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箱の中の手紙に

 私達は、ニコラ様たちを庄屋様のお屋敷まで案内した後、実家に移動した。

 実家の畑を横を通った時、既に人影もなく、(くわ)(すき)などの道具も見当たらないので、恐らく実家に帰ったのだろう。


 実家に着くと、私は土間から入って、さっき実家に寄った時に置いた背負子と荷物を確認した。

 すると、既に荷が(ほど)かれてあったので、中身を確認した後のようだった。


 私は土間から、奥の部屋にいた父に、


「もう、中身を見たのですか?」


と聞いた。しかし父は、


「いや、あれから一度畑で野良仕事をしたが、戻ったら開いてたぞ?」


と返してきた。私は、夕食を作っている母に、


「お母さんが開けたのですか?」


と聞いたのだが、母も、


「いや、知らんね。」


と返事をした後、


「和人が開けたんじゃないんね?」


と聞き返してきた。私は、


「いえ、荷物を降ろしただけですよ。」


と言った。

 今日背負ってきた荷物は箱は1つだけで、宛先も実家宛なので会社の信用問題になることはないが、箱の中を見る前に盗まれたとあっては更科さんの実家に顔向(かおむ)けできない。


 ひとまず、私は箱の中を確認した。

 すると、一通の手紙が残っていた。恐らく、更科さんのお父様からだろう。

 箱の大きさからすると手紙の他にも何か入っていたはずだが、ひとまず更科さんに手紙を読んでもらうことにした。


 私は漢字がほとんど読めないので、更科さんに手紙を渡して、


「佳織、すみませんが、読んでもらってもいいですか?」


とお願いした。更科さんは、


「ええ。

 これ、お父様からね。」


と言って封を開け、中身を読み始めようとしたが、


拝啓(はいけい)・・・というか前文は飛ばすわね。」


と言って最初の(くだり)は読まないようだ。更科さんは、


「えっと。

 『本来は、直接(うかが)うことが筋なれど、距離も遠く、手紙にて失礼する。』

 って、一応、柔らかく書こうとしてはいるみたいだけど、まだ固くて分かりにくいわね。

 ちょっと意訳するね?」


と一言(ことわ)った。私が、


「内容が変わらないなら、大丈夫だと思いますよ。」


と言うと、父も(うなず)いた。

 更科さんは、


「えっと・・・。

 『まず、和人君と我が娘の佳織の結婚に(さい)し、苦言を言っておきたい。

  そもそも結婚というのは、・・・』

 ここも飛ばすわね。

 ようするに、『子供にはちゃんとした結婚の手順を教えるように』ってことね。

 一言で済む話を、長々と書いてあってご免なさいね。」


と苦笑いしながら謝った。父は、


「いや、それはいいが、実家にはすまんことをしたかのぅ。

 だが、こっちでは普通は見合いが尋常(じんじょう)だ。

 (わし)らも、それ以外の手順ははっきり知らんのでな。」


と苦笑していた。私は、


「それにしても、祈祷(きとう)の順番だとか、いろいろとあるではありませんか?」


と聞くと、父は、


「その辺りは、ほら。

 結婚だろうが、葬式だろうが、神主(かんぬし)さんがいいように(はか)らってくれるからな。」


と、冠婚葬祭、何でも神主様の言われるままにやっているだけだと強調した。

 母も頷いているようなので、そういうものなのだろう。


 ここで一兄(いちにい)が戻ってきたので、私は、


「一兄、ここにあった箱の中身を知りませんか?」


と質問した。一兄は、


「和人か。

 暫く、遠出していると聞いていたが、無事で帰ってきて何よりだ。

 箱は、(わい)は今帰ったばかりだから知らんぞ。」


と言った。私もそうではないかと思っていたので、


「すみません。

 一応、声を掛けてみました。

 何か、心当たりとかはありませんか?」


と聞くと、一兄は、


「そう言えば最近、この辺りで蒼目猿の目撃があったようだが、あいつ等が持っていったということはないか?」


と聞いてきた。私は、


「箱には傷跡もありませんし、流石に、箱を開けるほどの頭は無いと思いますから、違うのではないでしょうか。」


と返すと、一兄も、


「それもそうだ。」


と納得したようだった。が、一兄は、


「ところで、そちらの綺麗(きれい)なお嬢様はどなたで?」


と話を変えた。両親も気になっていたようで、頷いている。

 私は、


「こちらは、佳央様と言いまして、」


と言いかけると、佳央様が、


「愛人よ。」


と言葉を重ねてきた。両親も一兄もぎょっとした顔になった。

 私は慌てて、


「違います!

 愛人ではなくて、同居人です!」


と言ったのだが、父が呆然(ぼうぜん)としながらも、


「結婚して間もないのに、もう他の女と同棲(どうせい)しているということか。

 尚、たちが悪くないか?」


と聞いてきた。冷静に考えると、確かにそのとおりである。

 更科さんが、


「そうなの。

 和人ったら、私より、こっちのおっぱいのほうが好きなのよ。」


と火に油を注いできた。母は幾何(いくばく)か冷静だったようで、顔を引きつらせながらも、


「一緒に連れてくるくらいだから、仲はいいんでしょ?」


と更科さんに聞くと、更科さんは、


「はい。

 先日は、実家にもお泊りしましたし。」


と言った。母は、何か事情がありそうだと思ったようだが、父も兄も未だに大混乱である。

 私も、どう説明したら良いか思いつかず、


「佳央様は、竜人様でして。

 そういうのではありません。」


と説明した。またしても、両親も兄もぎょっとした顔になった。

 佳央様は、


「もうネタばらししたのね。

 まぁ、仕方ないか。

 この(あわ)てっぷりだし。」


と言って、竜人化を解いた。

 今、両親と兄の目の前には、佳央様から変化(へんげ)した小さい竜がプカプカと浮いている。

 これには両親も兄も閉口してしまった。

 私は、


「まぁ、こういう事情でして。

 女は妻の佳織だけです。」


と言うと、両親も兄も納得はしたようだったが、血の気は失せているようだった。

 更科さんが、


「その、出来ればこの事は内密でお願いしますね。

 いろいろと騒ぎになりますから。」


と言うと、両親も兄も高速で(うなず)いていた。

 更科さんが、


「続きを読みますね。」


と確認したので、私は、


「すみません。

 お願いします。」


と返した。一兄が、


「何の話だ?」


と聞いてきた。そう言えば、一兄はさっき帰ってきたばかりなので事情を知らない。

 私は、


「今、その箱に入っていた手紙を読んでもらっています。」


と説明したのだが、更科さんから、


「和人?」


と私だけ怒られた。私は一兄もだろうと思ったが、


「すみません。」


と素直に謝った。更科さんは、


「うん。

 じゃぁ、続きを読みますね。」


と言って、手紙の続きを理解(わか)りやすく意訳しながら読んでくれた。

 更科さんは、


「えっと。

 『本来であれば、嫁入り道具としていろいろと持たせたいところだ。

  だが、和人くんから、持ち家もなく道具を置く場所もないと断られてしまった。

  我々がけちっている訳ではないので、そのつもりでいて欲しい。

  あと、既に、赤竜帝が名付けと言って祈祷にあたることもすませているらしい。

  神事も不要だそうだが、村では、お披露目で宴くらいはすると思う。

  両親には、その時に着る羽織と反物を贈るから使ってくれ。

  羽織は和人くんを参考に少し大きめに作った。

  もし体に合わない時は、そっちでお直しをしてくれ。

  あと、着物用に布を2(たん)入れておいた。

  そっちで適当に()ってくれ。』

 って書いてあるわね。」


と言うと、私の方を見て、


「やっぱり、羽織だったみたいね。」


と言った。私も、


「そのようですね。

 でも、そうすると羽織はどこに消えたのでしょうかね。

 あと、反物も見当たりませんでした。」


と不思議に思いながら言った。母が、


「無いものは無いで、仕方ないねぇ。

 とりあえず、御飯も出来たからいかがかね。」


と言って、台所から居間に料理を運び始めた。

 私はそれを手伝おうとすると、更科さんも慌てて、


「私も手伝いますね。」


と言って動き始めた。母が、


「ありがとね。」


と言うと、更科さんは、


「和人のお嫁さんですし。」


と言った。父が、


「うちには娘はおらなんだから、こういうんはえぇなぁ。」


と言うと、母から、


「娘でなくなって悪かったね。」


とチクリと言われて小さくなっていた。

 御飯の配膳(はいぜん)も終わり一息ついたので、私は、


「そう言えば、次兄はあれからどうしていますか?」


と聞いた。すると一兄が、


「ちゃんとポーターとして働いているらしいぞ。

 ただ、この前、『(わい)に似合いそうな短剣があったが金がない』と言ってぼやいていたな。」


と言った。私は、


「いくら位なのでしょうかね。

 兄弟ですし、少しくらいなら手伝いところですが。」


と言うと、更科さんが、


「そういうのは、癖になるから駄目なのよ?」


と言った。そう言えば、前に田中先輩にも似たようなことを言われたので、


「前にそういう話がありましたね。

 兄弟でも、金の貸し借りで刺されることもあるからやっちゃ駄目だってことでしたっけ。」


と言うと、更科さんも、


「うん。」


と頷いた。一兄は感心したように、


「流石、商人のお嬢様だな。

 やはりこの辺りの村娘とは物が違う。

 美人でしっかり者で、和人は幸せ者だな。」


と言った。私は少し照れくさかったが事実なので、


「はい。

 出会いからここまで、何もかも不思議なくらいですよ。」


と言った。更科さんが照れている。


 佳央様が、


<<それにしても、箱の中身よね。>>


と言った。

 だが、確証はないものの、実はもう既に犯人候補は一人しか残っていない。


 次兄である。


 恐らくだが、佳央様と更科さん以外は、次兄を犯人だと考えているだろう。

 なにせ、平村で泥棒にあったという話は、これまで数えるほどしか聞いたことがない。

 だとすると、身内が持っていったと考えるのが自然である。

 私は、折角更科さんのお父様が送ってくれたのに、次兄が短剣を買うために売り払ったのでなければよいのだがと思った。


 更科さんの実家から羽織と、着物を作るのに布が2(たん)送られてきました。

 着物は1反で1着作れると言いますので、2反あれば父、母それぞれ1着ずつ作れます。

 あと、江戸時代のころ、羽織は男性しか着なかったそうなので1着しか入れていません。


 が、例によって時代考証をすると他でおかしなところもあるかと思います。

 ひとまず、お話の中だけということで適当に流してもらえればと思います。(^^;)


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