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ニコラ様に窘(たしな)められた

 今週も1件ブックマークが増えており、ありがとうございました。

 稚拙な文章ですみませんが、今後とも宜しくお願いします。


* 2021/12/04

 誤記を修正しました。


 私は書状を持った蒼目猿を追って、山の中を走っていた。

 流石(さすが)は山に暮らす猿だ。

 私は赤竜帝が行った名付けのおかげでかなり体力も上がっている筈なのだが、岩や木に(さえぎ)られて思うように速度が出ず、離されはしなかったものの、追いつくことも出来なかった。


 目の前に小さい岩があるので横に避けると、書状を持ったのとは別の蒼目猿がその岩に飛び乗ってきた。蒼目猿が


「キィー!」


と悔しそうに鳴いた。

 もし避けていなかったら、その猿は私の背負子に乗っていただろう。そこから攻撃されては、私も分が悪い。


 私は(なお)も蒼目猿を追った。


 暫く追うと、谷が見えてきた。だが、いつも見る谷ではない。

 恐らく、平村の方から流れる支流とはまた別の支流に来てしまったのだろう。

 この谷を超えると、その先には春高山がある筈だが、春高山の山頂らしいものは見えない。

 山に入ると、近くの木や小高い山に(さえぎ)られて、奥の高い山が見えない事はよくある話だ。


 一瞬、魔法を使うとこも考えたが、書状を傷つける訳にも行かない。追いつけない以上、相手が疲れるのを待つしか無いと思い直した。

 向こうは、木から木に飛び移る。

 こちらは、岩を()けながら、せっせと走る。

 この追いかけっこが4半刻(30分)くらい続くと、ようやく蒼目猿は疲れてくれたようで、枝を(つか)(そこ)ねて前の木に激突した。

 猿が木から落ちる、珍しいところが(おが)めてしまった。


 私は、蒼目猿が立ち上がろうとした所で、ようやく追いつくことが出来た。

 辺りを見回すと、さっきまで蒼目猿が握りしめていた書状が(しげ)みの上に落ちていた。


 書状を回収する。


 私は蒼目猿に近づくと、(なた)を取り出し、蒼目猿の皮を剥ぎ取ろうと思った。だが、考えてみれば今は解体しても素材を入れる箱がない。私は解体するのを(あきら)め、


命拾(いのちびろ)いしたな。

 もう、悪さはするなよ。」


と一言かけて、元の場所に戻ろうとした。


 が。


 自分が今いる場所がわからなかった。山で迷子になると、洒落(しゃれ)にならない。

 谷は超えていないので、南に行けば平村に出るか、そうでないとしても山を降りられるはずだ。


 今はニコラ様たちを待たせている状態なので、とにかく早く戻らないといけない。

 私は太陽の位置を確認すると、南に移動を始めた。


 ここには、道はない。


 普通、人が来るようなところではないのだから、仕方がない。

 南に向かいつつ、斜面を登る。尾根までたどり着けば、運が良ければ、その下が見えるはずだ。

 そう思っていたのだが、この期待はすぐに裏切られた。尾根まで登ったものの、周りの木々が高くて山の下の方がどうなっているのか、見ることが出来なかったのだ。

 木と木の隙間から太陽の方向を確認する。

 今度は、南に向かいつつ、斜面を下る。


 暫く走ると、クサイチゴを見つけた。


 何も食べないと、また足が動かなくなると思ったので、一度立ち止まり、いくつか摘んで食べた。

 野いちごには酸っぱいものもあるが、クサイチゴは、それほど酸っぱさはない。

 甘みも十分だったのでもっと食べたかったのだが、(ニコラ様)を待たせているので、また太陽の方向を確認して、山を下り始めた。

 暫く行くと、少し離れた所に蒼目猿がいた。

 本来は出来るだけ間引いたほうが良いのだろうが、持って帰ることも出来ないので、気が付かないふりをして山を下ることにした。

 向こうからも近づいてこなかったので、上手くやり過ごせたようだ。


 暫く走ると、予想外に実家の裏手に出た。


 今まで、実家の裏手で蒼目猿を見かけたことはない。

 最近、狂熊の住処(なわばり)が変わっているようなことを聞いたが、蒼目猿も同じなのかもしれない。

 しかし、こんなに近くまで蒼目猿が来ているということは、ひょっとして実家でも被害を受けているのではないだろうか。私は両親や兄達を心配しつつ、ひとまず実家に行った。

 実家の土間に行くと、今の時間は畑仕事をしているはずの父がいた。

 私は慌てて、


「ただ今戻りました。

 が、すみません。

 今、別の所で人を待たせているので、すぐに戻らないといけません。

 お客さんも()()います。

 すみませんが、今晩泊まりたいので、母に伝えてもらっていいですか?」


と言うと、父は、


「えらい、丁寧な言葉遣いだのぅ。

 和人は町ん人になって、(わし)はすっかり他人みたいだぞ。」


と返した。私は口調を改めて、


「すまん、今、仕事で頭がいっぱいでな。

 急いでるから、また後でな。

 あと、ここに荷物を置いていくから、戻るまで開けんようにな。」

 

とだけ言って、土間からちょっと上がった所に背負子を置き、柄杓(ひしゃく)(かめ)から一口水を(もら)った。そして、両頬を手で叩き、気合を入れ直してから葛町に続く道に駆け出した。


 暫く走ると、偶然、庄屋様が通りかかった。

 私は、


「庄屋様、ご無沙汰しております。」


と声を掛けると、庄屋様も、


「久しいな。

 山上のところの三番目の(せがれ)だったか。

 歩荷の仕事は順調か?」


と聞いてきた。流石、庄屋様である。私みたいなもののことも覚えていてくれたようだ。

 私は急いでいたが、せっかく気遣(きづか)ってくれた庄屋様を(ないがし)ろにするわけには行かないので、


「いろいろとありましたが、お陰様でなんとか。

 社長にも、親切にしていただいています。」


と返事をした。すると、庄屋様は、


「社長に目を掛けてもらっているのか。

 それは、上々。

 そのまま、精を出して頑張るがよかろう。」


(おっしゃ)ってくれた。私は(うれ)しくなって、


「はい。

 これからも精進します。」


と返事をした。そして、ふと手元にある書状を思い出し、


「すみません。

 本当は、他の人を介してお渡しする(はず)でしたが、直接お渡しさせていただきます。

 すみませんが、屋敷でお読み下さい。」


と書状を渡した。そして、


「あと、もう一つあります。

 今は訳あって離れておりますが、ただいま、外国の偉い人を案内しています。

 後で、庄屋様の所にこれとは別の偉い人の書状を(たずさ)えて参られると思いますので、恐縮ですが、ご対応をお願いいたします。」


とお願いした。すると庄屋様は、


「外国の偉い人か。

 それは、呼び止めて悪かったな。

 さっきも走っておったようだし、早う、行くがよかろう。」


と言ってくれた。私は、


「ありがとうございます。

 これにて失礼いたします。」


と言って、庄屋様に一礼して数歩下がってから、また葛町に続く道に駆け出した。


 暫く走ると、更科さんが道案内してくれていたようで、峠の頂上でニコラ様達と合流することが出来た。

 私は、


「大変申し訳ありません。

 蒼目猿が予想以上にすばしっこく、村の反対側まで追いかけておりましたので、すっかり遅くなってしまいました。」


理由(わけ)を話した。ニコラ様は、


「そうか。

 それで、書状は見つかったのか?」


と聞いてくれたので、私は、


「はい。

 それで、途中、偶然庄屋様にお会いしましたので、お渡ししました。」


と言うと、ニコラ様は、


「見つかったのなら良かった。

 それで、荷物の方は?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 実は、書状を取り返した後、山道を駆け下りたのですが、出た先が実家の裏手でしたので、実家に降ろしてきました。」


と説明した。ニコラ様は、


「なるほどな。

 丁度(ちょうど)よかったではないか。

 それなら、そのまま実家で待っていても良かったんだぞ?」


と言った。私は、


「私が道案内を買って出たのに、流石にそれは無責任すぎますから。」


と言うと、久堅さんは、


「いやいや、お前、今、嫌味(いやみ)を言われているんだぞ?

 道案内をほったらかしにして、自分の都合で書状を奪い返しに行っただろ?

 ひょっとして、解っていなかったか?」


と怒ってはいないようだが、(あき)れているようだった。


 よくよく考えると、私は韮崎さんに渡す為の書状を蒼目猿から取り返したつもりだったが、そもそもあの書状は私のことを説明するためのものだ。韮崎さんは厚意で、書状を庄屋様に渡してくれることになったに過ぎない。つまりニコラ様からは、私は自分のために勝手に持ち場を離れてしまったという風に見えたということだろう。

 

 私はしまったと思い、土下座して、


「申し訳ありません。

 気が動転して、何も考えていませんでした。」


と謝った。背中に冷たい汗が流れる。

 ニコラ様は、


「まぁ、無自覚に突っ走ることは、若者にはよくあることだ。

 これからは気をつけろよ?」


(たしな)められた。

 私は、


「はい。

 本当に申し訳ありませんでした。」


ともう一度謝ると、ニコラ様は、


「もう、立て。

 面倒くさい。」


と言って許してくれたようだった。レモンさんが、


「いい勉強になったじゃないか。

 良かったな。」


と言った。私は、これも嫌味で言われたのだろうと思ったので、


「すみません。

 これからは気をつけます。」


と謝った。佳央様は、


<<ここは素直に『はい』と言っておくところよ。>>


と言ったので、私は、


「怒られているのではないのですか?」


と聞き返した。するとレモンさんは、


「いや、違うぞ。

 俺も昔はそうだったからだ。」


と苦笑いした。どうやら、嫌味と思ったのは私の早とちりのようだ。

 更科さんが、そっと私の(ひじ)の辺りを()でてから、


「それじゃ、そろそろ出発しよっか。」


と声を掛けた。しかし私は佳央様を見て、


「えっと、その前に。

 そろそろ、村に入りますが、竜の姿のまま入ると騒ぎになります。

 すみませんが、竜人化してもらってもいいですか?」


とお願いした。佳央様は、


<<分かったわ。

  でも、もっと早く言われるかと思っていたけど。>>


と返事をした。

 そう言えばあの時、『竜人化して付いてきてもらってはどうか』としか話していなかった気がする。私はてっきり、平村に入る時は竜人化して付いてきてもらうものだと思っていたが、どうやら佳央様は、葛町から竜人化すると受け取っていたようだ。更科さんも同じように思ったらしく、


「私は平村に入る前にってつもりで言ったけど、そういえば葛町からとも取れる言い回しになっていたわね。」


と言った。私も、


「私もそのつもりでした。」


と同意すると、韮崎さんは、


「流石夫婦ですね。

 私は、『修行』と言っていましたから、町からだとばかり思っていましたし。」


と納得顔だ。だが、レモンさんが、


「夫婦だから意見が合うというのは、少し夢見過ぎじゃないか?」


と苦笑すると、私の背中をぽんと叩いて、


「これからだな。」


意味深(いみしん)に言われてしまった。


 その後、峠で佳央様に竜人化してもらってから、ニコラ様達を庄屋様の屋敷に送り届けた。

 そして、ニコラ様達と別れた後は、佳央様、更科さんを連れて実家に帰ったのだった。


 言葉足らずで伝わったかは判りませんが、やっている時は正当な理由があるつもりなのに、実は前提が間違っていたってこと、ありますよね。

 山上くんは久堅さんに指摘されてすぐに気がつきましたが、厄介なことにこの手の話は説明されても分からないままということもあります。

 おっさんもこの手ミスをしがちなので、気をつけたいものです。


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