和人の前では禁止!
『魔法の実』の収穫を諦めた後、ニコラ様が、
「山上、協力に感謝する。
俺としては、気になることは大体確認できた。」
と言った。これで私の仕事は一段落したようだと思った。
ニコラ様は、
「いや、待てよ・・・。」
と言って、少し考えた後、
「これがあったか。」
と言った。どうやら、まだ続くようだ。
私は、
「次は何をさせるつもりですか?」
と聞くと、ニコラ様は、
「これから雷魔法を使う。
それを見て、真似をしてもらえないか?」
と言ってきた。私は、
「恐らく、ちょっと見たぐらいでは駄目だと思いますよ。
以前、田中先輩が水を出すところを見ても真似できませんでしたし。」
と返事をしたのだが、ニコラ様は、
「少しだけだ。
やるぞ?」
と言って杖を握ると、私の知らない言葉で何かをブツブツとつぶやきながら魔法を込め始めた。
杖の先に付いた蛇のような飾りの目が仄かに赤く光り、ニコラ様の周りに青白く青い円が現れ、同じく青白い二つの三角形が互いに逆方向に回転し始めた。
金魔法の力がぐんぐんと高まっているが、それだけではない。
水魔法や緑魔法、他にも茶魔法が魔法陣を中心に空に立ち昇っている。
空には、徐々に黒い曇が広がっている。
ニコラ様は、二つの三角形が重なり合った瞬間に、杖で地を叩いた。
と、その瞬間、金魔法が川と空をつなぐと、空から雷が落ちてきた。
落ちた先は勿論、川である。
十数匹、魚がぷかっと浮き上がってきた。
私は、雷は川に落ちないものなので、正直驚いた。
空を見上げると、黒い雲が散っていた。
私は、
「ダメ元です。
試してみますね。」
と言って、さっき見た水魔法や緑魔法、茶魔法を集めて空にどんどん上げていった。
失敗すると思っていたが、案の定、何も起きなかった。
蒼竜様が、
「錬金魔法が足りていないようであるな。」
と言った。どうやら、これには錬金魔法が必要ならしい。私は、
「私は錬金魔法はほとんど見えませんので、これ以上の再現はできそうにありませんね。」
と言ってみたものの、ちょっと悔しいので錬金魔法を加えて空に上げ、雷魔法を集めて、ニコラ様がさっきやったように、川とつないでみた。
すると、意図せず空中でボンッと爆発が起こった。
私や周りの人も驚いたが、ただ爆発しただけで雷は出なかった。
蒼竜様が、
「まぁ、今の山上の理解ではそうなるであろうな。」
と、苦笑いを浮かべていた。ニコラ様は、
「流石に難しかったか。
まぁ、他を試しても似た感じになりそうだし、ここまでだな。」
と言った。私はちょっとムッとしたが、一応、これで開放されるようだった。
私は実地はこれで一段落だろうと思ったのだが、ニコラ様は、今度は佳央様に矛先を変えたようで、
「後は、竜人化についてか。
佳央は、竜人化は出来るのか?」
と言った。佳央様は、
<<出来ないこともないけど、安定しないの。>>
と答えた。ニコラ様は、
「つまり、出来ないということか。」
と断定した。それがイラッときたようで、佳央様は、
<<出来るわよ!
見てなさい!>>
と言って、目を瞑り集中を始めた。雫様が、
「あ〜!
ちょっと待ち!」
と止めようとしたが、佳央様はそのまま竜人化してしまった。
──素っ裸である。
それも、韮崎さんのようにスラッとしていて背が高く、安塚さんのように胸が大きい。
顔も更科さんに似て端正だ。
私は思わず、
「いや、それはいけません。
いや、駄目です。」
と言った。が、口先だけで、手で顔を覆ったものの、指の隙間からしっかり視てしまった。頭では分かっていても止められない。はっきり言って、今の佳央様は私の好みそのものだ。なので仕方が・・・ない。
更科さんは、瞬時に私の行動に気がついたようで、
「駄目!
和人!
後ろ向いて!」
と言ったが、体を後ろの向けつつも、未練で頭はしっかり元の向きだった。更科さんは呆れた顔をしながらも、私の頭を両手でガッチリ掴み、むりやり後ろに向けさせられてしまった。
そして更科さんは、
「佳央様!
それ、和人の前では禁止!
二人きりの時とか、せがまれても絶対やっちゃ駄目だからね!」
と大声で釘を刺していた。
佳央様は、
<<どうして?>>
と確認すると、更科さんは、
「裸のままでいるのは、女の子として恥ずかしいですからね?
そのうち『書き方』をやるために竜人化が必要といった話をしていましたが、別の姿になれませんか?
駄目でも、せめてすぐに服を着て下さい。」
と注意はしているものの、どうも混乱しているようだ。雫様が、
「服は別の姿でも、すぐ着なあかんやろ。」
とつっこみをいれた。そして、
「でも、姿はしゃーないんやで?
うちも安定せんかったころ、目の前におる奴の姿にようなっとったしな。」
と付け加えた。私は、
「そこまで目くじらを立てなくても・・・」
と言おうとしたが、途中で更科さんに、
「和人は黙ってて。」
と凄く静かに怒られた。私は背筋がゾクッとしたので思わず背筋を伸ばし、
「スミマセン!」
と最敬礼で謝ってしまった。この迫力、『黒竜の威嚇』並ではないだろうか。
佳央様が、
「佳織がそう言うなら、仕方ないわね。」
と流暢に話してから、また竜の姿に戻った。
ニコラ様は、
「なるほどな。
実に面白いものを見せてもらった。」
と言ったので、韮崎さんが、
「ニコラ様もですか。
本当に、男の人は・・・。」
と言ったが、ニコラ様は、
「韮崎、何を想像したんだ?
俺が言ったのは、体が変化する時の魔力の流れとかそういうやつのことだぞ。」
と反論した。韮崎さんは、
「・・・そうでしたか。
すみません。」
と謝った。ニコラ様は、
「まぁ、本来であれば、もう二〜三十回くらいは変化して魔力の流れを確認したいところではあるがな。」
と付け加えつつ佳央様に視線を送ったのだが、佳央様からは、
<<それは嫌よ。
疲れるもの。>>
と拒否されていた。
雫様が佳央様に、
「そういえば、今回、何を参考に竜人化したんや?」
と質問した。すると佳央様は、
<<さっき、山上がじっくり見てた先を参考にしたの。>>
と言った。どうりで、私の好みの姿のはずである。
だが、更科さんは白い目で、
「ふ〜ん、やっぱり。」
と言っていたので、私は話題を変えようと思った。
自然な流れになる話題は無いか。
私はそう考えながら、さっきの竜人化した佳央様を思い出していた。裸は・・・さておき、佳央様が竜人化した時、明らかに体積が大きくなっていた。それも、更科さんの身長のよりも2〜3寸くらい高かった。だが、今の竜の姿では、だいたい15寸程しか無い。
私は丁度いい話題が見つかったと思い、早速、
「ところで佳央様は竜人化した時、大きくなったように見えたのですが、どうやったのですか?」
と聞いた。佳央様は、
<<そういえばそうね。>>
と無意識だったようだ。
皆の視線が蒼竜様に集まる。
蒼竜様は、
「竜人化する時、体を小さく出来ることは皆も知っておろう?
逆に大きく出来ない道理もないのだ。
戦の時などで、わざと大型の竜となって威嚇することもある。」
と言った。ニコラ様が、
「蒼竜、それでは、1撃が軽くならないか?
むしろ、弱くなるように感じるが。」
と指摘した。蒼竜様は、
「そのとおりである。
故に、竜人化をして戦うのだ。
そうすれば一撃も重くなるし、武器が扱いやすいという利点もある。」
と説明した。雫様が、
「あ、付け加えとくけどな。
名乗りを上げる時は巨大竜化して、戦う時は竜人化するんやで。
名乗りの時は、やっぱり大きい竜のほうが見栄えもええしな。」
と言った。ニコラ様は、
「確かに、威嚇だの名乗りだの、そういう時は大きい方がいいか。」
と納得したようだった。蒼竜様が、
「伝統でもある。」
と付け加えた。
ニコラ様が、
「なるほど。
ハプスニルでも似たような伝統があるぞ。」
と言った。横山さんが、
「どのような伝統ですか?」
と聞くと、ニコラ様は、
「やはり、こちらと同じく、貴族同士で軍を衝突させる時に名乗りを上げるんだがな。
その時、自分がどれだけ大きな存在か示すために、魔法やら武術の型の披露やらをするのだ。
無駄に雷を落としたり、火球を爆発させたり、なかなか派手で面白いぞ。
黙って、闇討ちにでもすればいいだろうと思うがな。」
と答えた。最後の一言はどうかと思うが、その名乗りというのは安全に見ることが出来るのなら見てみたいものだ。
蒼竜様が、
「闇討ちは卑怯であろう。」
と言うと、ニコラ様は、
「名乗りなぞ上げて力を誇示した所で、相手を倒せるわけでもないしな。
そもそも、魔力の無駄だろうが。
無駄に伝統になっているから、これからも無くなりはしないだろうよ。
効率を考えれば、闇討ちが一番だしな。」
と言った。相変わらず最後の一言は余計だ。蒼竜様は少し考え、
「・・・なるほど、そういうことか。
こちらの名乗りは、声のみで行うゆえ魔力消費も微々たるものだが、派手に力を使うのであれば無駄であろうな。
だが、しかし闇討ちはいかぬ。
道理が立たぬではないか。」
と全部は納得しなかったようだ。寧ろ闇討ちの件は、納得できないほうが道理だ。
しかしニコラ様は、
「劣勢で奇襲が許されるのであれば、平時でも許されるべきと思うが違うか?」
と言った。即座に蒼竜様は、
「いや、劣勢であっても卑怯であろう。」
と言った。安塚さんが、
「『正々堂々』という言葉自体、強い側の論理なのよね。
で、奇襲も勝てば、後から正当化される事もあるのよね。」
と言った。ニコラ様は、
「『正々堂々』ということ自体が強い者の論理か。
それは一理あるな。
だが、俺が言いたいのは少し違うぞ。
奇襲のほうが、こちらの被害が少なくなる場合が多い。
それに、魔獣と戦う時も名乗りは上げないだろ?
あれと同じだ。」
と言った。私は人間同士の戦いは分からなかったが、魔獣と戦う時と同じと言われると、その通りだと思った。蒼竜様は、
「ふむ・・・。
しかし、人間は魔獣ではないゆえ、礼儀は尽くしたほうが後腐れもなかろう。
そのための名乗りでもある。」
と言ったものの、さっきとは違って、ニコラ様に論破されかかっているようにも見えた。
私は、
「どちらにも一理あるということですね。」
と言うと、横山さんが、
「人間同士の戦争では、嘘の情報を流したりもするそうじゃない。
今更、伝統だからって名乗った所で正当性がどうのとか言うのは、もう焼け石に水なんじゃない?」
と言った。蒼竜様は、
「ふむ・・・。
伝統だからやっているだけ・・・。
なるほど。
この先も『そういう伝統だから』と言って名乗りを上げ続けるのであろうな。
そうせねば、後に戦の正当性を指摘されてごたつくであろうしな。」
と話した。さっきも似たようなことを言っていたので、この場での意見はこんなところなのだろう。
ニコラ様は、
「やはりそうなるだろ?。
だから、俺もこの先も無くならないだろうと思っているぞ。」
と言った。蒼竜様は、
「ふむ。
闇討ちは納得行かぬが、他は、なかなか面白い議論だった。」
と言った。
ここで安塚さんが、
「そろそろお昼にしませんか?」
と提案した。
皆、空を見上げて納得したようだ。
蒼竜様が、
「では、そうするか。」
と言って、まずは皆で田中先輩たちが昼寝をする木陰に移動したのだった。
本文中で「雷は川に落ちない」とありますが、山上くんの経験上の話だけです。
山を流れる川は狭いので、近くの木や岩のように水面よりも高い所があるので、雷はそっちに落ちる確率が高いというだけの話で、実際には、川にも落ちることもあるそうです。
なお、川というか湖になるのですが、世界にはカタトゥンボ川の河口上空のような落雷多発地帯もあるそうです。
・カタトゥンボの雷
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あと、レモンさん、二日酔いが辛くて結局午前中はずっとダウンしていました。
あれは結構辛いので、皆様もお酒を飲む時は、飲み過ぎには気をつけましょう。(~~;)
※まだ二十歳になっていない人は、二十歳になった後の話となりますが。