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本来、偉くなるには勉強は必須と言われた

 葛町に着いた時、既に日も沈んでどんどん暗くなっていた。

 私は、蒼竜様に庄屋様を紹介した後、お腹が空いていることに気がついた。

 平村では、飢饉(ききん)なんかの場合には庄屋様が蔵出しして施粥(せがゆ)の炊き出しをしてくれるという話を思い出し、


「蒼竜様、炊き出しなどはございますか?」


と聞いてみた。

 蒼竜様は、


「ふむ。

 町の広場で、野辺山が陣頭指揮(じんとうしき)()ってやっておるぞ。

 先に到着した連中も、広場にいるはずだから、これからそっちに移動するがよかろう。」


と答えた。私は、


「それは助かります。

 では、早速参りましょうか。」


と庄屋様にいうと、庄屋様は、


「そうしましょうか。」


と言って庄屋様は、最後に到着した村人を連れ、炊き出しのある広場に歩き出した。

 ニコラ様が、


「山上、俺達は大杉の宿に泊まるからここでな。」


と言った。私は、


「分かりました。」


と言った後、


「折角のご旅行がこんなことになってしまい、申し訳ありませんでした。」


と謝った。ニコラ様は、


「まぁ、そういう時もある。

 ひとまず、明日もここに来るからな。」


と言った。私は蒼竜様の顔を見ると、蒼竜様が、


「ふむ。

 それは助かる。」


と答えた。ニコラ様は、


「なに。

 いろいろ見せてくれた礼のようなものだ。

 気にするな。」


と杖を軽く上げながら言った。

 私は、


「佳織はどうしますか?」


と聞くと、更科さんは、


「そうね。」


と言って少し考えてから、


「緊急事態だし、ご家族の(みんな)実家(うち)に泊まったらどうかしら。」


と言った。私は、


「ご迷惑ではありませんか?」


と聞いたのだが、更科さんは、


「多分、大丈夫よ。」


と答えた。私は、更科さんは家長でもないのに、勝手に泊めることにしてもいいのかという意味で聞いたのだが、更科さんが、


「ほら、雫様達が来た時も問題なかったでしょ?」


と続けたので、私が考えるほど問題はないのかもしれないと思い直した。そういえば竜の里からの帰り、更科さんの実家に寄った時も特に問題なく宴会を開いていたし、はっきりとは聞いていないが、その後、雫様は更科さんの実家に泊まったはずだ。

 私は、


「そうですね。

 では、父さんに聞いてみますね。」


と言った。私は父に相談すると、父は、


「申し出はありがたいが、勝手に決めて大丈夫か?」


と質問した。父も私と同じ感覚なのだろう。私は、


「前に大勢で押しかけた時も大丈夫でしたし、問題ない(はず)ですよ。」


と返すと、父は少し考えて、


「なるほど。

 でも、避難が続くと何日も面倒を掛けることになるなら、やはり駄目だな。」


と言った。私は「やはり断ったか」と思いながら更科さんの所に戻ろうとしたのだが、父は私を呼び止め、


「だが、一度は挨拶(あいさつ)に行かないといけないとは思っていたんだ。

 今夜、一日だけ泊まることにするか。」


と言って一泊することになった。父は庄屋様に挨拶に行ったので、私は更科さんの所まで戻り、


「今晩、一泊だけするそうです。

 私は、庄屋様たちを広場まで届けますので、佳織達は私の父母たちを連れて、先に実家に帰っていてもらえますか?

 すぐに追いつきますので。」


とお願いした。しかし、蒼竜様が、


「拙者が、庄屋たちを広場まで案内しよう。

 山上は、もう奥方の実家に行ってもよいぞ。

 今晩、こっちに泊まって番をするゆえ、遠慮(えんりょ)せずとも良い。」


配慮(はいりょ)してくれた。私は、


「それはありがたいです。

 その旨、庄屋様にお話しに行ってきます。」


と断って庄屋様の所に行った。

 こうして私は、炊き出しをしている広場までの引率を蒼竜様に引き継いでから、ニコラ様達と一緒に大杉町に向かうことになった。


 葛町の門の所で、門番さんから、


「今日は戻ってくるのか?」

 

と声を掛けられた。私は、


「はい。

 いつもの時間に戻ろうと思います。」


と言うと、門番さんは、


「あぁ、やっぱり知らないか。

 今日は、もうすぐ門を閉めるから、戻ってきても開いてないぞ。

 たまには、そっちに泊まって嫁さんを堪能(たんのう)してこい。」


と返事が帰ってきた。私は、


「閉まるのですか!

 まぁ、こんな状況ですし仕方ありませんか。」


と言うと、門番さんは、


「そういう事だ。」


と返事をした。私は、


「門番さん、教えてくれてありがとうございました。」


とお礼を言うと、門番さんも、


「なに。」


と手を振りながら返事をした。


 葛町の門を出て、田んぼ道を歩いて行く。

 ニコラ様が、


「流石に、暗くなってきたな。」


と言って、鞄から何か取り出すと、それに明かりが灯った。

 佳央様が、


<<それは?>>


と聞くと、ニコラ様は、


「魔式lantern(ランタン)と言う魔道具だ。

 こっちで言う、魔提灯(ちょうちん)みたいなものだな。」


と言った。更科さんは、


「魔提灯と言えば、それだけで簡素な家が建つと聞いたことがあるのですが、それよりも明るくありませんか?」


と質問をした。すると久堅さんが、


「おっ!

 魔提灯を知っていたか。

 あれ、高級冒険者以上にしか売らないから、一般には出回っていない筈だぞ?。」


と意外そうに言った。更科さんは、


「実家が御用商人なもので。

 あと、冒険者学校でも実物を使った講習がありますよ。」


と言った。この口ぶりだと、御用商人も魔提灯を購入できるのだろう。

 久堅さんが、


「今は、学校で教わるのか。

 いや、俺が冒険者になった20年前は冒険者学校はほとんど無かったからな。

 独学で大変だったぞ。

 便利な道具も、たまたま使っているやつと仕事をしないと知る機会も無かったしな。」


と言った。ニコラ様が、


「ほう、冒険者学校か。

 ハプスニルでも冒険者学校が出来始めたところだが、こっちでは、もうこんな田舎まで出来ていたか。」


と言った。久堅さんが、


「そうみたいだな。」


と相打ちを打った。更科さんが、


「でも、(のぞ)んだ全員が入れるわけではありません。

 それに、和人は学校に通ったことがないそうですし。」


と言った。私は、


「平村には手習所(てならいどころ)もありましたが、授業料が払えないので(かよ)えませんでしたし。」


と言った。更科さんは、私が背負っている実家から持ち出した荷物をちらりと見てから、


「それでは仕方ないわね。」


と言った。レモンさんが、


「偉くなるには、本来、帳面の読み書きや計算が必須だからな。」


と言うと、久堅さんも、


「そうだな。

 俺も漢字には苦労させられたが、中級冒険者と高級冒険者では、受けられる単価も違うからな。

 勉強して正解だ。

 それに、金勘定(かねかんじょう)(ざる)だと足元を見られるしな。

 暗算は、三か四桁くらいは出来た方がいいぞ。」


と言った。私は、


「私も、文字の読み書きは出来るようになりたいと思っていますが、なかなか。」


と苦笑いした。レモンさんが、


「勉強は、若いうちにやるのがいいからな。

 やるなら、早いうちに取りかかれよ。」


と言った。私は、


「レモンさんはどうやって勉強したのですか?」


と聞くと、ニコラ様が、


「あぁ、こいつは俺が仕込んでやったのよ。

 こいつと会ったのは、退職して手持ち無沙汰(ぶさた)の時でな。

 暇つぶしに、魔法や勉強を教えておったのさ。

 まぁ、当時、どうやったらよく覚えるかとか、子供を比べながら考えていくのが楽しかったというのもあるがな。」


と言った。韮崎さんが、


「ニコラ様は、根っからの学者肌ですしね。」


と言うと、ニコラ様は、


「まぁな。」


と楽しそうに言った。


 そうこうしているうちに、大杉町に着いたので、そこでニコラ様達とは別れた。

 両親を連れて更科さんの家まで着くと、更科さんのお兄様が家の入り口でウロウロしていた。

 私が、


「遅くなり、申し訳ありません。」


と声を掛けると、お兄様は、


「おぉ、和人か。

 佳織もご苦労さま。

 で、そちらは?」


と言った。私は、


「私の家族です。

 実は、今朝、平村の上空を三匹の竜が飛んでいまして、いよいよ開戦の(きざ)しだろうということで、葛町に村民全員で避難することになったのですよ。

 それで、ついでですので、挨拶がてら両家で対面してもらおうということになりまして、連れて(まい)った次第です。

 事情が事情なだけに、着の身着のままですみませんが。」


と話した。すると、お兄様は、


「そうでしたが。

 長い道のりでしたでしょうに、お疲れ様でした。

 すすぎを持ってこさせますので、少々お待ち下さい。」


と言って、座敷にひと声かけてから台所の方に行った。

 声をかけた後は、お兄様は厠の方に行くようだ。

 お兄様は、あそこで結構長く妹の帰りを待っていたのかもしれない。


 暫くすると、杉元さんが5つほど段に重ねて(おけ)と手ぬぐいを運んできた。

 杉元さんは、


「すみません。

 すすぎには、こちらをお使い下さい。

 残りも取ってまいります。」


と行って桶を置くと、また台所の方に戻って行った。

 更科さんが、


「まずは、佳央様、お父様、お母様、一兄様、和人がお使い下さい。」


と言った。私は慌てて、


「私は後でいいので、次兄、先にどうぞ。」


と勧めると、次兄は、


「おう。」


と答えた。

 私は肘で更科さんを小突(こづ)くと、更科さんはぺろっと舌を出して、


「うっかりしていました。」


と言った。私は、軽く頭を撫でてから、杉元さんが戻ってくるのを待っていた。

 だが、先にムーちゃんがやってきて、


「キュィッ!」


と鳴いて、更科さんの胸に飛び込んできた。

 じゃれている二人が可愛い。

 私は、隣の竜の里が攻めてきていなければ、もっと安心して見ていられたのになと残念に思ったのだった。


 山上くんが、「庄屋様が蔵出しして施粥(せがゆ)の炊き出しをしてくれる」という話が出てきますが、庄屋様が蔵に年貢米の一部を備蓄しているからというのが背景にあります。

 これは、江戸時代、幕府が各藩に飢饉(ききん)に備えて穀物を備蓄するように命じたというのを、話に取り入れた形となります。

 ちなみに、作中では出てきていませんが、救小屋(すくいごや)も江戸時代からだそうです。


・松平定信

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%9D%BE%E5%B9%B3%E5%AE%9A%E4%BF%A1&oldid=78428942

 「福祉政策」のところ

・救小屋

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%95%91%E5%B0%8F%E5%B1%8B&oldid=69225561


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