平村への道中
今週も拙作にブックマークされた方がいらっしゃり、ありがとうございました。
ブックマーク数が増えていると、ちょこっとテンションが上がります。(^^)
葛町から平村への道中の殆どは、山道である。
私は先頭を歩いているが、今までの流れからレモンさんがバテるのではないかと心配していた。
だが、思いの外健脚で、特に息が切れている様子もなかった。
更科さんも最初にバテるのはレモンさんだろうと思ったようで、
「レモンさん、大丈夫ですか?」
と声掛けをしていた。レモンさんは、
「このくらいは、大したことがない。
が、どうして韮崎ではなく、俺に聞いたんだ?」
と逆に質問されていた。更科さんは、
「えっと。
・・・私は、山道は苦手なので、仲間がいないかと思いまして。」
と返した。レモンさんは、
「これでも、ニコラ様の護衛兼付き人だぞ?
多少は体を鍛えているから、このくらいはなんともないぞ。」
と答えた。どうやらレモンさんに関しては、取り越し苦労だったようだ。
レモンさんが、
「それよりも、韮崎は大丈夫か?」
と確認した。私は、横山さんや安塚さんが、研究で野外で活動したりすることもあると言っていたので油断していたが、どうやら皆がそういうわけでもなかったようで、やや息を切らせながら、
「今は、あまり喋らせないで下さい。」
と余裕がなさそうだった。私は春高山での山道を思い出し、
「すみません。
横山さんや安塚さんはこれよりも早く登っても平気でしたから、油断していました。
もし厳しいようでしたら、遠慮なくおっしゃって下さい。」
と言った。韮崎さんは、
「田舎の分室で元気に野外調査している人達と、王都で理論を中心に研究している私達と一緒にしないで下さい。
はっきり言って、根本的な体力が違います。」
と少し機嫌が悪そうに言った。それから韮崎さんは息を整える間を置いて、
「でも、それでも一応、ゆっくり登ってくれていたんですよね?
おかげで息を整えれば、なんとか付いていけそうです。」
と返してきた。私は、
「分かりました。」
とは言ったものの、どうやら厳しいようなので、少し歩く速度を緩めた。
いつものおやつ休憩にしている所が近づいたので、
「ここいらで休憩にしますか。」
と声を掛けてから立ち止まった。この辺りは少し広くなっていて、見晴らしも良い。
韮崎さんは、
「私のことなら、まだ大丈夫ですよ。」
と言ったが、私は、
「無理をすると、急に足腰が言うことを聞かなくなるんですよ。
だから、この辺りでいつも甘いものにしています。」
と説明した。韮崎さんは、
「なら、そうしましょうか。」
と言ったものの、早速水筒の水を飲んでいた。
更科さんが、
「韮崎さん、神聖魔法で少し回復させましょうか?」
と聞くと、韮崎さんは、
「いえ、結構です。」
と嫌そうな顔をして言った。私が、
「佳織は細胞だったかが劣化しない回復魔法を使えますから、女性の人にも安心ですよ?」
と言うと、ニコラ様が、
「劣化しないというのは?」
と食いついてきた。私はおやつに羊羹を配りながら、
「その辺りは私は詳しくありませんので、戻ったら蒼竜様にお尋ねすると良いかと思いますよ。」
と言った。後ろでレモンさんが、羊羹を口にして喜びの声を上げていたが、更科さんはそれを無視して、
「それがいいですね。」
と話を続けた。更科さんは、
「詳細は省きますが、回復魔法には、細胞が劣化して老化が進む魔法と、細胞が劣化しない魔法の2種類あります。
その、細胞というのは分かりますか?」
と聞くと、ニコラ様は少し考え、
「・・・cellの事か?
それなら、劣化しないのが普通だろう。
こちらには、cellを劣化させる魔法があるのか?」
と確認していた。更科さんは、
「ハプスニル王国には、細胞を劣化させる回復魔法はないのですか?」
と聞くと、ニコラ様は、
「cellの分裂を促進させて植物を育てる魔法ならあるが、それのことか?」
と聞いた。私は、
「青魔法ですか。」
と言うと、ニコラ様は、
「ああ。
・・・ちょっと待てよ。」
と少し考え、そして、
「なんとなく判ったぞ。
恐らく、ハプスニルでは、disadvantage・・・evolution・・・」
と言葉をつまらせた。どうも、こちらの国の言葉に訳しかねているようだ。
久堅さんが、
「disadvantageとevolutionか?
専門的な話は分からないが、繋げると『不利な進化』と言いたいのか?」
と助け舟を出すと、ニコラ様は、
「おぉ、助かる。」
とお礼を言ってから、
「すまんな。
俺が言いたいのは、『ハプスニルでは、cellを劣化さるような不利な進化はしなかったのだろう』ということだ。」
と言った。更科さんは、
「進化も何も、魔法は個人の感性でいくらでも変わるものと考えていました。
ひょっとして、ハプスニルには同じ魔法が使えるようになる方法があるのですか?」
と聞いていた。ニコラ様は、
「いや、そうでないと、魔法の質がまちまちになるだろうが。
それに、軍の運用においても、決まった魔法がないと使いづらいではないか。」
と言った。更科さんが、
「・・・ということは、定形の魔法が広まっているということですか?」
と聞いた。ニコラ様は当たり前のように、
「それはそうだろう。
いや、なるほど。
無詠唱魔法が定着しているということは、こういう弊害もあるのだな。」
と一人で納得していた。
韮崎さんが、
「その話は私も興味があるところですが、私はもう大丈夫ですので、そろそろ出発しませんか?」
と言ってきた。どうやら、韮崎さんは回復魔法を掛けるまでもなく、自然回復したようだ。
私は、
「では、出発しますか。」
と言って荷物を背負い、また山道を歩き始めた。
もうすぐ小川のところに差し掛かる。
私は、いつもどおりお昼ご飯にすることにした。
「みなさん、この辺りで昼食にしませんか?」
と聞いた。するとニコラ様が、
「少し早いようだが、まぁ、いいか。」
と言った。
空を見ると、いつもよりも日が進んでいない。
どうやら、私は名付けのおかげで思ったよりも早く歩いてしまったようだ。
私は意図せず早く歩いてしまっていたのかと今更気がついたが、そこは黙って脇道に入り、
「こちらです。
そこに水場がありますから、お弁当を食べるにはうってつけなのですよ。」
と説明した。すると、ニコラ様は、
「なるほど、そういう事か。」
と納得していた。
お昼ご飯を食べている時、私は、
「そう言えば佳織、今日の荷物は私の実家宛なのですが、送り主が佳織の実家からなのだそうですよ。
何を送ったか、聞いていませんか?」
と聞いてみた。更科さんは、
「多分だけど、こっちでは私達、まだ結婚式していないじゃない?
だから、それにまつわる何かじゃないかと思うの。
恐らくだけど、先日、お父様が羽織を作らせていたから、それかなぁ。」
と答えた。私は、
「なるほど、そういうことでしたか。
実家では、羽織なんて高価な物ですから正月くらいしか出すこともありません。
ですので、かなり大切にはしていますが、でも、やはり年代物です。
新しいのが貰えるのなら、喜ぶと思いますよ。」
と返した。更科さんは、
「他には思い当たるものもないけど、確かに、何が入っているか気になるわね。」
と言った。私は、実家宛とは言え、後藤先輩に釘を刺されたこともあり、途中で荷を覗くのは止めておいた。
韮崎さんが私に、
「そう言えば、蒼竜様からの書状を預かっていませんでしたか?」
と聞いてきた。私は、
「あ、すみません。
・・・韮崎さんから庄屋様に渡す手筈でしたね。
思わず私が受け取ってしまいました。」
と謝り、仕舞っていた書状を取り出して手渡そうとした。すると、
「ウキィ!」
と後ろから声がした。私は声がしたほうを振り向くと、蒼目猿がいた。
私はまた種で攻撃されるかもしれないと思い身構えたが、そこで手に持っているはずの書状が無くなっていることに気がついた。
更科さんが、
「書状!
あれ!」
と言うのでそっちを見ると、書状を握りしめた別の蒼目猿がいた。
私は、折角書いてもらったのに取り返さないとと思い、久堅さんに、
「すみませんが、ここをお願いします。」
と声を掛け、荷を背負って一目散に蒼目猿を追いかけた。
こうして、森の中、蒼目猿と私の追いかけっこが始まったのだった。
今回、5000文字を超えて二つに割ったので、フラグが回収しきれませんでした。(--;)
一応、蒼目猿はボスに忠実で知能が高い想定です。
今回、一方の猿が声を出して気を引き、別の猿が書状を奪うというコンビネーションを鮮やかに決めました。
が、そもそもなぜ奪ったのはお弁当ではなく書状だったのか。
この伏線は、ありふれた設定かとも思ったのですが、、、来月まで引っ張る予定です。(^^;)