなのか?」
と聞いた。赤竜帝や不知火様も、こっちを注視している。
ニコラ様は、
「まぁ、三流だな。
蒼目猿の方がまだ、連携が出来ていた。」
と言うと、雫様は、
「確かに、三竜隊とは呼んでるけどな。」
と複雑そうな顔をしていた。赤竜帝が、
「そう言えば、そちらの戦いはどうだったのだ?」
と確認した。蒼竜様は、
「はい。
赤井、赤光、戸赤の三名が攻めてきましたが、赤井は私と、赤光は雫と、戸赤は佳央と山上が対応しました。
ニコラの言うとおり、3対4と言うよりも、ほぼ1対1で戦ったということで間違いありません。」
と言った。赤竜帝が、
「佳央と山上か。
仲良くやっているか?」
と確認すると、更科さんが、
「恐れながら、仲が良すぎて困っております。
せめて、寝所は分けるように言っては貰えませんか?」
と恐れ多くも進言した。不知火様が何か言おうとしたが、先に雫様が、
「無礼講に同意してたやろ?」
と牽制したが、不知火様は、
「そのような事ではない。」
と否定した後、
「あれは、同衾を許可するものでは無かったはずだ。
山上はどのような了見で、寝所を共にして織るのだ?」
と言って、私を睨みつけた。しかし佳央様は、
「別にいいじゃない。
その方が、親密になれるでしょ?
それに、竜人の姿は疲れるから、解いて寝てるし。」
と説明した。が、同衾については否定はしなかった。
更科さんが、
「良くないわよ。
佳央様、和人は私のなの。
布団に潜り込んでこられても困る事もあります。」
と言った。雫様が、
「まぁ、佳織ちゃんの気持ちは解るけどな、」
と話し始めたのだが、更科さんは声をかぶせて、
「いえ、蒼竜様は真面目なので、間違いはないと思いますが、和人はあると思っていますから。」
とはっきりと言われてしまった。赤竜帝から興味深そうに、
「そうなのか?」
と聞かれたが、私は、
「そんな事はありません。
佳織だけです。」
と答えた。赤竜帝から、
「人間は、二人目、三人目と普通にもらうのであろう?
なら、良いのではないか?」
と言ってきた。そう言えば蒼竜様も、人間は一夫多妻制だと勘違いしていたような気がする。
私は、複数もらってもいいというお許しをもらったという事だろうかと思ったが、田中先輩から、
「いや、それは一部の身分が高い連中だけだ。
普通は一人だぞ。」
と指摘した。赤竜帝は、
「そうであったか。
なら、複数もらっても問題ないということであるな。」
と楽しそうに言った。私は更科さんの手前、
「いえ、中には複数の女性と関係を持ちたい貴族なんかもいますが、それはそれです。」
と自分は違うのだと伝えた。更科さんが、満足そうな顔をしている。
赤竜帝は、
「そうか?
しかし、気が変わって複数の女と結婚したくなれば、いつでも声を掛けるが良いぞ?
適当に取り計らうとしよう。
なんなら、佳央でも良いぞ?」
と恐らく赤竜帝が冗談を言ってきた。が、私はうっかり竜人化したての佳央様を想像してしまった。これが顔に出ていたらしく、更科さんから、
「和人、後でお話しましょうか。」
と睨まれてしまったのだった。
不知火様が「てこずるのは間違いない」と言っていますが、この「てこずる」という言葉が使われるようになったのは、実は江戸後期からなのだそうです。
語源は諸説あるものの、『暮らしのことば 語源辞典』によると「重いものを動かすときに用いるテコ(梃子)が利かずにずれる意から」「手助けをするもののことをテコ(手子)と呼んだことから、手伝いの手をわずらわせるところから」など諸説あるそうです。
一方、謎掛けを始め、日本人は昔から言葉遊びが大好きです。
なので、実は「てこ」は「梃子」と「手子」の両方の意味が込められていて、どちらの説も正しいなんて落ちがあっても不思議じゃないのではなどと考えることがあります。
あくまで素人考えですが・・・。(^^;)
・てこずる
山口佳紀『暮らしのことば 語源辞典』講談社, 1998年, 455頁
・謎掛け
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